LOVEヘルパー番外編
月の裏側慕情

【注】この作品はTHE JUNE内『Actor』に関連しておりますが、゛藁゛ゆり 様が書かれた別のお話です。


【誰にも見せない、月の裏側慕情】


゛俺のものだ…゛

一目で直感したしたのを、次の瞬間に慌てて否定した。
初めてそう直感したのは、まだ目も見えぬ名付け子が自分に笑いかけた時だろうか…いや。目が見えてないのだから、それは自分の思い込みだ。
それからも。まだ、よく回らぬ口で呼ぶ声に、おぼつかぬ足取りで差し伸べられる手に、自分のあらぬ感情を勘違いだと決め付けて、何度葬り去ってきただろう。
その葬った感情の蓄積が告げる。

゛まだ間に合う!゛

何に、間に合うのだろうか―?
思いつめた表情で、自分を見つめる名付け子。

゛草木が芽吹き、衣を変える季節に生まれた子=芽衣子゛

目をかけていた後輩が大学卒業と同時に同級生と結婚し、親戚はいるものの、家族が無いも同然の新郎新婦の婚姻保証人になり、勢い名付け親にまでなった。
まだ結婚もしてないのに姓名判断の本まで買って、女の子だから将来の字画まで考えて…そんな境遇に陥れた張本人達は、笑って言った。

゛もしもの時は、先輩に(お嫁に)あげますよ!゛
゛女の子は親の承諾があれば十六歳でお嫁にいけますから♪゛
゛でも、そうすると先輩が息子になるのか〜゛
゛こんなカッコイイ息子を持てるなんて、嬉しいわぁ〜゛

夫婦そろって、周囲からのお見合い・縁談攻撃に辟易としていたのを知っていたから…本当に夫婦そろって笑えない冗談を―。

「篠原さん…」

想い出から覚醒させたのは、笑えない冗談で、亡き両親から名付け親に嫁にやられそうな娘。
ただでさえ色白なのに、緊張で蒼白になっている。

「芽衣子ちゃん、話し合おう」

余裕を取り戻して、冷静に話し合いを提示する。
まずは、無茶な留学を止めさせなければ!

「篠原さん…篤さん!」

脳内で優先順位を選択していたら、胸元に名付け子が飛び込んできた。
両腕でキャッチ出来なかったのは、反射神経の衰え…とは思いたくない。

「やっと、やっと呼べました。篤さんって」
「…芽衣子ちゃん」

半分涙声の芽衣子と、どんなふうに話せばいいものか…。
名付け親を途方にくれさせておいて、名付け子は話し出す。

「わたしが二十歳になったら結婚してください!」
「………」

女性からナンパされるのを逆ナン。
ならば、女性からプロポーズされるのは、逆プロポーズ…とでもいうのだろうか?
若者言葉には、イマイチ詳しくない。

「…キスしてもいいですか?」
「ちょっと待ちなさい」

さすがに正気になった。
ここで流される訳にはいかない。常識的に。

「まずは、―話し合いだ」

胸元から芽衣子を引き剥がし、ソファの方へ押しやる。
それが不満気な芽衣子に無理に飲み物を勧め、自分もコーヒーを飲む。
落ち着いたような気がする。2人とも。

「芽衣子ちゃん。意味が無い留学は、止めないか?」
「だから、篤さんのお嫁さんにして下さい」
「………」

何だか、堂々巡りをしているような会話である。
それとも、ソレは気のせいだろうか?

「日本の法律では、二十歳になったら自分の意思で結婚できるんですよ?」

゛知ってます…゛

でも、だからといって二十歳で結婚することは…あんまり無いだろう。
出来ちゃった…いやいや。おめでた婚じゃあるまいし!
胸中で葛藤していると、目の前が陰った。

「…篤さん。五ヶ月、いえ。もうすぐ四ヶ月で二十歳になるんです。もう大人です」

自分に覆いかぶさってくる芽衣子を、さて。どうしたものだろう?
思い詰めた目をした芽衣子を、拒否出来ない。出来ないが―。
唇を奪われてしまいました。

「…芽衣子ちゃん。オジサンをからかっちゃいけない」
「からかってなんかいません!わたしはいつも本気です!!」

゛知ってます…゛

だから、冗談に紛らわすことも出来ずにいるのだ。今現在も。

「゛芽衣子゛って、呼んでください」
「…芽衣子ちゃんって呼んでる、だろう?」

大人気ないのは自覚しているが、芽衣子が望むように呼び捨てになど、ありとあらゆる意味で出来そうもない。
白黒をつけるには、いい年しているからこそ躊躇するお年頃である。
大人げ無さすぎて卑怯なのは、十分以上、自覚しているが…。
自嘲している、いい年した男をソファに組み敷いた芽衣子は、下唇を噛んで男の首に手を伸ばした。そして、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外してゆく。

「ちょっ、ちょっと待て!」

本格的に自分が襲われていることを自覚した(45歳の)いい年した男は、慌ててストップをかけた。自分を襲っている二十歳未満の女の子に…立場が逆ならば、立派な強姦=性犯罪である。いや。これも、強姦―であろうか?

「芽衣子ちゃん、いや!芽衣子。頼むから落ち着いてくれ」
「…わたしが落ち着いたら、わたしのお願いもきいてもらえますか?」

ヘタな返答は、墓穴を掘る…。
沈黙する男の頬に手を添えて、芽衣子は切々と訴えた。

「わたしは、貴方に会う為に生まれてきたんです―」

物心つく前から自分を慕ってきた幼女が、両親を亡くしても少女の情熱でひたむきに自分を慕い、大人の女性になろうとする今も、自分を求めている。
この大人になろうとする女性に、自分はこれ以上、何が出来るだろうか?

「―芽衣子が二十歳になって、学校を卒業したら、結婚しようか」
「…はい!」

半分、涙目になっていた芽衣子の目から、涙が零れた。
長い長い、生まれたときからの片想い(?)が、相思相愛になったのだから―。

「さて。じゃあ、ちょっとどいて」
「え〜〜〜」

ソファから身体を起こしかけると、芽衣子が不満の声を上げた。が、この場で襲われるのは、ちょっとどころか、かなりご遠慮願いたい。
大人の余裕を取り戻したいい年した男は、とびきりの内緒話を打ち明けるように芽衣子の耳元に口を寄せた。

「ここまできたら、やっぱり初夜だろう」

真っ赤になって俯いた芽衣子を、いい年した男は、それはそれは楽しげに見つめていた。


END


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