Stay Girl Stay Pure
Story1
「うぇっ…」
気持ち悪っ。
胸の奥から込み上げてくるなんとも言えない不快感に耐え切れず、あたしは薄っすらと目を覚ました。
―――なんで、こんなに飲んだんだっけ?
最近ここまで飲むというのは、そう滅多にないことだったのに…。
そう言えば、昨日は会社で課長に嫌味を言われ、その鬱憤を晴らすべく、行きつけのパブジューンへ向かったのだった。
「何よっ、あの課長!!ちょっと書類にミスがあったくらいで、『君は、大学で何を勉強してきたんだ?』ですって。だってしょうがないじゃない、あたしは心理学科出身だし、それにまだ新人なのよ?間違えることだってあるわよっ」
ものすごい勢いで店の扉が開くと開口一番、『じゅんさんっ、聞いてよ!課長がねっ』と始まったのだ。
じゅんもいつものことだからとさして気に留めるでもなく、これまたいつものビールを彼女の前に差し出す。
「ありがとう、じゅんさん」
「どういたしまして。でも涼ちゃん、やけになってあんまり飲みすぎないでね」
とそこまでは覚えていたのだが、それから先がよく思い出せなかった。
◇
しかし、ここはどこなのかしら?
見慣れない白い壁にものすごく広い天井。
昨夜は1人でジューンへ行ったはず、特に知り合いにも会わなかった。
だけど、ここは見慣れた狭い自分の部屋ではない。
「目を覚まされたようですね。涼さん、気分はどうですか?」
―――えっ?
さっきまで人の気配はしなかったのに何時の間にそこにいたのか、聞きなれない男性の声にあたしは気持ち悪いなんてことはどこかに置き去りにして、思いっきりその場に飛び起きた。
っていうか、この人あたしの名前知ってる?!
「だっ、誰!それになんで、あたしの名前を知ってるわけ?!」
咄嗟に壁の方に後ずさりしながら前を見るとそこに立っていたのは、『がっ、外人?!』。
いやちょっと待って、でも今日本語話してたわよね。
そう、そこにいたのは長身で、サラサラな金髪ヘアの正真正銘外国人だったのだ。
それも超美形のめちゃめちゃいい男、年の頃は20代後半という感じだろうか。
シンプルな白いシャツのボタンを少し多めに開けていたのにそれが全然嫌味に見えないのは、やはり外人だからなんだろうか?
なんて、そんなことを今考えている場合じゃないのよ。
まず、この状況を把握しないと。
「そんなに驚かないでください。私は、決して怪しいものではありませんから」
妙に流暢な日本語だし、だいたいそういう人に限って一番怪しいんじゃないのかしら?
それにこの部屋をよく見れば、ものすごく豪華なんだけど…。
ゆっくり周りを見渡してみるとここはホテルのそれもスィートなのか、シャンデリアみたいなものもぶら下がっているし、なにより自分の眠っていたベットは普通のダブルベットよりも大きかった。
―――え?ちょっと待ってよ、男の人と一緒って?!
ホテルでこの場合、思いつくのはひとつだけ…。
慌てて、自分の姿を確認してみる。
下着こそ身に着けてはいるものの、昨日着ていたはずのパンツスーツはどこにもない。
―――やだっ、もしかしてっ。
「大丈夫ですよ。私は、あなたに指一本触れていません。言っておきますが、服はあなたが自分で脱がれたんですからね」
「シワになるといけないので、クリーニングに出しておきました。これは本当ですよ」とあたしの思っていたことがわかったのか、彼が先に説明する。
まぁ、確かにあたしは酔うと洋服を脱ぐクセがある、だからおそらく彼の言っていることは間違いないだろう。
だけど、クリーニングって…。
―――そんなことしたら、着替えられないじゃないっ!
だけど、なぜこんなことになったのか、その経緯が全くわからない。
「あの、あたしはどうしてここに?」
「覚えていらっしゃらないんですね。まぁ、あれだけ飲めばそうでしょうけれど。ではその話は、ゆっくり紅茶でも飲みながらしましょう。その前にその格好は、ちょっとマズイですね。すぐに着替えを持ってこさせますから」
あたしは彼に言われて改めて自分の今の姿を思い出し、恥ずかしさのあまりシーツの中に頭まで潜り込む。
―――もうっ、なんなのよ…。
静かにドアの閉まる音が聞こえて、あたしは大きな溜め息を吐いた。
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