続 赤と黒
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R-18

週末の夜、いきなり部下である綴に告白されて付き合うことになった律花だったが…。
その彼は、何事もなかったかのように目の前で黙々と仕事をこなしている。
まさか、こんなに年下の彼氏ができるとは…。
それも自分の部下なんて…。
考えてもみなかった展開に、正直律花も戸惑いを隠せない。

パソコンの画面を見ているフリをしながら、つい彼を目で追ってしまう自分がいることを隠すように席を立った。
―――なんだか、やりにくいわね。
誰もいない喫煙室で1人煙草を吸う。
特に女性がこの部屋に入ってまで吸う人はあまりいなかったし、体に悪いことはわかっていても男性に混じって仕事をして行く上で、これは止むを得ない事だった。
ボーっと窓の外の景色を見ていると背後でドアが開く音が聞こえる。
ここで煙草を吸う人は決まっているから、さして気にも留めなかったけれど…。

「律花さん」
「えぇっ」

予想していなかった名前を呼ばれて急いで振り返ると、綴がポケットから煙草を取り出すところだった。
誰もいないとはいえ会社内で名前を呼ぶということもさることながら、彼は煙草を吸わないはず。

「ちょっと、南雲君。社内でそんなふうに呼ばないでよ」
「いいじゃないですか、誰もいないんですから」

しれっと言う綴だったが、煙草を持つしなやかな手につい見惚れてしまう。

「誰もいないからって、いつ誰に聞かれるかわからないんだから」

社内恋愛というのは何かと噂になりやすい、ましてや仕事に生きる女と思われている律花が7歳も年下の部下と付き合っているなど、面白おかしく言われるに違いないのだ。

「いいじゃないですか。俺としては、その方が都合がいいんですけど」
「どうしてよ」

知られたくないと思うのが、普通ではないのだろうか?

「律花さんは俺のモノだってわかれば狙ってるやつらも諦めるでしょうし、律花さん自身も俺から離れられなくなるかなって」
「何それ」

綴がこんな人だとは、思いもしなかった。
というより、彼のことは何1つ知らないのだから文句も言えないわけで…。
狙ってるやつらなんていないし、だいたい綴から離れられなくなるというのはどういう意味なのか?

「それに南雲君は、煙草は吸わなかったでしょ?」
「こんな男ばかりの密室に律花さんを1人にするわけにはいかないので、俺も吸うことにしました」
「はぁ?」

―――男ばかりの密室って…。
言われてみれば、そうかもしれないけれど…。
だからって、吸わない人間が吸うことないでしょう?

「そんなことで、吸わなくてもいいのよ。ガンになったらどうするの?」
「だったら、律花さんも止めて下さい」
「私は仕方ないんだもの、付き合いってものがあるし」
「律花さんが止めないなら、俺も止めません。一緒にここに来ます」
「どうして、そうなるのよ…」

いつもならこの時間になるとこの部屋にも人はいるはずなのに、なぜか今日は誰も入って来ない。

「体が心配なんです。ただでさえ、無理しているのに」

綴が言いたかったのは、このことだったのだ。
彼はこの部署に来て3ヶ月だったが、それでも律花が無理をして頑張っているのをわかっていた。
想いが通じた今は、彼女の全てが心配でたまらない。

「南雲君」
「どっちにしますか?必ず俺と一緒に煙草を吸うか、これを機に禁煙するか」

―――うぅっ…。
南雲君ったら、私が押しに弱いのを知ってて言ってる?!

「わかったわよ。止めればいいんでしょ?止めれば」
「そうですよ。俺より7歳も年上なんですし、もう若くはないんですからね。体を労わらないと」
「うわぁっ、それって遠まわしに私がオバサンだって言ってる?」

―――体のことを心配してるっていうのはわかるけど、なんだか納得できないわねぇ。

「そんなこと、俺は一度だって思ったことはないですよ。ほら、もう止めて空気のいいところへ行きましょう」
「わっ、わかったわよ」

律花は煙草を取り上げられて、ついでに部屋からも押し出された。
―――これじゃぁ、どっちが年上なんだかわからないじゃない…。
でも、変に控えめな彼よりも、綴のように少し強引なくらいの方がいいのかもしれない。
そんなことを思いながら、自分の席に戻って行った。

