「お前まさか昨日のこと、なかったことにしようって言うんじゃないだろうな」
「え?」
振り返って大辻を見るとさっきまでの笑顔は消えて、あたしの心の中まで射抜くような鋭い視線が突き刺さる。
「大辻こそ、何言ってるの?なかったことも何も、あたしと大辻の間には初めから何もなかったでしょ?」
―――あたしは、わざとはぐらかすように言った。
そう、何もなかったのよ―――。
「俺はなかったことになんか、するつもりないから」
―――あたしは、こんな手に乗らないのよ。
大辻がなんでこんなことを言うのかわからないけど、気まぐれや遊びには付き合えない。
だってそうでしょ?大辻が、あたしなんかを相手にするはずがないんだもの。
「勝手にすれば」
「待てよ」
出て行こうとする綾乃の腕を、大辻が掴んで引き戻す。
「何で?あたしをからかって、そんなに楽しい?」
「いつ俺がお前をからかったんだ」
「これをからかってないって言うんだったら、他になんだって言うの?」
―――もう、いい加減にしてよ。
いくら冗談でも度が過ぎる。
ただでさえ大辻と寝てしまったという事実は、すぐには心の中から消えそうにないのに…。
「俺は、好きでもない女と寝たりしない」
「え?」
―――好きでもない女とって…。
それって裏を返せば、あたしを好きだって言ってる?
「本当なら酔ってるお前じゃなくて、ちゃんと気持ちを確かめてからにしたかったんだけど、お前鈍感だからな」
「何よ、鈍感ってっ」
膨れる綾乃に予想通りのリアクションだったと、逆に嬉しい気持ちで一杯の大辻。
「それに、エッチの相性もバッチリだったしな」
「ちょっ、ちょっと何言ってるのよ」
―――この男は、何を言い出すのやら…。
もうわけわかんない。
どうして、そういうこと恥ずかしげもなく言えるのよ。
あたしは彼を思いっきり睨み返したが、相手は全然平気な様子。
「本気で惚れた相手とのエッチは違うって聞いてたけど、俺あんなの信じてなかったんだよ。でも本当だな。お前、やっぱ最高だよ」
本気で惚れた相手などと言われて、綾乃の顔は一気に熱を帯びる。
―――だけど、エッチが最高ってどうなのよ…。
こればっかりは、なんか素直に喜べないわね。
「・・・・・」
だいいち、こんなこと言われてなんて答えればいいのか…。
「お前は、どうだった?俺とのエッチ」
「え?」
―――どうだったってねぇ、そんなこと言えるわけないじゃない。
「おっ、覚えてないわよ」
綾乃は、誤魔化すようにそう答えた。
―――でも…本当はしっかり覚えてる。
普段のこいつはいっつも意地悪なことばっかり言ってるけど、どこまでも優しくて…。
「そっか、じゃあ思い出させてやるよ」
「はぁ?」
大辻は綾乃のことを軽々と抱き上げると歩き出す。
―――行き着く先は、言わなくてもわかるわよね。
「ちょっとやめてよ。ヤダっ」
綾乃は足をバタバタさせて抵抗したが、大辻は意外にガタイが大きいからびくともしない。
そのままベットに沈められ、彼が覆い被さるように綾乃の上に馬乗りになる。
至近距離に大辻の顔があって、心臓が飛び跳ねそうなくらい激しく鼓動を打ち始め、思わず目を伏せた。
「綾乃、俺を見て」
いきなり名前で呼ばれて、反射的に視線を元に戻す。
そこには、愛しいものを見つめる大辻の顔があった。
「どうして?」
どうして…大辻は、こんなこと…。
「どうして、こんなことするの?」
「お…前、何泣いてるんだよ」
知らず知らずのうちに、綾乃の瞳からは涙が止め処となく溢れていた。
大辻が、次々と彼女を変えているのを知らない者はいない。
遊びでもいいから付き合いたいっていう子を綾乃はいつも傍目でどうして?って、問いかけていた。
―――こんな最低な奴、どうして好きになんかなるの?
確かに今みたいに耳元で甘い言葉を囁かれたら、誰だってそんな気になってしまうのかもしれないけどあたしは違う。
絶対に騙されないんだから。
「なぁ、頼むから泣かないでくれよ…。俺、お前にそんな顔されたらどうしていいかわらない」
本当に切なそうに言う大辻が今まで見たことがないくらい…きっと、それは本心なんだろうけれど。
大辻はそっと指先で涙を拭うと、綾乃を起き上がらせて自分の胸に抱き寄せた。
「俺は、お前を泣かせようとしてこんなことしたんじゃないんだ。本気で綾乃のこと好きだから、好きな相手を目の前にしたらもう気持ちを抑えられなくて…」
『ごめんな』って、何度も何度も謝りながらあたしの髪を撫でてくれた。
それがとても心地よくて…つい甘えてしまいそうになる。
でも…。
「そんなこと言っても、騙されないんだから。大辻があたしのこと好きなんて、信じられないもの!」
綾乃は、大辻から体を離すために手で彼の胸を強く押し返した。
「俺がいつ、騙したって言うんだ」
大辻には、綾乃の言っている意味が理解できない。
好きだという気持ちは本心だし、騙すなど根も葉もない濡れ衣だった。
「そうやっていろんな女の子に声を掛けて、相手が大辻を好きになるとフルんでしょ?あたしはその手には乗らない」
「それは誤解だ。確かにたくさんの子と付き合ってはいたけど、俺が声を掛けたんじゃなくて向こうから誘ってきたからだ。それに俺は最初にいつも断っていた、好きな子がいるから本気にはなれないって」
―――え?
