「ここは?」
目の前にそびえたつのは、ウォーターフロントに建つ超高層マンション。
「俺の家、だけど?」
「え…?」
―――だって、ここすごい…清家は一人暮らしだって聞いてたけど、こんなところに住んでいるとは知らなかった。
「清家、本当にここに住んでるの?」
「ああ。俺には3歳年上の兄貴がいるんだけど、結婚して実家を二世帯住宅にして住んでるんだよ。でさ、独身の男の俺が一緒に住むわけにもいかなくて、早く結婚しろって勝手に親がここを買って追い出された」
―――親が勝手に買ったって…。
清家の家って、実はすごいお金持ち?
確かに名前だって、なんか重みがあると言えばそんな気もするし…。
そんなあずさのことを気にもせず、清家はエントランスを抜けてエレベーターに乗る。
清家がさり気なく押したボタンは、最上階の30階。
こういうマンションは上に行けば行くほど値段も高いはず、最上階となればそれはもう…。
あずさは、考えただけでぞっとした。
―――とんでもない人に好かれちゃったな。
チーン。
エレベーターの扉が開くと真っ直ぐに伸びた廊下。
正面には、ドアはひとつしかない。
それは、この階には清家の部屋ひとつしかないことを物語っていた。
彼がキーを差し込んでドアを開けると、そっとあずさを招き入れる。
玄関だけでもものすごく広かった。
ここだけで、あずさの部屋がすっぽり収まってしまいそうなくらい。
「どうした?」
さっきからボーっとしているあずさに清家が問いかける。
彼は目が悪いのか人の顔を覗き込むように話す癖があって、その度にあずさの心臓はビクンと飛び跳ねるのだ。
「ううん。なんでもない」
清家に手を引かれて部屋に入ると何十畳もある広いリビングは、まるでモデルルームのようだった。
「すっ、すごいね。清家、ほんとに一人でこんなすごい家に住んでるの?」
「他に誰と住むんだよ」
おチャらけるように言う清家の言葉通りだったが、あずさには到底こんな広い部屋に一人で住むことは考えられなかったのだから仕方がない。
「だって…」
「まぁ、確かに一人じゃあ広すぎるな。だったら、お前が早く一緒に住んでくれればいい」
清家は突然突拍子も無いことを口にするので、あずさはいつもドキドキさせられる。
「はぁ?誰が清家と一緒に住むのよ」
「なぁ、名前で呼んでくれよ」
「嫌よ。そんなの急に言えるわけないじゃない」
清家はあずさの正面に立つと彼女の腰に手を回して、自分に密着させるように引き寄せた。
「そんなこと言わないでさ。 あずさ―――」
清家の顔がキスできるほどの至近距離で急に名前で呼ばれて、あずさはさっきからドキドキしている心臓がより早く鼓動を打ち始めて今にも口から飛び出しそうだった。
「ほら、一磨って言ってごらん」
それでもあずさが躊躇っていると、より腰を強く引き寄せられる。
―――わかったわよ。言えばいいんでしょ!言えば。
「一 … 磨」
「そう。よく言えました」
そう言うと、一磨はあずさのおでこにチュッと音を立ててキスをした。
あずさはもう恥ずかしくて、どうしていいかわからずただ下を向いて彼に顔を見られないようにしていた。
多分、茹蛸のように真っ赤になっていたとは思う。
それにして、清家がこういう男だとは思ってもみなかった。
前の彼氏はあまりそういうことをするタイプではなかったし、あずさ自身も自分からベタベタするようなこともなかったのだ。
「清…、一磨なんかキャラ違うよ?」
「俺は、前からこうだよ。あずさが知らなかっただけだろう?」
そう言われてみれば、あずさは一磨のことを何一つ知らなかったのだ。
こうやって、ひとつひとつ新しい発見をしていくのだろう。
それにしてもこんなにギャップがあると正直ついていけないのも事実。
「なぁ。このままこうやっていると俺、辛いんだけど」
「え?」
あずさは一磨に言われるままに彼の家まで来てしまったけれど、ここに来たと言うことは彼と抱き合うということ。
一磨の気持ちもわかる。
こんなあずさを5年もの間ずっと見続けて来て、あずさが別の彼と付き合っていた3年間も彼は想い続けていたのだから。
そんな一磨の気持ちに答えてあげたいとは思う。
けれどあまりにも急な展開で、あずさにはまだ気持ちがついていかないのだ。
「一磨」
