ASPHALT☆LADY
BEST FRIENDS
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R-18

会社帰りに憂と待ち合わせをしていた遼哉だったが、まだ時間には少し早いよう。
そんな時、見知った顔と目が合った。

「よう、遼哉。こんなところで会うなんて、珍しいな」
「あぁ、ちょっと待ち合わせしてんだよ。真は、今帰りか?」

久しぶりに対面したのは、高校時代からの親友である中本 真(なかもと まこと)。
この駅の近くの会社に勤めていると前々から聞いてはいたが、こんなふうに会うのは今日が初めてだった。

「待ち合わせって、彼女か?」
「まぁな」

少し照れたように言う遼哉が、なんだか今までの彼と少し違って見えたのは気のせいだろうか?

「なんだよ。お前は、相変わらずモテモテだな」
「その言葉、そっくりお前に返すけどな」

真は遼哉ほどではないが背も高く、均整のとれた体に甘いマスクで昔からよくモテた。
なのに真面目というかなんというか、絶対遊びで女性と付き合ったりしない。
ただ外見がそう見えるせいか、どうも相手にはそう思われていないところもあって、なかなか想いが伝わらないようだ。
遼哉から見ても本当にいい奴だったから、早くいい相手が見つかるといいのだが…。

「今度の彼女は、どんな子なんだ?」

真と違って学生時代は派手に女性と付き合っていた遼哉だったから、今度のなどという言葉が頭についたのだろうけれど、後にも先にも憂しかいないのに。

「素直じゃなくて強がってばかりいるんだけど、人の世話ばっか焼いてて、すっごく可愛いのに全然自分のことわかってないんだよ。無防備でさ」

いつだって相手には無関心だった遼哉が、彼女のことをこんなふうに答えるのを真は初めて聞いた。

「その子のこと、本気で好きなんだな」
「だな。俺自身も驚いてるんだけど、もう彼女なしじゃ生きていけないくらいだ」
「お前から、そんな言葉を一生聞くとは思わなかった」

変わったと感じたのは、その彼女の影響だったのだろう。
一体、ここまで遼哉を変えた彼女とはどんな子なのか?
そんなことを思っていると、遼哉のところに1人の女性が現れた。

「遼哉。ごめんね、遅くなっちゃって」
「俺が早く来ただけだし、まだ約束の時間より早いだろう」

時計を見ながら遼哉は、真が見たこともないような笑顔をその女性に返していた。
遼哉の言っていたように本当に可愛らしくて、だけどただ可愛いだけじゃないしっかりと自分を持った強い女性にも見える。
隣に立っていた真のことが気になったのだろう、しきりに視線を送ってくる。

「あぁ、忘れてた。こいつは俺の高校時代からの親友で、中本 真。この近くの会社に勤めてるんだ。たまたま、帰るところで会って話してた」
「初めまして、永峰 憂です」
「遼哉の親友やってます。中本です」

真が挨拶をすると憂がニッコリと微笑んだ。
その笑顔を見て、遼哉が無防備でさと言った意味がわからなくもなかった。
こんな笑顔を向けられたら、少なからず男は勘違いするだろう。

「じゃあ、俺は行くよ」
「あぁ。今度、ゆっくり飲もう」

ゆっくり頷くと『彼女、大事にしろよ』と耳打ちして、真は改札の中に消えて行った。

彼女は、どんな子なんだろうか?
人の彼女をどうこうするつもりなど真には毛頭なかったが、なぜか彼女のことは気になっていた。
確かに外見はとても可愛いし、遼哉が好きになるのもわからないでもない。
ただ真の知っている限り、遼哉が付き合った女性はどの子もみんな綺麗だったし、それを思えば彼女が特別だとは思えない。
なのにあんなにも遼哉を変えてしまったのだから、他の子にはないものを持っているのだろう。
そんな彼女と一度でもいいから話がしてみたかった。

