be yourself
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R-18

「神谷さん…本当に俺のことが好き?」
「うん、好き」

そう言って、藍はほんのり頬をピンク色に染めながら笠原の胸に顔を埋めた。
痩せていると思っていたけれど、案外大きな胸に藍のことをしっかりと抱きしめている腕は力強い。
藍の言葉が信じられなくて笠原はもう一度聞き直してしまったけれど、やはり返ってくる言葉は笠原にとってこれ以上ないくらい嬉しい言葉。

「俺も好きだよ」

何度この言葉を言っても唇を合わせても足りないくらい愛しい存在になったのは、いつからだったのだろう。
二人は暫くの間、何も言わずに抱き合ったままだった。
ただ、お互いの触れ合ったところから言葉にならない熱い想いだけが行き来する。
しかし、笠原も男である、この状況は非常にマズイ。

「ごめん、神谷さん。俺、このままだと神谷さんのことを押し倒してしまいそうだから」

笠原は名残惜しい気持ちをグっと抑え、胸の中にいる藍の身体を起こして離れようとするが、どうしたことか藍がそれを拒んだ。

「神谷さん?」

俯いたままで表情の見えない藍の顔を笠原は覗き込むようにして見ようとした時、ふと藍が顔を上げて言った。

「いいの。笠原がそうしたいなら」
「え?」

藍にはどうしてそんな大胆な言葉が自分の口から出たのかはわからなかったが、笠原にならこの場でそうされてもいいと思った。

「あのなぁ。そんなこと言われたら、その気になっちゃうぞ?」

冗談かもしれないと、笠原はワザとおチャらけるような言い方をしてみた。
と言っても藍の目を見れば、それは真剣な気持ちで言っているのだとはわかっていたのだが…。

「笠原になら、構わない」
「神谷さん…」
「藍って、呼んで」

熱いまなざしでそんなふうに言われて、いつもは冷静な笠原の理性も一瞬にしてどこかに吹っ飛んでしまっていた。

「藍、ベッド行こうか」

さすがにこの硬い床の上ではと思い、藍を抱き上げると隣の寝室にしている部屋へと移動した。
藍は170cmはある長身であったが、笠原が抱き上げて思ったのは思いの外、きゃしゃで軽いということだった。
部屋に入ると藍をゆっくりと足から下ろして、ベッドの縁に腰掛けさせる。
笠原は膝立ちで前屈みになって藍の両脇に手をつくと、触れるだけのキスをおとす。

「智之」

至近距離で見詰め合っていると、藍が智之の頬に両手を沿えて彼の名を呼ぶ。
ずっと笠原と呼ばれていたのがある意味自然だったし、それが二人の間の関係を物語っていたが、今それが取り払われ、愛しい相手に名前を呼ばれるだけで、自分が特別な存在に思えてくるから不思議なものだ。
今度は、藍から智之の唇に自分の唇を押し当てた。
何度も何度も啄ばむようなキスに智之も耐え切れず、藍をベッドに押し倒すと、さっきとは違う深い部分に智之の舌が藍の舌を絡めとる。

「あっ…」

思わず、藍の口から吐息が漏れた。
自慢じゃないが何人もの男性と関係を持ったことがある藍だったし、こういうことは既に慣れていると思っていたが、どうも智之が相手だと勝手が違う。
体中が燃えるように熱く、胸の奥が欲望の渦に飲み込まれた。
これは、本当に心から愛した相手だからなのだろうか?
そんなことを考えていると、智之の手が知らぬ間に藍のブラウスのボタンを全て外してしまっていた。
そして、背中に回された手によってあっけなくブラのホックも外される。
───ちょっと、智之ったら上手過ぎじゃない?
などと思っていると唐突に耳に吐息を掛けられて甘噛みさされ、「ひゃっ」藍は突拍子もない声を上げた。

「藍、ここ弱いのか?」
「ちっ違う。あぁっん」

藍はとんでもなく余裕がないのに、なんだか智之だけが妙に冷静で負けず嫌いの性格も伴ってちっとも面白くない。

「智之、なんだか慣れてる」
「そんなことないさ。全く余裕がない」

あまりに藍が綺麗で、智之自身も理性を失いかけていた。
男なら誰もが一目で魅了される彼女が、今は自分の腕の中で全てをさらけ出そうとしているのだから、正気でいられる方がおかしいだろう
智之の唇が藍の首筋を這って胸元までいくと、ほんの少しだったがチクっとした痛みが走る。
本能的に藍が自分のモノだという印を残したくて、シルクのように艶やかで白い肌にいくつかの赤い薔薇の花を咲かせた。
男という生き物は全くもって単細胞だから、彼女からこの印がいつまでも消えなければいいのにと願わずにはいられない…。

「ごめん、痛かった?」
「ううん。平気」

もう一度、「ごめん」智之は自分の付けた印の上にキスを落としていく。
形のいい膨らみの頂は既に固くなり、つんと上を向いていた。
十代の頃、ただ異性への興味から見たグラビアモデルも霞んで見えるほど、彼女は美しいし、何もかもが甘く、そして狂おしいくらいにいい香りがした。
早く体を合わせたい、彼女の中に包まれたら。
智之の余裕のなさは更に拍車を掛けたようで、情けないほどにネクタイを解く指がもつれ上手く外せない。
さっきはあんなに簡単に彼女が身に付けていたものを取り除けたのに。
見かねた藍が何も言わずに彼の手に自分の手を添えた。
柔らかくて優しい温もりに智之は我に返ると、スルリとネクタイを引き抜いてシャツを脱ぎ捨てた。
脱いだらすごいんです。ではないが、彼の体は思った以上に引き締まり、無駄な贅肉はどこにも見当たらない。
女性に体を見つめられることに慣れていない、いや慣れた男などほとんどいないとは思うが、これはかなり恥ずかしいものだ。

「あんまり見ないでくれよ」
「だってぇ、すごいもん。惚れ惚れしちゃう」

惚れ惚れしちゃうって…。
これは喜ぶべきなのか、喜ばざるべきなのか。
それより、彼女のとろんとした瞳の方が、よっぽど刺激的だろう。
彼女がそっと指を滑らせると智之の下腹部がうずき始め、隠すこともなく全てを脱ぎ捨て愛しい人と重なり合った。
殺風景なベッドルームが、南の島のゴージャスなリゾートホテルのスィートルームに思え、上り詰めた先にあるものが二人だけの楽園に変わる。
我を忘れて藍の全てを味わい尽くすと心の中で『君は僕だけのモノだ』と叫び究極の中に自身を埋め、智之は身も心も解放された。

「大丈夫?」

汗で張り付いた藍の前髪を智之は優しく指で払う。
まだ、息が荒いせいか、頷くのが精一杯の藍の口からは言葉が上手く出てこない。
ただ言えるのは、体だけでなく本当の意味で心も繋がったような気がしたことと、溢れる想いで満たされているということ。

「キスして智之。好きって言って」

智之の首に腕を回し、微笑みながらおねだりする藍に向かって「喜んで。でも、その先の保障はしないよ?」智之は笑いながら言う。

「臨むところ」
「言ったな。絶対、放さないから覚悟して」

智之は藍の要求通りキスの雨を降らし、心から「好きだよ」と告げる。
何度でも。


END


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※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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