「うん?」
「私ね、一磨の気持ちはすごく嬉しいの。こんな私をずっと想っていてくれたなんて、できるなら一磨の全部を受け止めてあげたい。でも、私は彼と別れたばかりでまだ気持ちの整理ができてない。こんな気持ちで一磨の優しさに甘えてしまうのは嫌なの」
一磨は左手であずさの腰を抱きながら、空いた右手で彼女の髪に指を絡めた。
「そっか、そうだよな。まさかあずさが彼と別れるとは思ってなかったから、俺もこんなふうに自分の気持ちを伝えることもないと思ってたんだ。それがいきなりあずさに彼と別れたなんて聞かされて、1人で突っ走ってたんだな」
一磨の言う通り、きっとあずさは彼を好きになるだろう。
ただ、今はもう少し時間が欲しかった。
こんなふうに想っていてくれた一磨にだけは、曖昧な気持ちで接したくなかったから。
「ごめんね。もう少しだけ待ってくれる?私、きっと誰よりも一磨のことを好きになると思うから」
「あぁ、あずさのことを待つのはもう慣れてるよ。けど、できるだけ早く頼むな」
「うん。ありがとね」
あずさは一磨の背中に腕を回すとぎゅっと抱きしめた。
「今日は帰るか?帰るなら車で送って行くよ」
「一磨が嫌じゃなければもう少し一緒にいたい、もっと知りたいし話したい。でも、一磨が辛いなら帰るけど」
「俺もあずさと一緒にいたい。明日は休みだし、今夜はゆっくり話そうか」
一磨はソファーにあずさを座らせるとキッチンに行って、カフェオレを作って持ってきてくれた。
あずさがカフェオレ好きだということを彼はちゃんと知っていたのだ。
そんなところ、あずさはすごく嬉しいと思ったりして。
二人は今までの分を全て埋めるかのようにお互いのことを話した。
一磨は意外にも高校生までモテなかったとか、あずさは実は家庭的で料理がうまいとか夜が明けるのも忘れて話しに夢中になっていたが、いつしか二人は深い眠りについていた。
+++
突然、一磨から好きだと言われ付き合うことになったあずさだったが、内心は戸惑いを隠せないでいた。
今まで、絶対にそういう関係にならないと言い切れるほどあずさの中では対象外だったのだから。
それが次の日から特別な存在になっているという事実が、なんだか恥ずかしい。
会社でいつものように仕事をしていても彼のことが気になってしまう、知らず知らずのうちに目で追ってしまうのだ。
―――これって、重症かも…。
薄情な話だが、もうすっかり元彼のことなど遠い存在になりつつあるのは事実だった。
―――はぁ…。
「何、ため息吐いてるんだよ」
「えっ?」
あずさは自販機で飲み物を買おうとしていたのだが、ボーっとしていて一磨がすぐ側にいたことなど気付かなかった。
「べっ別に…」
「何、俺のこと考えていたのか?」
ニヤニヤしながらあずさの顔を覗き込むようにして一磨が言った。
当たっていただけに言葉に詰まってしまう。
いつだってそうだ、この男はあずさの心の中が透けて見えているのではないかと思うくらい、思っていることを言い当ててしまうのだから。
「違うわよっ!誰があんたのことなんか考えてるのよ」
素直じゃないあずさは、ここでどうしてもそうだとは言うことができない。
「まぁそう怒るなって、お前ってほんとわかり易いのな。そういうところが、可愛いんだけどさ」
―――なっ、なんでそうなるかな…。
しかし、一磨への想いが日に日に大きくなっているのは、自分でもどうしようもないことだった。
「なあ。今夜、家に来ないか?」
「えっ?」
―――それって…。
ここでYESと言えば、今度こそ彼の気持ちを受け入れることになる。
「まだ、駄目か?」
待つと言った手前、一磨はこれ以上強く言うことはできなかったが、本当はもう限界だった。
あずさが自分のことを今までとは違った想いで見つめていることは、彼女のことを誰よりも想い続けている一磨にはすぐにわかることで、それが余計に一磨の心の中をあずさで一杯にしていたのだ。
「一磨…」
あずさの中では、もうとっくに答えは出ている。
ただそれをあずさの性格上、口に出して言えないだけ。
「ごめん。あずさを困らせるつもりはなかったんだ」
あずさの表情からそう受け取ったのだろうが、一磨のそう言った顔が少し悲しげに見える。
「違う。そんなんじゃないの。あのね…あの…私、一磨の家に行ってもいいの?」