+++

それから数日して、真は1人家に帰ろうと電車に乗り込んだところで既に乗っていた彼女とばったり会った。

「永峰さん」

文庫本を真剣に読んでいた彼女に声を掛けると、反射的にこちらに顔を向けた。

「あっ、中本さん」
「俺の名前、覚えててくれたんだ」

あの時、ちょっと挨拶しただけなのにちゃんと名前を覚えていてくれたことが嬉しかった。

「遼哉のお友達ですもの、ちゃんと覚えてますよ」

いくら彼氏の友達でも名前を覚えていない子は少なくないんだけど…、などと思いつつも笑って別の話題に変える。

「あはは、そっか。で、永峰さんは今帰り?」
「はい。中本さんも?」
「俺もそう、家こっちの方なんだ」

聞くと彼女と俺の住む駅は2駅しか離れていない。
案外近いところに住んでいたのだなと思う。

「永峰さん、真っ直ぐ帰っちゃう?よかったら晩飯付き合わない?もちろん変な下心もないし、そして俺の奢り」

こういう軽い態度が相手を誤解させるってわかってるのだが、性格だからしょうがない。

「私でよければ是非。遼哉の話も聞きたいですし、中本さんはそんな軽い人じゃないと思いますから」
「ほんと?」

何の疑いもなく誘いに乗ってくるなんて、遼哉にしてみれば気が気じゃないだろうに。
しかし、俺が軽い人じゃないって…実際そうじゃないんだけど、本当にそう思ってくれてるのだろうか?
俺と彼女は近くの駅で降りると韓国料理の店に向かう。
あんまり洒落た店よりも気兼ねなく話せる店の方が、彼女にはいいような気がしたから。

「私、こういうお店大好きなんです」

目を輝かせながら店内を見渡す彼女。
女性なら可愛らしいとかモダンだとかそういう所が好みなんだろうが、どうも彼女は違うようだ。
ここは家庭料理を中心とした小ぢんまりとした店で、別段凝ったインテリアでもなんでもない。

「そう?気に入ってくれて嬉しいけど、料理はめちゃめちゃ美味しいからね」

韓国出身の女性店主が作る料理は、最高に美味しい。
そう言うと、彼女は丸い目をより一層輝かせた。
案内された席に向かい合って座るとドリンクのメニューを彼女の前に差し出す。

「永峰さん、お酒は飲める方?」
「はい」
「じゃあ、焼酎なんかはどうかな?」
「うわぁ、いいですね」

どうやら彼女はお酒好きのようだ。
女の子と二人で食事をするのにこんなふうにワクワクした気分になったのは、初めてな気がした。
お薦めの焼酎にやっぱり韓国と言えば焼肉だということで、それとあと定番の家庭料理を頼む。

「今日のことは遼哉には内緒な。知ったらあいつ、何するかわからないから」
「中本さんと私の秘密ですね」
「そう、秘密」
「秘密ですかぁ。何かスリルがあって、いいかも」

そう言って屈託なく笑う彼女の笑顔が眩しくて、思わず引き込まれて行く自分がいた。
なんなんだ、この感覚は…。
すると焼酎のボトルとミネラルウォータが運ばれて来て、手早く水割りを作る。

「永峰さんに会えたことに乾杯」

俺がそう言ってグラスを合わせると少し照れたように彼女は焼酎を口にする。
飲んだ後に「幸せ〜」って呟いた彼女に、俺までもそういう気持ちでいっぱいになった。

「中本さんは、遼哉とは高校時代のお友達なんですよね?」
「そうだよ。3年間ずっと一緒だった。俺達、私立の男子校に通っててさ、あいつは中学からで、俺は高校から入学したんだ」
「男子校だったんですか?」
「うん、あいつは高校の時からモテてたな。通学途中で告られたりとか、文化祭なんか凄かったよ」

高校から入学した俺は、まだ擦れてなくて真面目な生徒だったが、遼哉と言えば中学から通っていたせいか随分と洗練されていて初め同じ歳だとは思えなかった。
まったく接点のない俺達だったが、文化祭の実行委員を一緒にやったことで段々と話すようになり、いつしかいつもお互いが側にいるという仲になっていた。
遼哉にならって外見はみるみるうちにカッコよくなった俺だったが、持ち前のお茶らけた性格のせいで、なかなか彼女ができない反面、遼哉は色々な子と付き合っていた。
それが全て本気でないことが俺には受け入れられないところもあったけれど、あいつの思いもわからないではなかったから敢えてそれを口には出さなかった。

「やっぱり…。女の子をいっぱい泣かせたんでしょうね」

俺は、その問いに苦笑するしかない。
確かにいっぱい泣かせたかもしれないが、遼哉自身もそれをしたくてしていたわけではなく、せざるを得なかったと言った方が正しいかもしれないから。

「でもさ、それは遼哉が悪いんじゃないんだよ。みんなあいつの表面ばかりしか見ないから、何時からか自分を見せなくなった」
「そう…なんですか」
「それも、永峰さんに出逢って変わったんだと思うよ」

