LOVEヘルパー番外編
プロローグ前後~大和視点

【注】この作品は゛藁゛ゆり 様が書かれた別のお話ですが、THE JUNE内『Actor』バージョンで読んで下さるようお願いします。


テレビ局の控え室で、身だしなみを確認する、吉原 大和。(よしはら やまと)
国民的人気俳優と呼ばれていても、撮影前には緊張する。その緊張を少しでも緩和させるのに身だしなみを確認することは、俳優としての一種の義務である。

その年のテレビ局が総力を注いだドラマ。『LOVEヘルパー -あなたの恋、成就させます-』は、初回から予想を上回る視聴率を記録し、その記録を回を重ねるごとに伸ばし続け、最終回には最高視聴率を記録するほどの大ヒットドラマだった。だからテレビ局としては番外編が計画されるのも当然で、その番外編には、さらに話題を加えたくもなる。
この加える話題に該当したのが、主演の吉原 大和とCMに登場したときから騒がれている、大和の恋人。(仮名)
ドラマの放映当初から彼女の所属事務所にオファーをかけていたが、事務所側は言を左右に断り続けてきた。
それは当テレビ局だけではなく、他のテレビ局でも同じ結果だったという、謎の女性。
だが今回の番外編には、同じ事務所に所属する大和自ら説得し、共演する事までこぎつけた。
吉原 大和が時折、自分の仕事に彼女を引っ張り込んでいるのは、公然の秘密(?)である。

「大和君、そろそろ時間だろう?」

スタイリストの景(けい)が、鏡の前の大和に話しかけた。

「ですね。未来(みく)を迎えにいかないと、逃げ出すかもしれない」

機嫌の良い大和に、景は苦笑する。

「それは大丈夫。麗(れい)がスタイリストとしてついてるし」

実際、テレビドラマ初出演で逃げ出したいだろう未来に、自分の恋人・麗をスタイリストとしてつけたのは、景である。
大和と景は、連れ立って未来の控え室に向かった。
しかし、未来の控え室の手前から麗が出てきた。一人で。
不思議がる二人に、麗は笑って説明した。

「今から大和さんを呼びに行こうとしていたんですよ。未来さん、すっごく綺麗ですぅ~」

その説明に、大和は一人で未来の控え室に向かった。
景と麗が気を利かせたのである。

「未来」

ノックするのと同時にドアを開けて、大和が控え室に入った。

「…大和君」

室内には、緊張して座ることもできずに佇んでいる、未来。
明るいライトの下では白いスーツはまぶしすぎるぐらいだが、染めたことが無い未来の黒髪とのコントラスが絶妙で、不安げな表情も儚げで今にも消えてしまいそうだ。
大和は無言で未来を抱きしめた。
そうしないと、未来が消えてしまうような予感に囚われたから…。

「―ちょっ、大和君!」

その唐突な行動に、未来の緊張が解けた。
大和の腕の中で未来がもがくが、さらにきつく抱きしめられ、もう身動きすることすら出来ない。
控え室の中とはいえ、誰かに目撃されたら大変だ。なのに、大和は止めようとしない。

「―もう少しだけ、このままで」

未来の耳に、囁く大和。

「…どうしたの?」

この普通ではない大和の行動に、未来が心配そうに問い返す。

「―そのスーツ、雰囲気ありすぎるよな。さすが景さん」
「大和君?」

゛雰囲気゛―が、変わったのは大和の方だった。
180度とまではいかないが、先程の切なげな雰囲気がふてぶてしくなっている。
本来の大和の雰囲気―と、言ってしまえばそれまでだが…。

「ドラマで未来が演じる女性は、もっと強かに!」

確かに。未来が演じる女性は、強かである。
人魚のように儚げで、海底でも生息できるほど強か―が、彼女のコンセプト。
そのコンセプトに合致したのが、未来。
(そして済し崩しに、大和に説得された)
それを知った景が、アンデルセンの童話と睨めっこしながらデザインしていたと、麗ちゃんから訊いたばかりだ。

「それだけ?」

なおも不審げに自分を見つめる未来に、大和の唇が額に触れた。いつものように。

「…!いつも思うんだけど、このおまじない、ドキドキが増すような気がするんだけど?」

未来のクレームに、いつものように笑って言い切る。

「気のせい」

゛少なくとも、俺は落ち着くし。色んな意味で☆゛

未来が知ったら激怒モノの、大和のココロの声だった。
知らぬが花…じゃなくて、世の中には知らない方がいい事もある。

「さあ、そろそろ撮影時間だ」

色々と突っ込みたかった未来だけど、゛撮影゛の一言で、大和に誤魔化される事にした。

何しろ何度大和と共演しようと、゛自分は女優じゃない!゛という思い込みが未来にはある。
そして。そういうトコロも、大和のツボだった。


2人して撮影現場に入ると、未来を目にした周囲がざわついた。
未来から目が離せなくて、仕事の手が停止した者までいる。
だから大和は悟った。
未来を抱きしめて、離したくなかった理由を―。

「やあやあやあ。イメージ通りだね!」

監督がやけにニコニコしながら、2人の前にやって来た。
そして未来の姿を嬉しげに眺める。

「じゃあライトの下に立ってもらおうか。光の調節をしたいからね」
「はい」

監督に示されたとおりにライトの下に立つ未来を、その場にいる誰もが見つめた。
目を―離せないのだろう。

大和としては、あまり面白くは無い。未来がどんなに綺麗でも!否。綺麗だからこそ、人目に曝したくない!!…自分勝手な我儘だと、わかってはいても!!!

゛一発で終わらせてやる!゛

無神経に耳に飛び込んでくる未来への賛辞を聞き流しながら、そのくせ相手をいちいち確認して、監督が聞いたら大喜びしそうな事を、自分に誓った。
撮影開始されるが待ち遠しい、大和である。


* * * * * * * * * * 

「カット!はい、オッケー!!大和君、今の表情は最高に良かったよ!!!」
「どーも」

最初のシーンを一度で終了。
監督が絶賛するのも、周囲の溜息も、大和には関係無かった。
自分に誓ったように、一発で終わらせられたことに安堵する。
だが、一発で終わらせられたのは大和だけの力じゃない。

「はるかさんも良かったよ~」
「ありがとうございます」

監督に褒められて、ちょっと困ったように未来が微笑む。
それにもまた周囲がざわめくのだが、それが当人だけには分かって無い。

「はるかさんには他のシーンにも出演してほしいぐらいだよ」
「そうすると今回のコンセプトが台無しです」

未来が答える前に、大和が事実を指摘した。
それは事実であるが、監督としては偽らざる本音である。

゛こんなにいい雰囲気の2人は滅多にいない゛

挨拶もそこそこに、大和は未来の手を引いて撮影現場を後にした。
現場に残されたスタッフが口々に例の噂、゛大和の恋人疑惑゛を口にしたのも無理は無い。


END


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