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Chapter16-1

R-18

「ちょっ、ちょっと!!栢原(かやはら)?」

未有(みゆう)は、慌ててカップをローテーブルの上に置いた。

「吉崎さん、俺我慢できない。今すぐ、ここで押し倒したい」
「何言ってるのっ、栢原」

栢原はいつだって冷静で、こんなことを言ったりしない人間だと思っていたのに意外過ぎて言葉がない。

「吉崎さんのこんな可愛い顔を見せられて、黙っていられる男がいたら拝んでみたいね」
「栢原らしくない、何でそんなこと言うの?」
「俺だって普通の男だよ、好きな女の子を抱きたいって思うのは当然だろう?」

好きな女の子を抱きたいなどと言われて、未有の身体は一気に熱を帯び始めた。
そんな彼女を栢原は、いとも簡単に抱き上げてしまう。

「いやっ、ちょっと!!栢原、何するの〜」

未有は足をバタバタさせて暴れたが、栢原はビクともしない。
余裕の顔で隣の部屋に入り、ベットの上に横たえると未有の上に馬乗りになった。

「未有、好きだよ」

初めて、栢原に名前を呼ばれた。
耳元で囁くように言うと頬に軽く触れる程度のキスを落として、そのまま耳にふっと息を掛けて軽く甘噛みする。
未有の身体が、反応してピクリと跳ねた。
それに気を良くした栢原は、しっかりと未有を見つめると口づけた。
今度はさっきまでの触れるようなものではなく、何度も何度も角度を変えて段々と深くなる口づけに未有も思わず吐息を漏らす。

「はぁ…」

そこへすかさず栢原の舌が入り、未有の舌を絡める。
未有は、栢原がこんなにも情熱的な男だとは思ってもみなかった。
ニットの中に栢原の手が触れると、その冷たさにビクリと未有の身体は反応した。

「ごめん、冷たかった?」
「ちょっと…」

栢原はもう一度『ごめん』と謝ると、未有の上半身を抱き起こして着ていたニットを脱がす。
そして、背中に手を回すといとも簡単にブラのホックを外してしまった。

「何か、栢原慣れてる」
「そんなことないよ。俺すごく緊張してて、心臓はバクバクいってるし」

至って冷静に見える栢原だったが、やはり好きな子の前では緊張せざるを得ない。
ましてや線が細いとは思っていたが、未有の服の下はこんなにも豊かだったことに驚きを隠せなかったのだから。
その二つの膨らみの一方に手を触れると絹のように滑らかでふわふわと柔らかくて、同じ生き物とは思えない感触に栢原はまた驚いた。

「私ばっかりズルイ、栢原も脱いで」

未有が、ネクタイに手を掛けてするりと外す。
されるがままにワイシャツのボタンを1つずつ外していく未有の手を栢原はただジっと見つめていた。
露になった栢原の上半身は痩せていると思っていたが、綺麗に筋肉がついていて男の人だということを感じさせた。

「栢原って、鍛えてるの?」
「うん?そんなこともないけど」

そっと腕に手を這わすとやはり手が冷たかったのか、筋肉がピクリと反応した。

「だって、すごく綺麗」
「それは、未有の方だろう?」

ゆっくりと未有の身体を再びベットに横たえると、栢原はまた唇にキスをおとす。
それが本当に優しくて、こんなキスを経験したことがない未有には、溶けてしまいそうなくらい心地いいものだった。

「栢原」
「俺の名前、脩二(しゅうじ)って呼んで」
「脩二」

未有は、脩二の名を呼ぶと彼の首に腕を回して自らその唇に口づけた。

「脩二、大好き」
「未有、俺も大好きだよ」

二人の甘い夜は、今始まったばかりだった。

「はぁぁぁんっ」

脩二は未有のつんと上を向いたピンク色の蕾を舌で転がすようにして触れる。
もう片方の胸は手で包み込むようにして揉みしだくが、その行為がどこまでも優しかった。
未有の身体を見るとどんな男でも早急にことを運ぼうとしてしまうが、それが脩二は違ったのだ。

