LOVEヘルパー番外編
月の裏側D本業開始!

【注】この作品はTHE JUNE内『Actor』に関連しておりますが、゛藁゛ゆり 様が書かれた別のお話です。


「―それの、どこが難敵なんですか?」

ソファに身を沈めて、大和の報告にちひろが眉根を寄せる。

「…いい年した男が、親友の忘れ形見の娘は自分の子供同然で、その娘よりいくつか年上の見合い相手の女性とは婚約する―いずれ結婚すると、決めているんだぞ?」
「だから、何?」

完全に目が据わっているちひろには、男の決断だとか、大人のけじめ…などという言葉を聴く耳は無いだろう。

゛さて。何と説明したものか…゛

大和が密かに悩んでいると、どこか遠い目をして、ちひろが言った。

「―わたしは、芽衣子ちゃんを応援してあげたいんです」

半日ほど一緒にアルバイトをしただけなのに、随分と絆されたものである。
呆れたような大和の視線に、ちひろは苦笑した。
そして芽衣子を応援したい理由を告げる。

「だって彼女は、もう既にall-or-nothingなんです」

【全てか、さもなくば無か】

゛究極の選択…とでも言うのだろうか?゛

暢気に考えていた大和であるが、ちひろの次の言葉に凍りついた…かもしれない。

「芽衣子ちゃん。二十歳になったら保護権利拒否を申請して、年があけた学期代わりに海外の姉妹校に転学する予定です。そうすると五年は帰国しないでしょうし、状況によっては永住権を申請するそうです。現地の方と契約結婚して…」

日本に帰国しないだけじゃなく、かつての保護者とも絶対に会わない計画を立てている…。


まさに【全てか無か】、究極の選択。

「…そんなことしたら社長、気が狂うぞ?」
「自業自得です」

大和の真っ正直な感想に、冷たく返答を下すちひろ。
こういう場合、女性の方が思い切りがいいのかもしれない。

「―わかった。この依頼、受理する」
「了解」

しかし。依頼受理したからといって、難敵・45歳男性と20歳になる女性の恋愛成就させる為の対策があるでなし〜。
【恋愛相談所】としての、作戦会議である。

「―篠原社長にヘタな策略は通用しない。いままで散々そのテの作戦を仕掛けられて、それを切り抜けてきた人だ」

いまだ独身の、゛玉の輿゛社長の対処法に悩む所長。

「わたしとしては、2人きりにさせて芽衣子ちゃんに自分の思いの丈をぶちまけてもらう方が確実だとおもいます」

女性対象者贔屓の、助手の発言である。
味方したいのは分かるが、そう簡単にはいかないだろう。
それも一つのテではあるが…。

「で。どーやって2人きりさせる?」

助手の発言の可能性を探る、所長。
作戦―と言うのはおこがましいが、本人達の気持ちが一番であるから。

「2人きりで時間に拘束されず、邪魔が入らず。その時間を篠原社長に捻出させるのは、至難の業だぞ?」

所長が下した結論に、助手は何でも無い事のように反論した。

「所長は何の為に、社長の下に社員として派遣されたんですか?」

痛い所を遠慮なく突いてくれる、助手である。

「…ま。時間が出来たとして、どうやって2人きりにさせる?」

時間を捻出させる件を先送りして、所長は次なる難問を助手に突きつける。
これで時間を捻出させる件は、必要なくなるになるかもしれない。

「海にドライブに行って浜辺で戯れる!」

先刻の比、ドコロではない。
やたらと痛い所を突かれた大和であるが、その原因については詮索したくない。絶対に。


「…で、だ。どうやってドライブに連れ出す?」

肝心な問題を先送りにしている事は承知の上で、更に助手に問題提示する。
しかし。助手のちひろにとって芽衣子関連事項については、応援すると言明したときから可能な限り、調査済み。本人から。
だから芽衣子についてなら、どんな問題にも基本的な対処できるのだ。

「芽衣子ちゃん、車の普通免許を取得しているんですけど、ペーパードライバーなんです。海外の免許を取得するためにも、ここは練習が必要ですよね?」

助手が誰に同意を求めているのか、確認したくない所長だった。
だが、このままだと多忙な社長に時間を捻出させなければならないのは、所長である。


「練習は必要だな。だけど毎日運転手付きの車に乗車している社長に、ペーパードライバーの運転指導ができるかな?」

所長の疑問に、至極アッサリと助手が答える。

「知らないんですか?篠原社長はモータースポーツライセンスを、それも四輪自動車のスーパーライセンスを持っています。要するに、カーレースにも出られます」

多忙な社長は、意外な資格の持ち主だった。
ここは、篠原社長に時間を捻出させる算段をした方がいいだろう。
すっかり寡黙になった所長に、助手は続ける。

「芽衣子ちゃんのお父さんとは、レース仲間だったそうですよ…」

ならば、社長に時間を捻出させるのも簡単かもしれない。
意外な安易さに胸を撫で下ろして、当初の問題を算段しようとしていた所長に、助手の言葉が続く。

「ご両親が亡くなった原因は、酔っ払い運転手の玉突き事故です」
「………」

篠原社長が運転指導するか否か、紙一重かもしれない。
そして、それが芽衣子がペーパードライバーだった理由だろうか?
すっかり考え込んでしまった大和に、ちひろが止めの台詞を言葉にした。

「この事は、みんな依頼者から提供された資料にファイルされてましたよ」

彼ににとっては、まだまだ悪魔の所業が続く…かもしれない。


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