好きな子って…。
「好きな子って言うのは信じてもらえないかもしれないけど、綾乃のことだから。俺、初めて会った時から綾乃が好きだったんだ」
少し恥ずかしそうにそれでも綾乃の目をしっかりと見つめながら、大辻ははっきりとそう言った。
それが嘘や冗談で言っているのではないとわかっていても、どうしても信じられない。
―――だって、女っタラシの大辻がこのあたしを好きになるなんて…。
「会社に入社して同期の奴らともだいぶ打ち解けてきた頃だったかな、周りの奴らが口々に綾乃のこと可愛いよなって話してたんだよ」
その時の大辻には女の子なんて皆誰でも同じだと思っていたし、特に興味も持っていなかったからそんな噂を耳にしても別段綾乃のことを意識するほどのことでもなかった。
「その時はなんとも思わなかったんだけどさ、あれは1ヵ月くらいしてからかな皆で飲みに行っただろう?『大辻君よろしく』って綾乃が俺のところにお酌に来て、一瞬だけど思考回路が停止した」
暫くして皆で飲みに行こうということになり大辻も参加したのだが、そこで初めて綾乃を間近に見て今まで感じたことのない感情をどう受け止めていいかわからなかったのを今でも鮮明に覚えている。
それが、大辻にとって初めて人を好きになった瞬間だった。
「あれは、反則だったな。あんな笑顔見せられて、いくら俺でも好きになるのにはそう時間はかからなかった。正直初めはそれを認めたくない自分もどこかにいたんだと思う。でも綾乃を見ているとそんなことどうでもいいって最後には思ってたけどな」
ふっと、大辻が笑みを漏らす。
綾乃もその時のことはしっかり覚えてはいるが、大辻は誰にでも優しくてそしてかなりのイケメンだったからそんなふうに思っていたとは…意外ではあった。
「だけど俺は自分から告ったこともないからどうしていいかわからないし、綾乃はあの日以来笑顔を俺に向けてくれることもなかったしな。女の子の方が勝手に俺の周りに近寄ってくるから、半ばやけになって付き合ったんだよ」
綾乃はどうしてかあの飲み会以来、大辻に笑顔を向けることは一度もなかった。
それは大辻にはよからぬ噂があったからで、だから極力関わることを避けたのだ。
そのことに反比例するように、大辻は片っ端から女の子と付き合った。
しかし、気持ちはいつでも綾乃にしか向いていなかったのだけれど。
「お前、俺のこと避けてただろう?どうせ、誰かから女ったらしとか聞いてたんだと思うけどさ。すっげぇ凹んだよ。それを忘れるためにいろんな女の子と付き合ったけど、やっぱり綾乃のこと諦められなくて長続きしなかった」
いつしか綾乃との距離は遠のいてしまい、この恋は実らないのかと思っていた矢先のこと。
入社して3年が経つが、同期は皆仲がよく何ヶ月かに一回は集まって飲み会をするというのが恒例になっていたことだけが救いだったかもしれない。
大辻と綾乃は部は違ったけれど、二人とも必ず飲み会には参加していたからかろうじて糸は繋がっていたのだった。
それが昨日の飲み会で坂本が酔って綾乃をホテルになんか誘うものだから、さすがの大辻も限界を越えてこんな結末になってしまったというわけだ。
「こんなふうに強引に綾乃を抱いたりするつもりはなかったんだ。でも坂本がお前のこと狙ってるってわかってたから、居ても立ってもいられなくて…ごめんな」
大辻は本気で…あたしのことが好きなの?
