「…っぁん…やぁ…っん…りょ…や…」
遼哉にバックから攻められて、憂はいつもより甘美な声を出してしまう。
あの日、意外な事件によって結ばれた二人だったが、週末になると憂は遼哉の家に泊まり甘い夜を過ごしていた。
そして、今夜はいつになく遼哉の激しい行為に憂は、もう付いていくだけで精一杯。
「憂、どこがいいの?ここ?」
「んっ…そん…なっ…っぁ…んっ…」
「ほら、ちゃんと言ってくれないとわからないよ?」
憂の弱いところを知っていながら、遼哉はワザとイジワルな言い方をする。
「…っん…そ…こ…」
「ん?ここ?」
「…っあぁぁぁ…んっ…」
その瞬間、憂は呆気なくイかされてしまったが、これだけで遼哉が満足するはずがない。
ぐったりと前にいうつ伏せている憂をまだ繋がったままの状態で、遼哉は抱き起こして向かい合わせになる。
遼哉は汗で額に張り付いた憂の前髪を丁寧に払いながら、両手を頬にそえて至近距離で目と目を合わせた。
「憂、愛してるよ」
「…あたしも…愛してる、遼哉」
遼哉は普段でも平気でこういう言葉を口にするが、素直じゃない憂はこの時だけ自分の気持ちを言うことができた。
「憂」
もう一度、遼哉は憂の名を呼ぶと深くくちづける。
舌を絡め合い、それだけで再び遼哉のモノはさっきよりも力強さを増し、そのままの体勢で憂の腰を引き寄せた。
「…っっんっ…」
口を塞がれていて憂は声にならない声をあげたが、お構いなしで遼哉は腰の動きをより一層早める。
「憂、見て。俺達、ひとつになってるんだよ」
「…そ…んな…は…ず…か…しい…っん…あっ…」
もう我慢の限界にきていた遼哉は、勢いよく憂を後ろに押し倒すと一気に最奥まで攻め立てた。
これでは憂を壊してしまうかもしれないとわかってはいたが、遼哉は一度身体を合わせてしまうともうやめられなかった。
「…っあぁぁぁっ…りょ…や…イっちゃうっ…」
「…俺…も…」
遼哉は憂に覆い被さるようにして、二人同時に果てた。
◇
遼哉は思っていたのと全然違ってて、ものすごくマメで料理も上手いし掃除だって洗濯だってなんでもこなしてしまう。
あたしが手を出す隙なんて、全くないんだから。
と言うより『俺がやるからいいよ』って、お姫様扱いよ?あの俺様の遼哉が…ほんと信じられないわ。
会社での遼哉しか知らない人が見たら、腰を抜かすかもしれないわね。
あたしだって、初めはびっくりしたもの。
でも、今はもう慣れちゃったけど。
それにこっちが恥ずかしくなるくらいの甘い言葉を吐くし、部屋に一緒にいる時はいっつもべったりとあたしに引っ付いて離れない。
そして、今もあたしはソファーに座っている遼哉の膝の上に乗せられているんだけれどね。
「ねぇ、あたしがこうしていると重いでしょ?」
「そんなことないよ。憂は軽すぎ、結構食べるのにな」
あたしは遠まわしにこの状態をなんとかやめさせようと言ってるんだけど、遼哉はまったくその気がない様子。
こんなの恥ずかしすぎて、あたしの身が持たないってのに…。
そうだ!コーヒー入れよう。
そうすれば、離れられるものね。
「どうした?」
立ち上がろうとすると遼哉に制された。
「うん、コーヒー入れようと思って」
「それなら、俺が入れる。憂は、ここに座ってて」
あたしをソファーに残したままキッチンに行こうとする遼哉の腕を掴んで、ソファーに引き戻す。
「ん?」
「もうっ!遼哉は、どうして全部やっちゃうの?あたしだって、それくらいできるわよ」
遼哉みたいには美味しく入れられないかもしれないけど、コーヒーくらい女のあたしが入れてあげたいじゃない。
「俺は、憂ができないって思ってるわけじゃないんだ。ただ、憂は俺が入れたカフェラテを美味しいって言ってくれるから、それが嬉しくてつい。ごめんな」
こんな言い方されたら、何も言えなくなっちゃうじゃない。
「ううん、遼哉の入れてくれるカフェラテすっごく美味しいもの。でもね、美味しくないかもしれないけど一回くらいあたしにも遼哉のためにコーヒー入れさせてくれる?」
今までの遼哉は、相手のために何かをするなどということは到底考えられないし、かと言って人に過剰に何かをされるのも好まない。
そんな遼哉がカフェラテを入れたり、料理を作ったりするのは、憂の笑顔が見たい、ただそれだけだった。
遼哉のために…その言葉がどれだけ彼を喜ばせているのか、憂にはちっともわかっていない。
「あぁ、いいよ」
「うん」
あたしは、立ち上がるとキッチンへ向かう。
いつも、家ではコーヒーメーカーを使っているけど、今日はドリップで入れてみる。
遼哉が、美味しいって言ってくれるといいんだけれどね。
「いい匂い」
対面式のキッチンから顔を覗かせると遼哉が、こっちを向いて言った。
「そう?」
匂いだけはいいんだけど、問題は味よね?