「え?」
あずさの言葉に一磨が一瞬固まった。
驚きと嬉しさの入り混じった彼の目は、大きく見開いたまま。
「いいのか?」
「うん。一磨がいいなら」
自分の言った言葉にもう迷いはなかった。
「いいに決まってる」
そこには、満面の笑みで微笑む一磨の顔があった。
◇
あずさはあの日以来一磨の家に来るのは2度目だったが、相変わらずの豪邸にどうも戸惑ってしまう。
本人は至って普通のようだけれど、あずさにとってみればこれは普通とは到底言いがたい光景なのだ。
「どうした?」
一磨の家に入る度に最初に言われる言葉。
これは決して、一磨を受け入れることを躊躇っているわけではないのだが。
「何でもない。相変わらず、すごい家だなって思って」
「そうか?そんなことないと思うが」
何とも思わない一磨はやっぱりどこかのお金持ちの息子なんだろうか?などといらぬことを考えていると背後から急に抱きしめられた。
「ちょっ、ちょっと。一磨?」
いきなりのことで、どうしていいかわからない。
「一磨」
「シャワー、先に浴びるか?」
耳元で囁くように言われると、あずさの心臓は急に鼓動を早めた。
あずさは後でいいからと一磨に先にシャワーを浴びてもらうように言うと、名残惜しそうにあずさから身を離してバスルームに消えて行った。
まるで初めての時のように心臓が脈を打っているのがわかる。
―――あぁ、なんでこんなに緊張してるのよ。
自分でもわからないくらい、あずさはドキドキする心臓を持て余していた。
所在なげにソファーに座っているとバスルームから上半身には何も身に付けず、下半身にはタオルを巻きつけただけの一磨が出てきた。
「ちょっと、そんな格好で出てこないでよ」
思わずいつもの調子で言ってしまった。
「どうせ脱ぐんだから」
―――それはそうだけど…でも、目のやり場に困るじゃない。
「それより、あずさも早く入ったら?」
言われなくても入るわよ、そう言いながらあずさはバスルームに入る。
さっき見た一磨の身体は、とても引き締まっていて綺麗だった。
これからあの力強い腕に抱かれるのだと思うと身体の奥底が熱くなるのを感じていた。
あずさは、一磨に借りたローブを羽織ってバスルームを出る。
もちろん中には何も身に着けていない。
少し上気して赤く火照ったあずさの顔を見て、一磨は吸い寄せられるようにして彼女の元へと歩み寄った。
「行こうか」
あずさのを手を取るとリビングの隣にある寝室に入って、サイドテーブルに置いてあったスタンドの小さな灯りだけを燈す。
お互い向かい合って立ち、一磨がゆっくりとあずさのバスローブの紐を解いて肩から落とすと優しく抱きしめた。
「あずさ、ずっとこうしたかった…」
切なそうに耳元で囁く一磨の背中にそっと自分の腕を回す。
肌と肌が直に触れ合って、あずさの心臓の鼓動が一磨に聞こえてしまうのではないかと思った。
「俺、今すっげえドキドキしてる」
一磨は少しだけ身体を離してあずさの手を取り、自分の胸の心臓がある辺りに持っていって当てる。
あずさは恥ずかしさもあって顔を俯かせたままだったが、一磨の胸の鼓動を感じて顔を上に向けた。
「ほんと、ドキドキしてる」
「あずさは?」
「私も。もう、心臓が口から出そうだもん」
あずさは自分の手を一磨の胸に当てたままで、同じように彼の手を取ると自分の胸の心臓あたりに当てた。
「本当だ。あずさ、すごい」
どちらからともなく小さな笑いが洩れた。
一磨はもう一度あずさを抱きしめると、初めは触れるだけの口づけを落とす。
「あずさ、愛してる」
この言葉をきっかけに啄ばむような口づけから段々と深くなっていき、一磨の舌があずさの舌を捕らえて絡め取る。
思わず、あずさの口から甘美の声が洩れる。
「はぁ…」
名残惜しさを残しつつも一磨はあずさを抱き上げるとゆっくりとベットの上に横たえて、彼女の上に覆いかぶさった。
あずさはこんなふうに見下ろされるとやっぱりまだ恥ずかしくて、胸を手で隠しているとそっと一磨にその手を1つずつ剥がすように外された。
「やだ、そんなに見ないで」
「どうして隠すんだ?」
「だって…私スタイルよくないし、一磨をがっかりさせちゃう」
―――オイオイ、この身体のどこが、俺をがっかりさせるって言うんだ?