遼哉は、永峰さんに逢って変わった。
でも、彼女としてはあまりこういう話は聞きたくないだろうな。
少しだけ曇った彼女の表情を見て、俺は話題を変えるように会社での遼哉のことを聞いてみる。

「そうそう、会社での遼哉ってどうなの?」
「それが、素直じゃないし、俺様だし、ほんとムカつきますよ。でも悔しいですけど、的を得ているから文句は言えないんですけどね」

いつだって女の子受けのいい遼哉が、素直じゃなくて、俺様?!
どうも彼女の言っていることが想像できない。

「でもこの前見た感じでは、あいつめちゃめちゃ永峰さんには優しかったように見えたけど」
「あれは、付き合うようになってからですよ。それまでは、ムカつく奴だったんですから。いっつも言い合ってて、会社では有名ですよ。まぁ、今も同じですけどね」
「へぇ?あの遼哉がね。なんか、想像できないんだけど」

彼女と言い合ってるっていう姿も、益々想像できないな。
でも1つだけ言えるのは、彼女にだけは本当の自分を出せているんじゃないだろうか?
これだけ直球で返されたら誰だって回りくどい話なんてする気、なくなるもんな。

独り身の真にはこんなに可愛い彼女がいる親友が羨ましい限りだったが、ほんの一時二人だけの秘密の時間を楽しんだのだった。

+++

なんだか、遼哉の様子がおかしい…。
週末は決まって彼の家に行っていたからいつものように行こうとすると、用事があるから会えないと言う。
―――おかしい…絶対におかしいわよ。
あの甘甘遼哉がいくら用事があるっていっても会えないなんて、夜中でも早朝でも時間があれば会いに来るはずなのに。
―――何か隠してるに違いないわね。

「憂、どうしたの?そんなに怖い顔して」

パソコン画面を睨みつけるように見ている憂に愛香が恐る恐る声を掛ける。

「えっ?あたし、そんな怖い顔をしてた?」
「してた、してた。もう、パソコンが破壊するんじゃないかってくらい」

大袈裟なと思った憂だったが、遼哉のことでこんなにも悩んだり不安に思ったりするなんて…。
ちょっと前の自分には、考えられなかったこと。
―――恋するって、大変ね。
そんなことを考えているとお昼の鐘が鳴って、二人は里穂と待ち合わせて食堂へと足を運ぶ。
今日のメニューは、何かしら?

「ねぇ。さっき、何怖い顔してたのよ。篠島くんのこと?」

すっかり忘れていたと思ったのにさすが、愛香は鋭い。
そこへ、事情を知らない里穂が「何々、篠島くんと喧嘩したの?」と口を挟んでくる。
この二人には、敵わないわね。

「なんか、変なのよ」
「変って、篠島くんが?」

愛香の問いに黙って頷く憂。

「そう。週末はいつも遼哉の家に行ってたからいつものように行こうとしたら、用事があるから会えないって。あたしが、愛香と出掛けるって言っただけでも拗ねたくせによ?で、何の用事なの?って聞いてもはっきり言わないし、おかしいなと思って」
「え、あんなに憂命の篠島くんが?」

会社では相変わらずの二人だったが、最近は仕事であまり細かく言わなくなった遼哉に睨まれたという男性社員が続出して、どうやら周りの証言などから憂と楽しそうに会話をしているところを彼に目撃されていたらしいのだ。
あの変貌っぷりは知っている者には見ていて面白いけれど、憂と関わる男性は大変だと…。
その遼哉が、用事があるから会えないなんていうこと自体信じられないわけで。

「もしかして、浮気とか?」
「ちょっと里穂、あの篠島くんに限ってそんなことあるわけないじゃない」
「そうなんだけど、魔が差したとかあるじゃない」
「あのねぇ。二人とも浮気とか魔が差したとか、縁起でもないこと言わないでくれない?」

他人事だと思って勝手なことを言っている愛香と里穂だったが、実を言うと憂も疑わなかったわけではない。
愛香じゃないが、あの遼哉に限ってそういうことはないハズなんだけど…。

「だったら、憂の方に何かあるんじゃないの?ほら、楽しそうに話してた男性社員が篠島くんに睨まれたって例もあるし」
「そんなこと…。仮にそうだったとしても、今まであたしに対しては何もなかったもの」
「言われてみれば、そうねぇ」

愛香もこればかりは、理由がわからない。
3人でお昼休み中考えてみたけれど、結論は出なかった。


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