Stay Girl Stay Pure
英国訪問
−後編−
週が明けて、涼はハリーと共にグローバル・ホールディングス社に同行し、イアンはリックと紅茶の買い付けにそれぞれ出掛ける。
長〜いリムジンかと思えば、意外に普通の車で逆に驚いたりして…。
「あの、ハリーさん。あたしは、何をすればいいんですか?」
「リョウさんは、何もしなくていいんだよ」
「えっ、何も?」
―――あれ?
これって、前にも聞いたような…。
課長からいきなりグローバル・ホールディングス社のCEOという偉〜いお方のお世話をするように言われて、それが会ってみればイアンだったとわかった時も同じことを言われたのだった。
じゃあ、一体何をするためにあたしはハリーさんと一緒にいるのかしら?
「仕事柄、日本の企業との取引も多くてね。とは言っても、堅苦しい話じゃなくて仕事の話を兼ねてのランチとかディナーとか、パーティーなんかにも同伴してくれると助かるかなって。これはイアンのアドバイスなんだよ?」
「イアンの?」
「そう。まぁ、イアンは別の理由でリョウさんを一緒に連れていたのかもしれないけどね」
ハリーも、女性との付き合いがあまりうまくできないタイプ。
特にバリバリのキャリアウーマンは苦手で、社交的な場にはどうしても一人で出ることなってしまうのだが、そうなるとなかなか場が持たない。
短い期間だけど、涼が同伴してくれると非常に助かるのである。
「ハリーさん。お父様とお母様は、どんな方なんですか?」
「両親?イアンからは、何も聞いていないの?」
「会えばわかるからって、教えてくれないんです」
「そっか」
クスクスと笑っているハリー、涼は首を傾げてその様子を見ていた。
―――笑ってるけど、会えばわかるって、どうして教えてくれないのかしらね?
「言葉で言うよりも会った方が早いと思うんだ。大丈夫、心配しなくてもリョウさんのことを喜んで迎えてくれるから。今から楽しみにしてるんだ」
「そうでしょうか…」
イアンに誘われてここまで来てしまったものの、果たして両親に受け入れてもらえるのか?
もしかしたら、会ってもくれないんじゃないかと…。
「僕の家に暫く滞在するって言ったらさ、仕事なんかいいから早くリョウさんを連れて来いってうるさいんだよ」
「それが本当なら、嬉しいんですけど」
「あっ、でもねうちの両親かなり強烈だから、覚悟しておいた方がいいよ?あと、妹もね」
「妹さん?」
―――そっかぁ、まだ妹さんがいたのよね。
はぁ…。
ハリーの恋路も気にはなったが、自分の行く末はもっと不安な涼だった。
◇
グローバル・ホールディングス社は伝統と格式が感じられるとても重厚な建物で、日本の超高層ビルとは趣が全く違う。
―――ここでイアンは、CEOをしていたのよね。
涼と出会う前は、ここでバリバリ仕事をこなしていたのだろう。
何者かに狙われたりしたこともあったし、ハリーさんは大丈夫なのかしら?
「イアンは、ここにいたんですね」
「そうだ。イアンの使ってたデスクを見てみる?」
「えっ、あるんですか?」
「あぁ、いつでもイアンが戻って来られるようにデスクはそのままにとってあるんだよ」
本人の意思で辞めたけれど、ハリーはいつでも戻って来られるようにデスクはそのままにしてあった。
ハリーはイアンのことを尊敬していたし、できれば兄弟でこの会社をやりたかったというのが本音かもしれない。
「ここだよ」
「わぁ、ここにイアンが座っていたんですね」
思ったより狭い部屋のように感じられたが、デスクで書類を眺めるイアンの姿が目に浮かんでくるよう。
「リョウさん、せっかくだから座ってみたら?」
「いいんですか?」
「もちろん」
―――うわぁっ、さすがCEOの座る椅子は違うわ。
あたしのデスクとは大違い。
レザー張りの椅子は腰が埋まりそうでうまらない、そしてデスクもスチール製ではなくて、なんていう名前かわからないが、模様が美しい木製のもの。
例え主がいなくても毎日手入れを欠かしていないというのが、わかる。
「どう?座った感じは」
「東京のオフィスで座ってる椅子とは、全然違います」
デスクの上を愛おしむように右手で撫でている涼を見て、ハリーは思う。
女性に関心がなかったイアンがなぜ、彼女を選んだのか。
理由なんてないのだろう、ただ彼女だったから好きになった。
それだけ。
羨ましいと思いつつ、自分にも…。
涼が恋心を抱く彼女に見えてしまったハリーは、慌てて窓の外へ視線を移したのだった。
+++
3日間ほどハリーの仕事に同行した涼だったが、明日はいよいよイアンの両親に挨拶に行く日。
「イアン、なんだかドキドキしてきちゃった」
「涼さんでも、そんなことがあるんですか?」
「あるわよ。イアンったら、それじゃあ、あたしの心臓に毛が生えてるみたいじゃない」
「そうですか?なら、確かめてみましょうか」
―――え…確かめて?!
