週末の土曜日、せっかくの休みに申し訳ないと思いつつも、雄斗は和也ともえにお願いして美好の誕生日プレゼントを買いに付き合ってもらうことにした。
「すみません、お待たせして」
一足先に待ち合わせ場所に着いていた雄斗とのところへ、和也ともえが急ぎ足でやって来た。
仲良く手を繋いでいる姿は、雄斗から見ても微笑ましいというか、ある意味羨ましい。
「いえ、こちらこそすみません。せっかくの休みに付き合わせてしまって」
「いいんですよ。なぁ、もえ」
「はい」
自然に名前で呼んでしまうあたりも隠さないところは、雄斗も見習わなければならないところだと思う。
「犬丸さんは、美好さんのプレゼントをもう決めているんですか?」
「あぁ。品物は決まってるんだけど、どこの店で買えばいいのかなって。女性は憧れのブランドとかあるんだと思うんだ、ああいうものには」
もえは、てっきり雄斗が何も決めていないのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
でも、それなら本人に聞いてしまった方が早いのではないだろうか?
「えっと、何を買う予定なんですか?」
「指輪をね」
なるほど。
プレゼントで欲しい物の上位と言えば、恐らくこれになる。
男性にはほとんど縁のないものだから、聞いてもよくわからないかもしれないし、逆に聞いてしまうと相手にバレてしまうということもあるのかもしれない。
「指輪ですか?いいですね、私も欲しいなぁ」
「何だ。もえは、指輪が欲しかったのか?」
それは、和也も聞き捨てならない。
もえが何かを欲しがるということは今までなかったし、イベントごともまだだったというのもあって、和也がそういうことを考えることさえなかったと言っていい。
しかし、もえも女の子。
やっぱり、そういうものには惹かれるのだ。
「えっと…それは…」
つい口から出てしまったことで、もえも何と言っていいのかわからない。
「芹沢さん。まぁ、女性は誰でも欲しがるものですよ」
和也は、もえがそんなふうに思っていたことを知らなかったことがショックだったのだが。
そういう雄斗も人のことは言えないわけで、男というものは女心をなかなか理解できないものなのである。
◇
どのブランドの物にするか迷ったが、せっかくだからともえの憧れでもあるカルティエに。
―――さすが、犬丸さん。
私なんて、ウィンドウを眺めるだけで中に入ったこともないのに。
雑誌の特集で見るか、たまにウィンドウショッピングするくらい。
店内に入れるだけでも、今日来て良かったと思う。
「わぁっ、綺麗」
高級品ということもあるが、ディスプレイも洗練されていてまるで博物館の展示ケースを見ているよう。
「木下さんなら、どれがいい?」
「え、私ですか?えっと、えっと…」
自分の物を買うわけではないのに、つい目が輝いてしまう。
そんなもえを見ている方が、和也には楽しかったけれど…。
「これなんて、どうですか?」
「どれどれ?」
もえがガラス越しに指差したのは、ロゴのCをハートに見立てた繊細だけど存在感のあるもの。
甘くなりすぎない雰囲気が、美好にはピッタリだともえは思った。
「じゃあ、ちょっとはめてみてくれる?」
「え、いいんですか?」
「いいよ。買ってあげることはできないけど、それは芹沢さんにお願いするってことで」
ここでもえの好みをチェックすることを忘れない和也は、かなり真剣な表情をしている。
素敵な女性店員にホワイトゴールドの方を見せてもらうことにした。
初めての経験だったから、もえは少々緊張気味。
「うん、いいかも。ボリュームのあるタイプよりこの方がシンプルで、毎日身につけても大丈夫そう」
「サイズは、聞いているんですか?」
「聞けないから、これで」
雄斗がポケットから出したのは、某やきそばを買うと付いている赤いビニールで挟まれた針金(ビニタイというらしい)。
それを彼女の指に巻いてねじったのだろう。
そのままの形で、雄斗の手の中にあった。
なんだか、彼らしくてついもえの顔に笑みがこぼれてしまう。
「それ、いいですね。俺も今度、もえが寝てる時に使わせてもらいますよ」
いいことを聞いたと、妙に感心している和也だった。
他のものもいくつか見せてもらったが、初めに選んだものに決める。
値段は見てびっくりだったけれど、ずっとあげたことがなかったのだからこのくらいは当然だと雄斗は言っていた。
「二人に来てもらって、良かったです。やっぱり、俺一人ではああいうところで絶対選べませんでしたよ」
「俺も、すごく参考になりました」
色々な面で、和也には参考になったかもしれない。
そこで雄斗と別れると、和也ともえはその辺をブラブラして帰ることにする。
「美好さん、喜んでくれるといいですね」
「それは、間違いないだろう。なんか、プレゼントだけでなくて、他のサプライズも考えているみたいだから」
詳しくは聞いていないが、雄斗の話では単にプレゼントを渡すだけでなくそのための演出もしっかり考えているらしい。
そこまでされて、彼女が喜ばないはずはない。
「美好さんが、羨ましいですぅ」
「もえも、して欲しいのか?」
「あっ、そういうわけじゃ…」
慌てて否定するもえだったが、もう遅い。
なんかねだっているようで、和也に申し訳なくなってくる。
「俺達って、イベントごとってまだしてないからさ。あんまり、考えたことがなかったんだ。でも、もえの誕生日には犬丸さんに負けないくらいのことをするつもりだから」
「和也さん」
和也はもえの左手をしっかりと握って顔の位置まで上げると、薬指に軽くくちづける。
この指は、予約したから―――。
という意味を込めて。
暫くして、美好の誕生日が過ぎた次の日、彼女の薬指にはカルティエのリングが輝いていた。
END
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