「はぁぁん…脩二…」

名前を呼ぶと脩二は、すぐに未有の唇にキスをおとす。

「未有、愛してるよ」

―――どうして、脩二はこう欲しい言葉をすぐにくれるのだろう?
今まで感じたことがない想いに未有は、脩二の優しさを感じずにはいられなかった。

そして未有が脩二を受け入れる体制が整ったのを確認すると自身に準備を施して。

「未有、入れるよ」

黙って頷いたのを確認して、ゆっくりと未有の中に自身を埋めた。

「…っあぁぁん…っ…」

脩二は未有をぎゅっと抱きしめると、二人絶頂を迎えた。



未有が朝目覚めると脩二はもう起きていて、ずっと未有の寝顔を見ていたようだった。

「おはよう、未有」
「おはぁよぅ」

未有は半分目が覚めていないのか、言葉がはっきりと言えていない。
そんなところも、脩二は可愛いと思ってしまう。
こんなふうに朝を二人で迎えられる日が来るとは夢にも思っていなかった脩二は、昨日のことがまだ信じられないでいた。
目が覚めて隣に未有が居なかったら…、そればかり考えて、実はあまりよく眠れなかったのだ。
しかし、目覚めればちゃんと隣に彼女は幸せそうに自分の腕の中で寝息を立てていた。
昨日は朝会社に出社した後、すぐに顧客先に出向いていたが、会議が思いのほか長引いて、そのまま社には戻らず家に帰って来たのだった。
自宅の最寄り駅に着いたのは既に9時近かったのだが、改札を抜けると見知った顔が目に飛び込んできた。
それが、未有だった。
未有は今にもこぼれそうなくらい目にいっぱい涙を溜めていたが、脩二を見るや否やそれが雫となって零れ落ちた。
思わず自分の胸に抱き寄せて、なぜ泣いているのかその理由を聞くとどうやら脩二が一週間の予定で大阪に出張するのをずっと行ったままになってしまうと勘違いしていたためだった。
それが美久の助言だと聞いて、妙に納得したのはその後の発言を聞いてからだったのだが。
まさか、『離れ離れになるのは嫌、好きなのに』と言われるとは思ってもみなかった。
あの時は夢じゃないかと自分の耳を疑ったが、もう一度言って欲しいと言うと恥ずかしそうにしながらも好きと言ってくれた。
3時間近くも外で脩二のことを待っていた未有の頬や手はとても冷たくて、部屋の中に連れて行って彼女の好きなカプチーノを作ってあげるとこれ以上ない笑顔を見せてくれた。
もう我慢などできなかった。
脩二の中で、理性という言葉がどこかに吹き飛んでしまったのだから。
その後のことを思い出すだけで、身体が熱くなってくるのがわかる。

「脩二――」
「うん?」

未有が脩二の名を呼ぶと優しい笑顔を返してくれる。
それがとても嬉しくて心地よくて、つい何度も何度も彼の名前を呼んでしまう。

「脩二…脩二…」
「どうしたんだ?」

脩二が未有の頬に手を添えて覗き込むようにしてじっと見つめる。

「ただ、呼んでみただけ」

未有が言うと脩二はふっと笑みを崩す。

「こら、なんだよそれ」

脩二は未有の額に自分のそれをこつんとぶつける。

「だってぇ…」

こんな未有を可愛いと思わずにはいられない。
脩二は唇に軽く触れるキスをおとすと未有を抱きしめた。

「愛してるよ」
「私も愛してる」

+++

「もうっ、美久!」

朝、未有は会社に出社するや否や美久を見掛けると同時にそう叫んでいた。

「どうしたの?朝から」

知らぬ存ぜぬという素振りの美久に、未有は呆れつつもこれだけは言わないと治まらなかった。

「ちょっと、どういうつもり?栢原が大阪に行くって、一週間だけじゃないっ」
「でも、大阪に行くのは本当でしょう?」
「そうだけどぉ…」

確かに美久の言う通り、脩二が大阪に行くのは本当のことだ。
―――だけど、あんな言い方をされたら、誰だってもう会えないって思うわよ。

「未有ったら、いきなり走って行っちゃうから心配したんだからね?でも、栢原君とうまくいったみたいね。あんた達、ああでもしないといつまで経ってもお互いの気持ち伝わらないでしょう?」

美久がわざとああいう言い方をしたのには理由があった。
脩二は未有の影響で自分に自信を持てるようになったが、未有に対しては自分の気持ちを伝えられないでいることを知っていたからだ。
それは未有も同じで、今までの男に振られた経緯も相まって脩二に気持ちを伝えられないでいた。
お互い気持ちを伝えてしまって、もしそうでなかったら…。
そんなことはあれだけ想い合っている二人を見る限り絶対ないと美久は言い切れるのだが、当人にとっては今の関係が崩れることの方が怖かったのだろう。
だから、脩二が大阪に出張に行くのをいいことにそれを利用したのだった。
―――まぁ、取り敢えず上手くいって良かったわ。
ほっと胸を撫で下ろす美久だった。

「ごめんね、美久にまで心配かけて」

ちょっと前まで美久にうまいことやられたと思っていた未有だったが、確かにああでもしなければお互いの気持ちは伝わらなかっただろう。

「いいわよ、この借りはゆっくり返してもらうから」

そう微笑んで冗談交じりに言う美久だったが、知らないところで未有や脩二のことを心配していたに違いない。
何はともあれ、美久のおかげで脩二と恋人同士になれたのだから。
あの夜のことを思い出して、ひとり赤くなっていたのを不思議そうに美久が見つめていたことを未有は知らない。


To be continued...


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