と思った時には既に遅く、涼を抱きしめると胸に耳をあてる。
なぜか、シャツのボタンに手を掛けて器用に外し始めているではないか。
「ちょっ、イアンっ…どうして、シャツのボタンを外すのよっ」
「直に耳にあてないとわからないですからね」
「だったら、無理にそんなことっ…っん…ぁ…」
いつの間にかブラのホックまでも外されて、二つの膨らみが露になった。
―――これじゃあ、別の意味でドキドキしちゃうじゃないっ!
「…やぁ…んっ…っ…」
「涼さん、すごいですね。こんなにドキドキして」
「…ぁっ…やめ…てぇ…っ…んっ…」
「感じてるんですか?硬くなってますよ」
「…そんなっ…こと…いちいち…言わな…い…でっ…っ…」
―――イアンは、意地悪だぁ…。
それに澄ました口調で、えっちだし…。
硬くなった蕾を吸われて、舌で転がされるとそれ以上文句も言えなくなってしまう。
「私は嬉しいですよ。涼さんが、感じてくれて」
あっという間に綺麗に着ていたものを剥がされて、イアンの大きな手が涼の腰のラインを上下しながら下へと移動していく。
その手が太腿に差し掛かるとつい足に力が入ってしまうのだが、彼はそれをほぐすように優しくくちづける。
「涼さん、愛しています」
「…あた…し…も…っ…ぁ…んっ…」
太腿を撫でていた手がすかさず間を割って、大事な部分に触れると一層涼の口から甘い声が洩れる。
ここには、ハリーもいるのに…。
「声、我慢しないで」
「で…も…」
「大丈夫です。聞こえませんから」
―――大丈夫って、言ったってっ。
「…んっ…あぁぁぁぁぁ…っ…っ…」
細くて長い指が、涼の中のピンポイントを突いてくる。
「…イっ…ちゃ…う…っ…」
「いいですよ、イって」
「…やっ…イアンも一緒じゃなきゃ…」
「涼さん」
こんなふうに言われて、嬉しくない男がいるだろうか?
イアンは急いで身に着けていた服を脱ぐと自身に準備を施して、一気に涼の中を貫く。
いつもはゆっくり入るけれど、今夜だけはイアンにも余裕がない。
「…あぁぁぁぁぁぁ…っ…っ…んっ…イっ…ちゃ…う…っ…」
「…涼っ…さん…っ…一緒に…」
「…んっ…あぁぁぁぁぁ…っ…っ…」
二人同時に果てた。
◇
「あのね、イアン」
「なんですか?涼さん」
なかなか眠れなかった涼は、ふと思いついたことをイアンに頼んでみることにする。
昨日から考えていたことだったが、OKしてくれるかわからないけど、計画がうまくいけばいいかなと。
「明日、ご両親のところへ行くじゃない?一緒に絵未さんも誘ったらダメかしら?」
「絵未さんを?」
イアンには何の問題もなかったが、後は本人がいいというかどうか。
でも、どうして絵未を誘おうと思ったのだろうか?
「うん。絵未さんも一緒に来てくれたら楽しいかなって。それにハリーさんとうまくいくかもしれないでしょ?」
「なるほど。私は大賛成です。多分、家族も歓迎してくれると思いますよ」
「良かった。じゃあ、ハリーさんには内緒でイアンからそっと話して欲しいんだけど」
「わかりました。リックに頼んでみます。彼も誘ってますので」
絵未が来てくれれば、涼も何かと心強い。
―――でも、絵未さん来てくれるかな?
