Stay Girl Stay Pure
Story21
それからすぐ、後を追うようにしてリックもロンドンに帰ってしまい、期限よりだいぶ早いが涼は再び自分の勤めるジャパント・レーディングへと戻ることになった。
本来自分のいるべきところのはずだったのに1ヶ月半ぶりの会社は、まるで別の場所のようだった。
「涼ちゃん、お帰り~。寂しかったよ~」
隣の席の由希さんが、あたしを見つけるなり駆け寄って来た。
「ただいま、由希さん」
さっきまでの居心地の悪さも、由希さんの顔を見たら少しは消えたような気がする。
こうして、今までの日常が戻ってくるのだろう。
イアンと一緒にいた1ヶ月半も、きっといい思い出に変わるはず…。
「あのね、涼ちゃんがお世話してたグローバルホールディングスの方から、紅茶がいっぱい届いたの。すっごく高級なやつだよ。3時になったら飲もうね」
「紅茶…」
―――あたし、思い出になんてできない…イアン…。
+++
「じゅんさんっ、聞いてよ!課長がねっ」
勢いよく扉が開き、開口一番こう口にしながら入って来た女性がいた。
「何よっ、あの課長!!ちょっと書類にミスがあったくらいで―――」
え…イ…ア…ン…
カウンター席を見つめたまま、涼はその場に固まった。
今頃、イアンはロンドンにいるはず。
とうとう、幻まで見るようになってしまったのか…。
「涼ちゃん。そんなところに立ってないで、こっちに来たら?」
じゅんに声を掛けられて我に返った涼は、ゆっくりとカウンターのいつもの席に座る。
横に座っている男性が一瞬イアンのように見えたが、きっと気のせいに違いない。
「はい、ビール。どうしたの?イアンさん、ずっと涼ちゃんのこと待ってたのに」
「えっ?」
イアンという名前に横を向くと、そこにいたのはやはり正真正銘のイアンだった。
―――見間違いじゃなかった?
「涼さん、お久しぶりですね。また、課長に嫌味を言われたのですか?」
「イアンっ!何で、あたしに何も言わずに黙って帰っちゃったのよっ。それにどうして、ここにいるの?」
勢いよく立ち上がって、いつもの調子で一気に質問攻めにする涼をクスクスと笑っているイアン。
「もうっ、笑ってる場合じゃないでしょっ」
「そうですね。でも、あまりに涼さんが可愛いので、つい」
可愛いなどと言われて、顔を赤らめる涼がまた可愛いと思ってしまうイアンだったが、それを言うより早く説明しないと涼が怒ってしまうだろう。
「涼さんに帰国することを言わずに帰ってしまったのは、本当に申し訳ないと思いました。でも、私はすぐここへ戻ってくるつもりでしたから。そして、今なぜここにいるかという質問ですが、それはもちろんあなたに会うためです」
「あたしに?」
イアンは初めから戻ってくるつもりで、敢えて帰国することを涼には告げなかった。
―――じゃあ、なぜここに戻って来たの?
あたしに会うためって…。
「迷惑でしたか?」
「迷惑なんて…あるはず、ないでしょっ!」
「よかった」
ホッとしたように微笑むイアンだったが、迷惑になんて思うはずがない。
むしろ、再び会えることができたことが嬉しくてたまらないのに。
「でも…今度はいつまでいるの?」
聞きたくはなかったけど、きっとまたロンドンに帰ってしまうに違いないから…。
「ずっとです」
「ずっとって?」
「永遠にということです」
―――はぁ?
永遠にって、何よ。
もう、ロンドンには戻らないってこと?
「こっちで、仕事をすることになったの?」
「会社は、辞めました」
「はぁ?辞めた!?じゃあ、なんで日本に来たのよ」
―――辞めたって、あんな大きな会社のCEOを辞めたってわけ?
なのになんで、わざわざ日本に来たのよ。
「ですから、あなたに会うためです」
「あたしに会うためって、それでどうして会社まで辞めなきゃならないのよ」
イアンの言っている意味が、わからない。
なぜ、CEOを辞めてまで自分に会いに来なければならなかったのか…。
「ずっとあなたの側にいると約束しましたから。会社よりも何よりも、涼さんが大切なんです」
イアンは、そっと椅子から立ち上がると涼を抱きしめる。
ちょうど店内に客はいなかったから、じゅんは入り口の扉にCLOSEの札を下げると二人だけにさせようという計らいで奥に入った。
「イアン…」
「逢いたかった…突然ロンドンに帰ったのは、これ以上あなたに迷惑をかけたくなかったことと仕事に対しても自分にもケジメをつけたかったからです」
あの夜、イアンは自分にとってなによりも涼が大切なんだということを思い知らされた。
今までレールの上をずっと歩いてきたが、初めて自分の考えで行動したと言ってもいい。
「でも・・・イアンは、それでよかったの?」
―――あたしのために日本に戻って来るなんて…。
「ええ。涼さんさえ側にいてくれれば、私は何もいりません。ただ会社を辞めてしまったので、涼さんには何もあげられませんが」
「あたしはイアンさえいてくれれば、何もいらない。今度こそ約束して、絶対離さない、どこにも行かないって」
「涼さんがイヤって言っても、離しませんよ」
その言葉に嘘偽りがないことを証明するかのように涼にくちづける。
「愛しています、涼さん」
「あたしも、愛してる」
もう一度、深いくちづけを交わす。
「あの…もうホテルには泊まれなくて、涼さんの家に行ってもいいでしょうか?」
「え?」
「だめですか?」
「だめって…」
「それとリックも…」
「ええ!?リックも日本に来てるの?」
「はい」
―――『はい』って…。
二人もどうするのよ…まぁ、部屋は余ってるけど…。
「これから、どうしましょうか。秀吉のところででも、働かせてもらいましょうか?」
冗談を言って笑うイアン。
―――イアンが秀吉と?ウフフ…それもいいかもね。
突然、目の前に現れて突然いなくなったイアン。
でもまた、こうして逢えたからヨシとするかぁ。
暫く同居は続きそうだけど、本物の抱き枕も戻ってきたことだし、これでよく眠れるわ。
END
続きが読みた~い、良かったよ!と思われた方、よろしければポチっとお願いします。
NEXT
BACK
INDEX
PERANENT ROOM
TOP
Copyright(c)2006-2013 Jun Asahina,All rights reserved.