擬似恋愛
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R-18

―――ラスト5本かぁ…。
市野さんに言われて、はいって言っちゃったけど…。

凪菜は好きと気持ちを告げてしまったが、リュウジはそれをどう受け止めたのだろうか?

きっと、何とも思ってないわよね。

AVの仕事をしている者が、その相手を好きになるなんてことはまずないと言っていい。
仕事とはいっても、他の人と体を合わせたこともある凪菜のことなど特に。

でも、リュウジさんに出逢わなければ、こんなに人を好きになることもなかったんだもの。
この仕事をしなければ、地味な凪菜は誰とも付き合うことだってなかっただろうし、彼のような素敵な人に出逢うことはもちろん、体を合わせるということもなかったに違いない。
短い間だったけど、普通に生活していたら絶対にできない経験をいっぱいしたんだから。

「稟花ちゃん、今度の一本は今までの純情なあなたじゃなくて、ちょっと乱れた感じにしたいんだけど」
「え?乱れたって…」

「稟花ちゃんファンのためにも、一本くらいそういうのがあってもいいでしょ?」と普通に話す市野だったが、乱れたなどと言われて凪菜は、すぐにわかりましたとは言えなかった。
純情派で売っていた凪菜はやったことはなかったが、AVには3Pだとか強姦に近いものもある。
無理言って辞めることになったし、これは最後の仕事だから嫌とは言えないが…。

「温泉旅館で稟花ちゃんの浴衣姿っていうのが、監督のお願いなんだけど」

これもAVにはよくあるシチュエーションではあるが、温泉旅館の露天風呂でとか、浴衣姿の彼女を乱れさせてなんていうのが、今回の監督の狙い。
そのためには泊まりで撮影に行かなければならないが、大丈夫だろうか?

「温泉ですか?」
「そうなのよ。だから、稟花ちゃんにはお泊りしてもらわないといけないんだけど。リュウジさんの予定も聞かないといけないから、土日あたりでね」

―――泊まり?
両親への反抗からこの世界に入った凪菜だったが、家族の前では今も昔と変わらない、いい子を演じている。
だから、友達の家にも泊まったことはないし、門限の9時もしっかり守っていた。
まともに言えば、外泊などまず不可能に近いこと。

「わかりました」
「えっ、いいの?」

あまりにあっさり承諾した凪菜に市野は、少々拍子抜け。

「はい」

―――二十歳をとっくに過ぎた大人なのに、外泊すらできないこと自体おかしいのよ。
何のためにAV女優になったの?
見えないところで自分を変えてみても、何も始まらない。
辞めることをきっかけに今度は、自分自身が本当に両親の前で変わらなければいけないのだと凪菜は思った。

「じゃあ、今度の土日は空けておいてね」

泊まりでの撮影。
そこにはもちろんリュウジも一緒だと思ったら、凪菜の顔にも自然に笑みが浮かんでいた。

+++

母に泊まりで出掛けることを話すと、予想通りどこに誰とと根掘り葉掘り聞かれたが、凪菜の『誰とだっていいでしょ、私はもう子供じゃないんだから』というひと言に驚いたのか、それ以上は何も言わなかった。
というか、言えなかったのだろう。
後ろで聞いていた父も、その時は無言のままだった。

待ち合わせの場所に凪菜が向かうと、先に来ていた市野や監督、スタッフ数名と機材を乗せたマイクロバスが止まっているのが見える。

「市野さん、おはようございます」
「稟花ちゃん、おはよう。リュウジさんは都合で一緒には行けないんだけど、現地で合流することになってるから」

いつもはスタジオでの撮影だし、共演者が打ち合わせでこそ顔を合わせるものの、それ以外で話をしたりすることは凪菜の場合ほとんどない。
こんなふうに外に出ての撮影は初めてだったから、行きから彼と一緒というのも、なんとなくキマヅイのかも。
凪菜が乗り込むと、バスは静かに走り出した。

場所は、都心からそう遠くないところにあるひっそりとした佇まいの高級旅館。
離れを用意したあたり、リュウジと稟花のラストまでを飾るには相応しい場所かもしれないが、事務所もかなり奮発してくれたと言っていい。

「リュウジさん、もう少し遅くなるそうなの。稟花ちゃんは、部屋で待っててくれる?」
「はい」

凪菜が実は女子大生だということは、この中の誰も知らないことではあったが、リュウジもその素性は謎だった。
年齢は20代半ばくらいだという話だが、この仕事以外に何かをやっているのかどうかもわからないし、もちろん名前も。
凪菜は一人案内された部屋の窓から、美しく手入れされた庭園を眺めていた。
―――よく考えてみれば、こんなふうに遠出するのも久し振りなんだわ。
これから、彼と演技であっても体を合わせることを思うと奥底がカーッと熱くなるのを感じ、それを誤魔化すようにラタンの椅子に腰掛けると静かに目を閉じた。

それから、1時間ほどしてリュウジが現れ、監督を交えての細かい打ち合わせ。
恋人同士が始めてのお泊りで温泉に来るという設定のドラマ仕立てになっていて、少し台詞も覚えなければならないのが大変かも。
その間もチラッとリュウジの方へ視線を向けた凪菜だったが、彼は真剣に監督の話を聞いているからか、一度も目が合うことはなかった。

初めは露天風呂に二人で入るというシーンの撮影だったが、外の開放感がなんとも落ち着かないというか、貸切にしてあったにしても、なぜか周りが気になって…。

「稟花ちゃん、そんなに固くなったらダメだよ」

髪をアップにしていた凪菜はいつになく色っぽく見えたが、濡れた遅れ毛がリュウジを興奮させるのには十分過ぎるくらい。

「でも…」
「ほら、力抜いて」

リュウジに耳元で囁くように言われ、固くなっていた凪菜の体も段々と力が抜けてくる。
全身を愛撫されて、それだけでも感じてしまうのは彼だから。

「…ぁっ…リュ…ウ…ジ…さん…っ…」

淵の岩の上に腰掛けた凪菜の足を大きく開き、リュウジは彼女の秘部に顔を埋めて舌で刺激する。
体を支えるために両方の腕を後ろ手をつき、仰け反るようにして胸を前に突き出すような格好になったが、夕暮れ時に彼女の艶やかな肌が輝いて見えた。

「…あっ…ぁんっ…っ…だ…め…ぇ…」

いつも以上に敏感になっている凪菜は、イくのが早い。
静かな空間に彼女の甘い声だけが響き渡る。
ゆっくりとリュウジ自身が中に入って来ると胸がいっぱいになって、涙が出そうになった。
好きという気持ちが前よりも、ずっとずっと大きくなっていたことに気付いて、締め付けられる想いにどうしていいかわからない。

「…あぁぁぁ…っ…ん…っ…ぁっ…」
「稟花ちゃんっ」

彼の首に腕を回して、しがみ付く格好の凪菜。
―――お願いだから、今だけは私を離さないで…。
その想いが伝わったのか、リュウジは彼女を抱きしめるとくちづける。
激しく腰を動かしているせいか、ぴちゃぴちゃという音と共に湯が波打って溢れた。

「…ぁぁぁっ…ぁんっ…イっ…ちゃ…う…っ…」

その時―――。
『稟花ちゃん、好きだよ』

リュウジの口からそう聞こえたような気がしたが、それが本当なのか、空耳なのか…。
意識が朦朧としていた凪菜には、言葉はすぐに消えてなくなっていた。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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