つい最近買ったお揃いのALESSIのマグカップに入れたばかりのコーヒーを注ぎ、トレーに載せてローテーブルまで運ぶ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
あたしはフローリングの床に座って、ソファーに座っている遼哉を見上げるようにして様子を伺う。
「美味しいよ」
「本当?」
お世辞でもそう言ってくれるとすごく嬉しい。
きっと遼哉も同じ気持ちだったんだと思う。
こんな顔されたら、また入れてあげようって気になるものね。
あたしも自分のマグカップに口をつける。
好きなのはカフェラテだけど、たまにはブラックもいいものだわ。
「あっ、そうだ。今度の土曜日なんだけど、愛香と出掛けてもいい?」
「え?」
遼哉の顔が曇ったのが、表情でわかる。
付き合うようになってから、週末はほとんどと言っていいほど遼哉の家で過ごしていたから。
でも、何かあったかしら?
「ダメ?」
「ダメじゃないけど…」
なんだか歯切れの悪い返事が妙に気になるが、特に遼哉と約束をしていたわけではないし…。
「その日、何かあるの?」
「何もないけど、土曜日に出掛けるってことは金曜日は来ないってことだろう?」
「そう…なるかな、それが?」
土曜日は、愛香と最近できたというショッピングセンターに行ってみようということになった。
こういう買い物って、彼氏と行くよりも女同士の方が気楽でいいしね。
愛香の旦那さんもその日は出掛ける用事があるとかで、ちょうどいいかなって思ったんだけど。
いつも金曜日の夜から遼哉の家に泊まっていたけど、土曜日に出掛けるとなると遼哉の言うように来れないわね。
だって、遼哉ったらすごいんだもの絶対次の日起きられないに決まってる。
「憂が来るのが当たり前って思ってるから、それが来ないってなると寂しいなって…」
これが、遼哉の本音だった。
会社では部が違うからほとんど顔を合わせることがないし、平日は電話でしか話せない。
ゆっくり顔を見ながら話ができるのは週末だけで、遼哉にはそれが待ち遠しくて仕方がなかったのだ。
「だったら、たまには矢野くんとどこかへ行ってみたら?」
「はぁ?なんで好き好んで浩介なんかと休みの日まで一緒にいなきゃなんないんだ」
「いいじゃない、男同士の積もる話もあるでしょ?」
「ないよ、そんなの」
ぷいっと膨れっ面の遼哉。
あちゃー、拗ねちゃった?
「土曜日はそんなに遅くならないようにするから。金曜日の夜はここに泊まっていい?」
遼哉の顔が、ぱっと明るくなったのがわかる。
あたしはわかりやすいって言うけど、遼哉の方がそうだと思うわ。
「ごめん、俺の我侭ってわかってるんだけど…」
あたしは、遼哉の隣に腰掛けると肩に頭を凭れるようにして寄りかかる。
一緒にいたいって気持ちはあたしも一緒だけど、同じように愛香とも一緒にいたいって思うのは女と男とでは違うのだろうか?