まだ、ハリーが気持ちを伝えたわけでもないのに家に来ることを承諾してくれるだろうか?
+++
イアンの自宅は、車で1時間ほど走ったロンドン郊外にあるお城。
一体どんなところなのか、さっぱり想像すらつかない。
都会の街並みから木々が多くなって段々景色が変わってくると、そろそろ到着間近。
「あぁ〜緊張する」
「リョウさんは、心配性だな」
「だってぇ…」
願わくば、ご両親に会わずに帰国したいところだが、そういうわけにもいかず…。
これが一番の目的なんだから。
―――そうだ。そう言えば、あっちの方はうまくいったのかしら?
涼はイアンの手を握って、そっと目で合図する。
返事の代わりに強く握り返され、ニッコリ微笑む彼に安堵しながらも、いつ来られるのだろうか?
早く来てくれないと涼の身が持たない。
そんなことを思っていると家に到着したようだ。
「イアン、お家はまだなの?」
「もう、とっくに敷地内に入っていますよ」
「え…」
さっきとそう変わらない景色のようだが、そこはもうセシル家の敷地内。
桁があまりにも違い過ぎる。
「さぁ、着きましたよ」
車のドアが開いて、イアンが先に降りると涼の手を取って建物の前に立つ。
「え…」
驚きのあまり声が出ないというのは、こういうことを言うのだろう。
イアンと一緒に過ごして随分とゴージャスな生活には慣れていた涼だったが、その域を超えている。
「涼さん。さぁ、こんなところで立ってないで、中へどうぞ」
「うっ、うん」
背中を押されるようにして中へ入ると赤い絨毯が敷かれていて、大きなシャンデリアがぶら下がっている。
そこはまだ部屋ではなくて、日本で言えば玄関のようなロビーにあたる場所なのか、それにしても豪華としか言いようがない。
「こちらですよ」
カーブした階段を上って行き、既にどこをどう来たのかわからない状態になっていたが、イアンにエスコートされて両親の待つ部屋へと歩いて行く。
すると、ある大きなドアの前で3人は立ち止まる。
この奥に…。
イアンがドアに手を掛けようとした矢先にドアが開いて、涼は中に引き込まれると誰かに抱きつかれた。
顔中にイアンでない別の男性のキスが降ってくる。
「わっ、あっあのっ…うぎゃっ…」
「あなたが、リョウさんかい?待ってたんだよ。あまりに遅いから見に行こうと思っていたんだ」
「あら、あなた。私にもリョウさんに挨拶させて」
今度は別の人物に手を引っ張られて、抱きしめられる。
ふわふわした感触が気持ちいい。
そして、いずれも会話は流暢な日本語だった。
「お父さんもお母さんも、涼さんが壊れちゃうよ」
「あぁ、ごめん。つい」
―――げっ、お父さんにお母さん?!
体をやっと解放された涼は、目の前に立っている人物をマジマジと見つめる。
父親は髭を生やしたダンディーだけど、笑っている表情はとても柔らかい。
そして母親はというと本当に綺麗で、笑顔がとても素敵な人。
イアンとハリーは、母親似なのだろうか?
二人並ぶと、まるでハリウッドスターのようだ。
「はっ、はじめまして。リョウ ネガミです」
頭を思いっきり下げた涼の肩に母親が優しく手を掛ける。
「こちらこそ、はじめまして。私がイアンとハリーの父親で、こっちが家内です。リョウさん、遠いところからよく来てくれたね」
「さぁ、こっちに座って」
両親に挟まれるようにしてソファーに案内される。
思った以上の歓迎に驚いたが、やっぱり嬉しい。
テーブルの上にはティーセットがズラッと並び、お手伝いさんが入れてくれる紅茶のいい香りが部屋中に漂っていた。
「イアンがもったいぶって、なかなかリョウさんを連れて来てくれないものだから、私が日本に行こうと思っていたんだよ」
「そうなのよ。待ちくたびれたわ」
お金持ちだから日本へ行くのは簡単なんだろうけど、あんな家にいきなり来られたら困る。
―――イアンに早めにつれて来てもらって、良かったわ。
そうそう、いらないかもしれないけどお土産も渡しておかないと。
「あの、お土産なんです。ちょっと大きいんですが」
雛人形と鯉のぼりを渡すと「ビューティフル」「ワンダフル」と大いに喜んでもらえたので、持ってきた甲斐があるというもの。
そして、それとなく父親のCDも渡すところは抜け目ない。
―――それにしても、絵未さんはいつ来るのかしら?