あずさの身体は、出るところはちゃんと出ていて締まるところはきゅっと締まっている、AV女優なんて比にならないほどのスタイルの良さの上に真っ白でまるで絹のような肌さわりだった。
「そんな可愛いこと言うなって、大丈夫あずさはとっても綺麗だよ。だから、俺にあずさの全部をちゃんと見せて」
「一磨…」
―――そんな潤んだ目で見られたら、理性が利かなくなる。
何とか暴走しないようにと落ち着かせながら、もう一度、触れるだけの口づけを交わすと耳に吐息を吹きかける。
一瞬、あずさの身体がビクンと跳ねたのがわかった。
「あずさ、耳弱い?」
「そんな…こと…あん…」
「いいよ。もっとあずさの声、聞かせて」
そして首筋から鎖骨、胸へと順に舌を這わせていくと、ふくよかなふたつの膨らみのピンク色の突起は既に固く主張していた。
一磨はあずさが自分のものだという痕を残したくて、胸の少し上あたりに赤い薔薇の花をいくつか咲かせるとピンク色の突起に吸い付いた。
「はぁ…っん…」
もうひとつの膨らみを手で被うようにして揉みしだく、一磨の大きな手でも余ってしまうくらいのそれはとても柔らかで抑えていた一磨の理性もどこかに吹っ飛んでしまった。
初めだから優しくしようと決めていたのに…もう歯止めが利かなかった。
ピンク色の突起を指で摘まんで弾くと、あずさは身体を捩って反応する。
「あぁぁぁ…っん、一磨っ」
あずさの足を割って、秘部に手を触れるとそこはもう蜜がいっぱいに溢れていた。
くちゅくちゅといやらしい音を立てて、それが更に欲情を誘う。
「あずさ。もうこんなに濡れちゃって、気持ちいいのか?」
「そん…な…こと」
胸から肢体に向かって舌を這わせると、茂みの中に小さく主張していた蕾を舌で刺激する。
「いやぁぁぁ…んっ…」
「あずさ、嫌じゃないだろう?」
蕾に舌で刺激を加えながら、あずさの中に一気に指を2本入れると内壁を掻き回すように動かす。
「いやぁぁ…一磨…ダメ…イっちゃう…あぁぁぁ」
「いいよ、イって」
「あぁぁぁぁ…っん」
あずさは、大きく仰け反った後に動かなくなった。
「あずさ、イったのか?」
あずさの荒い吐息だけが静かな部屋に響いていた。
これだけでもう我慢の限界に達していた一磨は、サイドテーブルの引き出しに入れてあった小さな袋を開けて自らに装着する。
「あずさ、入れるよ」
一度イったあずさのそこは既に敏感になっていて、少し入れただけでも一磨自身をきつく締め付けてきた。
「うっ、あずさ、締め過ぎ」
ただでさえ限界だった一磨だけに、この心地よさはすぐにでもイってしまいそうなくらいだった。
一度動き出したらもう止められないくらい、あずさの中は気持ちがよかった。
「はぁぁぁぁっ…んっ…。一磨、一…磨っ」
手を広げて一磨の名前を呼ぶ、あずさをぎゅっと抱きしめると最奥まで貫いた。
「あずさ、愛してる」
「わたしも…一磨…愛してる」
二人は、すぐに絶頂に達していた。
ずっとあずさのことを想い続けてきた一磨だったから、一度繋がったくらいでは気持ちが納まるわけもなく、何度も何度も、彼女の中で果ててはまた繋がった。
仕舞いにあずさは疲れ果てて、一磨と繋がったまま寝息を立てて眠ってしまった。
一磨は自分の腕の中で眠るあずさを見つめながら、至福の時を味わっていた。
1人の女性にここまで想いを寄せることなど、今までの一磨には到底考えられないことだった。
この5年間誰とも付き合わなかったわけではないが、いつも頭の中にあずさの存在があった。
一磨のことを好きではなかったあずさだったから、一度も笑顔を自分に向けてくれることはなかったけれど、それでも一磨が思い浮かべる姿はいつも笑顔で微笑んでいるあずさの顔だったのだ。
そんなあずさが自分のことを好きになってくれて、こうやって腕の中で眠っている。
一磨は、眠っているあずさの唇に自分の唇を触れさせるとゆっくりと眠りについた。
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