「ううん、そんなことない。遼哉が我慢したりする方が、あたしは嫌だから」
「憂」
遼哉は、あたしの肩に手を回すと自分の胸に抱き寄せた。
+++
「ごめんね、遅くなって」
「あたしも今来たところだから」
土曜日の午前中、愛香とあたしは最近できた話題のショッピングセンターに来ていた。
遼哉がなかなか離してくれなくて、危うく遅刻するところだったわ。
ここのところずっと休みの日は遼哉と一緒だったから、女の買い物につき合わせるのも気が引けて新しい洋服も全然買っていなかった。
だから今日はすごく楽しみにしていたんだけど、遼哉にあんな風に言われてちょっと気が引けた。
それでもこうやって外に出てしまうとすっかり調子に乗って片っ端からお店を覗くと、今までのうっぷん(なんの?!)を晴らすかのようにあたしは買い物しまくった。
そしてランチを食べに人気のイタリアンのお店に入った。
外食も久しぶりなのよね。
愛香はトマトの冷製パスタ、あたしはサーモンとほうれん草のクリームパスタ、ついでにお昼だけど、ワインも頼んだりしてね。
「すっごく買っちゃった」
「憂、すごいね。なに欲求不満?」
「そうじゃないけど、買い物するの久しぶりでつい買いすぎちゃった」
「篠島くんは、買い物とか付き合ってくれないの?」
「わかんない。そういうこと言ったことないから」
「どうして?案外嫌がらずに付いてきてくれそうじゃない」
本当は買い物に行きたいって言えば、彼は何も言わずに付いてきてくれると思うんだけどね。
だけどなんか甘えられないのよ。
これは性格だからしょうがないのかもしれないけどね。
「そうかもしれないけどね」
「でもさ、想像できないのよね。篠島くんと憂がラブラブなところなんて」
ラブラブとか言わないでよ、恥ずかしいじゃない。
確かにね、会社での遼哉とあたしは今までと全く変わらないから、本当に付き合ってるのか?とか疑われているみたいだし、それが実際は・・・・知ったらきっと驚くわよね。
「ラブラブって…」
「まさか二人っきりの時もあんな風に言い合ってるんじゃないでしょうね」
「それはないけど、多分誰も想像つかないと思うわ。現にあたしも初めは驚きの連続だったから」
「へぇ、篠島くんって憂の前ではどうなの?」
「聞きたい?」
「聞きたいっ!」
愛香は目を輝かせながら、興味津々で聞いてくる。
あの遼哉の私生活を知りたいって気持ちは、あたしにもわかるけどね。
「まずね、すっごく料理が上手いの。それだけじゃなくてとにかくマメで、あたしがやろうとしても俺がやるからって」
「そうなの?あの篠島くんが?」
愛香は『やっぱり想像つかないわ』って、首を傾げてる。
だけどこれは本当のことだからね。
「そうよ、もうあたしがすることなんて何もないんだから。それにね、今日も愛香と出掛けるって言ったらちょっと拗ねちゃって」
「うそ…」
よね?
あたしだってまさか愛香と出掛けるってだけで、拗ねるとは思わなかったもの。
「あの篠島くんがねぇ、でもなんかわかる気がするかも」
「え?」
「憂って男女問わず人気があるから、きっと嫉妬してるのよ」
「嫉妬?遼哉が愛香に?」
相手が男ならともかく、女の愛香に嫉妬してどうするのよ。
大体、あたしなんてそんなに人気があるとも思えないしねぇ。
「そう。だって憂、目茶目茶可愛いし誰にでも優しいから、篠島くん気が気じゃないと思うけど」
「はぁ?なにそれ」
あたしのどこが可愛いのよ、まあそれはともかくとして遼哉以外の人には優しく接するようにはしていたけど。
「そういう天然なところが心配なのよ」
「天然って…意味わかんないけど」
「あ〜ぁ、篠島くんも大変ね。こんな無防備な彼女をもって」
無防備ってなに?あたしは普通だと思うんだけど。
「だからね、今日は少し早めに帰ってもいい?」
「どうぞどうぞ。篠島くん首を長くして、憂の帰りを待ってるでしょうからね」
愛香は、パスタを食べながら熱い熱いって手をヒラヒラさせている。
「その言い方、なんか引っかかる〜」
「だって、憂と篠島くん可愛いんだもの」
「可愛いってねぇ」
愛香は憂から遼哉との話を聞いて、とても微笑ましいと思えた。
会社ではいっつも言い合ってて、それも見ていて面白かったが、付き合っている二人の実態は超甘甘だったとは…それも遼哉が憂にゾッコンだと言うことも。
「でもね、たまにどうしていいかわからない時があるの。あたしもなにかしてあげたいのにって」
あたしだって、遼哉のために色んなことをしてあげたいって思うのにそれがなかなかできなくて、甘えてばかり。
「いいじゃない、あの篠島くんをメロメロにさせられるのは憂だけなんだよ?」
「そんなこと…」
そんなことないと思うんだけど…。
「あ〜でも見てみた〜い、篠島くんのメロメロな姿」
「見なくていい!」
あんなの絶対他人になんか見せられないわよ。
でも人は見かけによらないっていうのは本当ね。
そうだ、家でお留守番してる遼哉にもなにか買っていってあげよう。
あたしったら、なんだかんだ言って遼哉には甘いのよね。
なんて思いながら、頭の中ではネクタイにしようかなとかシャツがいいかしら?なんて考えてしまう。
遼哉があたしにメロメロなんじゃなくて、あたしが遼哉にメロメロなのかも…。
「あっ、愛香ごめん。遼哉から電話」
早く帰るなんて言ってたけど、女同士が話し出したらすぐになんてやめられない。
あっという間に時間が過ぎて、時計を見れば結構な時間になっていた。
「もしもし、遼哉?」
『ごめん、電話して。今どこ?』
「まだショッピングセンターにいるけど、遅くなってごめんね。もうじき帰るから」
『いやいいんだけど。だったら、そっちまで迎えに行こうと思って』
「そんなのいいよ」
『どうせ憂のことだから、たくさん買い物したんだろう?』
「え…」
どうしてわかっちゃったのかしら?