さっき、イアンは大丈夫だって言っていたけど。
「ねぇ、イアン。絵未さんは?」
「夕方には来ると思いますよ」
「そう。早く来ないかな」
ご両親がパーティーを開いてくれるというので、それまでには間に合うように来てくれるらしい。
ハリーには内緒の話だから、きっと驚くだろう。
夕方になるまでの間、馴れ初めやらイアンの今の仕事の話などをしていたら、すっかり時間の経つのを忘れていた。
◇
夕方になってガーデンパーティが催された。
家族だけではなく、ごく親しい方もたくさん集まってそれは盛大なものになってしまい…。
どうやら、イアンの結婚相手というお披露目も兼ねていたというのは後で知ったこと。
「イアン、妹さんは?」
「リアは、こんな大事な日にフィンランドに旅行に行っちゃったらしいんです」
「フィンランド?」
北欧のフィンランドに旅行かぁ。
ということは、今回は会えないわけ?
残念。
「いつ、戻って来るの?」
「それが、あと1週間は帰らないみたいで」
「せっかく、ここまで来たのに会えないなんて、残念」
「よく言っておきますので」
乾杯の準備が整った頃、ようやくリックが絵未を連れて到着したようだ。
「リック、遅かったね」
「すみません。道路が込んでいて」
もう少し早く着くはずだったのに事故で道路が大渋滞してしまい、到着が遅れてしまったのだ。
「絵未さん、こんばんは」
「涼さんにイアンさん。今日はわざわざお招き、ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ無理に誘ってしまったんじゃ」
「とんでもない。嬉しいですよ」
―――あぁ、良かった。
涼の勝手な思いつきで誘ってしまい、迷惑だったのではないかと思ったが、そうでなくて良かった。
「エミ…」
「ハリー、今日はお招きありがとう」
「えっ、お招きって…。イアンか?」
何も知らないハリーは、どうしてここに絵未がいるのかわからない。
「パーティーは、大勢の方が楽しいからね。それに、ハリーも女性が側にいないと寂しいだろうから」
好きな人がいるという話はしていたが、日本人女性としか言っていなかったけれど、すぐにそれが絵未だとわかってしまったに違いない。
「ありがとう」
「お礼なら、涼さんに言って。これを考えたのは、涼さんだからね」
イアンのお節介かと思っていたが、涼の計画だったとは…。
「リョウさん、ありがとう」
「何かしら?」
わざと知らんふりをする涼。
「エミを誘ってくれて」
「あたしこそ、お節介焼いちゃって。迷惑じゃないかと」
「そんなことないよ。僕一人じゃ、お茶にも誘えないからね」
「じゃあ、今夜はチャンスですね。頑張って下さいね」
「うまくいくかな」
「いきますって。絵未さん、寂しそうですよ。早く行ってあげないと」
今後どうなるかはわからないけど、恋が実ればいいと思う。
―――あれ?イアンは?
ハリーと話していたら、イアンの姿が見えなくなった。
どこに行っちゃったのかしら?
辺りをキョロキョロ見回していると、どこかで見慣れた風景が…。
―――うそ…いつの間にあんなものを。
イアンはなんと、涼も知らぬ間にたこ焼きを持ち込んでいたのだ。
周りには、見たことがない両親や知人達の人だかりができている。
「イアンは、何を持ってきたんだ?」
「たこ焼きみたい」
「たこ焼き?」
「そう、とっても美味しいの」
「え、ほんとか?」
美味しいと聞いただけで、すっ飛んで行くハリーが可愛い。
でも、ちゃんと隣には絵未さんがいて…。
一週間のイギリス訪問も、なんとか無事終わりそう。
イアンの家族がとってもいい人達で良かった。
たこ焼きを自慢げに作っているイアンの姿を見つめながら、涼はそんなふうに思うのだった。
To be continued...
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