「ねぇ、大辻は本当にあたしのことが好きなの?」
「あぁ、好きだよ。好きって言葉だけじゃ足りない、どうしようもないくらい綾乃が好き」
「信じてもらえないだろうけど…」と苦笑する大辻が、とても愛しいものに思える。
強がっていても、どこかでこの言葉を待っていたのかもしれない。
知らず知らずのうちに綾乃は、大辻の唇に自分の唇を重ねていた。
「好きなの…」
驚いた顔で見つめる大辻。
まさか、綾乃からこんな言葉が返ってくると思ってもみなかった。
「綾乃、それって…」
「あたしも大辻のことが、どうしうようもないくらい好き」
他の女の子たちのようにフラれるのが怖かった。
だから、絶対大辻を好きになったりしないって…なのに…。
「俺のことが好きって、聞き間違いじゃないんだよな?」
「うん」
「ヤバイ。嬉しすぎて、どうしていいかわかんないかも」
大辻は、綾乃の額にこつんと自分の額をくっつける。
至近距離に彼の顔があってすごくドキドキするが、綾乃は無意識のうちに大胆な言葉を口にしていた。
「ねぇ、思い出させて」
「えっ」
「昨日の夜のこと」
驚いた表情の大辻だったが、想いを寄せていた子にここまで言われて黙っていられる男などいるはずがない。
「わかった。最高に気持ちよくさせてやるよ」
綾乃を勢いよくベットに押し倒すと同時に唇を塞ぐ。
それは優しいけれどとても情熱的で、唇から彼の想いが伝わってくるようだった。
「…っ…ぁっん…っ…」
―――ヤダっ、こんなキスしたことない。
キスだけでも全身が感じて、奥底が熱くなってくるのがわかる。
すかさず彼の手が背中越しにカットソーの中に入ってくると、あっという間にブラのホックを外され、二つの膨らみが露になった。
「もう、感じてるのか?こんなに硬くなっちゃって」
イジワルく言う大辻に綾乃は心の中で『何よっ』と思ってみても、硬くなった蕾を指で弾かれ、膨らみをやんわり揉まれると言葉にならない。
「…っあぁぁ…っ…んっ…っ…」
「いいよ。もっと聞かせて、綾乃の声」
「…やぁ…そ…ん…な…っ…ぁっん…っ…」
両腕を頭の上でクロスするように押さえられて蕾を口できつく吸われると、恥ずかしいけれど勝手に声が出てしまう。
「…ぁっ…んっ…やっ…」
「綾乃、嫌じゃないだろう?気持ちいいって、言ってごらん?」
「…ぁっ…んっ…言…え…な…いっ…」
「じゃあ、これは?」
腰の上まで捲くれ上がったスカートから丸見えになっている大腿を彼の手が割るように入ってきて、ショーツ越しに花弁を刺激する。
「…っあぁぁぁ…ぁんっ…っ…」
「どう?気持ちいい?」
「…ぁっん…イ…ジ…ワ…ル…っ…」
「綾乃が、素直じゃないからだろう?」
「…だってぇ…んっ…あぁっ…っ…」
彼は「邪魔だから、取っちゃおうか」とショーツを足から引き抜くと、秘部に指が何本か入れられて中でそれぞれが別の動きをする。
それだけでも、綾乃はイってしまいそうだった。
「…っあぁぁぁっ…っ…やっ…イっ…ちゃ…うっ…っ…」
「まだ、ダメだよイっちゃ。これからなんだから」
―――うぅっ…大辻って、やっぱりイジワル。
手が止まって、お預け状態の綾乃。
こんなところで、止めないでっ。
「大辻ぃ…」
「綾乃、言って。俺が欲しいって」
「裕樹が、欲しいの」
「了解」
大辻はニッコリ微笑むと、綾乃の鼻の頭に軽くキスを落とす。
お互いまだ身につけていた服を全部脱ぎ去り、彼自身に準備を施してゆっくり綾乃の中に入って来た。
「…ぁっ…んっ…」
「綾乃、すっげぇ気持ちいい。やっぱ、最高だな」
腰をしっかりと抑えられて、段々と彼の動きが早くなる。
既に敏感になっていた綾乃は、すぐにでもイってしまいそう。
「…あぁぁぁっ…んっ…イっ…ちゃ…う…っ…」
「いいよ、イって」
「…やんっ…裕…樹…も…一…緒…に…っ…」
「…んっぁ…あっ…っ…」
そのままイくのかと思ったが、グィッと体を持ち上げられて対面座位の格好になる。
奥まで彼のモノを感じて、綾乃はフリーズ寸前。
「…あぁぁぁぁっ…っ…っん…っ…イ…くぅ…っ…」
下から突き上げられて、綾乃は呆気なくイってしまった。
でも、彼はまだまだという様子。
「綾乃、これからだよ」
「え?うそ…」
イったばかりの綾乃の腰を、彼は更に自分の方へと引き寄せる。
「…ぁっん…あぁぁぁぁ…っ…っん…ダメぇ…壊…れ…ちゃ…う…っ…」
「…ごめっ…でも、やめられな…いっ…愛して…る…綾…乃っ…」
最奥まで突き上げられて、大辻がイったと同時に綾乃は意識を手放した。
◇
「ごめん、大丈夫か?」
「もうっ、あんなにしたら壊れちゃう」
意識が飛んだのはほんの少しの間だったけれど、あそこはまだジンジンしている。
「ごめん。つい、調子に乗った」
大辻だって本当は昨夜のように優しくするつもりだったのだが、歯止めが利かなくなってしまったのだ。
せっかく想いが通じたのに、嫌われたらどうしよう…。
そんな思いが、彼の脳裏を掠める。
「もう一度、愛してるって言ってくれる?そうしたら、許してあげる」
怒るどころか、むしろ綾乃の顔には笑みが浮かんでいる。
『それで許してもらえるなら、何度でも言うさ』
「綾乃、愛してる」
「あたしも愛してる」
チュッという不意打ちの綾乃からのキスに、またもや暴走してしまう大辻なのでした。
To be continued...
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