まるで近くで見ていたみたいじゃない。
『あはは、憂はわかりやすいな。30分くらいで着くと思うから、待ってて。村上さんも送っていくから』
「わかった、じゃあ待ってるね」
電話を切って、暫く携帯を見つめていると愛香がニヤニヤと覗き込んできた。
「篠島くんからのラヴコール?」
「そんなんじゃないけど、どうせたくさん買い物したんだろうから車で迎えに来るって。愛香も送ってくから乗っていかない?」
「へぇ、篠島くんがねぇ。あたしが一緒じゃお邪魔じゃない?」
「そんなことないわよ」
愛香はあたし達のやり取りを面白がってるとしか思えない。
まあ仕方ないけどね。
だってあの俺様の遼哉が、自分から迎えにくるなんて…。
30分ほどして遼哉の車があたし達の前に止まる。
彼の車は、SAAB 9−5 Estate。
あたしはこれを見た時、遼哉らしいなって思った。
だってありきたりな日本車じゃ似合わないし、かと言って外国車のすごいスポーツカーにでも乗ろうものなら、これまたはまりすぎだもんね。
ウィンドウを開けるとサングラスを掛けた遼哉が手招きする。
「うわぁっ。篠島くんって、同じ人種とは思えな〜い」
愛香の第一声にあたしは、思わず噴出した。
確かにそうだわね。
傍から見ればモデルかなにかにしか見えないものね。
そんな彼と同じ会社に勤めてて、なんて誰が想像できるだろうか?
「なんだよ、村上さん。それじゃあ、まるで俺が宇宙人みたいな言い方だな」
「まぁ、ある意味そんなものかもね」
「憂まで…」
彼は苦笑しながら、車を降りると愛香とあたしが両手に一杯持っている荷物をトランクに積み込む。
「しっかし、買いこんだな」
遼哉もさすがにこの荷物の量には驚いた。
どうしたらこんなに買い物ができるのか…。
「だって、欲しいものがたくさんあったんだもん。ねぇ愛香」
「そうよ。それは篠島くんが、週末憂を離してあげないからいけないんでしょ」
遼哉には愛香の言った意味がすぐには理解できなかったが、思い返してみれば休みの日にほとんど外に出掛けたことはなかった。
まさしく愛香の言う通り、遼哉が憂を離さなかったからなのだが…。
「あぁ、全部俺が悪いんだよな」
女性二人にやり込められるとさすがの遼哉でも太刀打ちできない。
ここは、大人しく非を認めるのが懸命だろう。
愛香と憂を後部座席に座らせて、これじゃあ俺はお嬢様方のお抱え運転手だななどと思いながら車を走らせた。
散々話をしたであろう二人だったが、車の中でもずっと話しっぱなしだった。
半端じゃない買い物の量といい話好きといい、まったく女はすごいとしか思えない。
バックミラー越しに自分の前で見せるのとは少し違う憂の笑顔を見て、たまには外に連れて行ってあげようかなと思う遼哉だった。
END
← お話を気に入っていただけましたら、ポちっと押していただけるともしかして…。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
誤字が多く、お見苦しい点お詫び申し上げます。お気付きの際はお手数ですが、下記ボタンよりご報告いただければ幸いです。
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