+++

「チーフ、どうしたんですか?こんなにキャンディーばかり買い込んで」

書類を持って来た20代半ばの若い女性社員が律花のデスクを見て驚いている。
そこには様々なキャンディーが、所狭しと置いてあったのだから。

「これ?今、禁煙中なのよ。よかったら、食べる?好きなの持って行っていいわよ。」

禁煙中の言葉を聞いて、彼女は納得したよう。
無意識のうちに喫煙室に足が向きそうになって、それを紛らわすためにキャンディーを買ってきたのだが、いつの間にかこんなことになってしまっていたのだった。

「ありがとうございます。では、遠慮なく」

彼女は、近くにあったキャンディーの袋に手を伸ばす。

「だからチーフ、お肌がみずみずしいんですね」
「えっ、そう?」

確かに言われてみれば、以前よりファンデーションのノリがいいようにも思う。
精神的に苦痛がないわけでもないが、食事も美味しいしやっぱり目に見えて体が健康になっているという証拠なのかもしれない。

「みんな言ってますよ。すっごく、綺麗になったって」
「そんなに誉めてもらっても、キャンディーしかあげられないんだけど」
「本当ですって。きっと、素敵な彼氏がいるんでしょうね」

素敵な彼氏と言われて、律花はそっと視線を綴の方へ向ける。
―――どうなのかしら?
綺麗な顔をしているが、会社では無表情で無反応。
二人っきりの時は誰にも見せないような笑顔を見せてくれるけど、でもちょっと意地悪よね。
なんて、ついいらぬことを考えてしまう。

「ほら、もう無駄話はおしまい」
「は〜い」

―――はぁ…。
自分の知らないところで、そういう話をされているとは…。
怖い怖い。
大きく息を吐くと、仕事モードに切り替えた。

+++

「うわっ、何っ」

突然背後から頬を撫でられて、律花は驚きの声を上げた。
週末は決まって綴が律花の家に来るので、今はまったりとテレビを見ていたところ。

「肌が、ツルツルになりましたね。煙草を止めたからかな」

会社でも女子社員に言われたが、綴が気付くくらいだから相当違うのだろうか?
今までが手入れなどする暇がなくて、ひどかったというのもあるだろうが…。

「そんなに違う?会社でも言われたのよ」
「全然違います。どうするんですか?そんなに綺麗になって」

今度は正面から綴は律花の頬に右手を添えると、親指の腹で何度も何度も撫でる。
それがとても心地よくて、目を瞑ると唇が重なった。
彼のキスは決して激しいものではないが、体の奥底から情熱を感じるものだった。

「…ぁ…っん…」
「みんな言ってますよ。『谷野チーフが、益々綺麗になったよな』って」

―――会社で彼女もそんなことを言ってたけど、南雲君も知ってたの?

「…っ…そん…な…こ…と…っ…」
「彼氏としては彼女が綺麗になることは嬉しい限りですが、律花さんが他の男にそういう目で見られてるのはあまり喜ばしいことではありません」
「…だってぇ…っ…ぁ…っん…」

その場に押し倒されて、さっきまでのものとは比べ物にならないような激しいくちづけにどう受け止めていいかわからない。

「だってじゃありません。『チーフって男はいるのかな、いなかったら俺口説いちゃおう』とか言ってるやつもいるんですからね」
「…そんなの…冗談で言ってるに決まってるわよっ…」

誰も30を過ぎた仕事に生きる女になんか、本気でそんなことを言う人はいない。
とか言いながら、綴は違ったけれど…。

「そう思っているのは、律花さんだけです。だから、無防備だって言うんですよ」
「…やっ…ぁんっ…」

着替えていたカットソーをあっけなく脱がされて、胸元をきつく吸われる。
―――やだぁ、そんなことしたら跡が残っちゃうじゃない。

「律花さんは、こうしないとわからないようですから」
「…南雲…君…ちょっ…ゃっ…っん…」
「綴ですよ。律花さん」

南雲君と呼ぶのが癖になっていて、というか律花は彼のように器用に呼び分けができないのである。

「…つ…づ…り…っ…」
「そうです。よくできました」

―――南雲君、じゃなくて綴ったら、私のこと子供扱いしてない?
胸の締め付けがなくなったと思ったら、膨らみを彼の大きな手が覆っていた。
やんわりと揉まれて、自分とは思えない声を発してしまう。

「…あっ…っん…っ…」
「可愛い。もっと、声聞かせて」
「…っぁ…っ…やぁ…っん…」

―――南雲君は、やっぱり意地悪だ…。

「…い…じ…わ…るぅ…私…ばっか…り…」
「そんなことないですよ。言ったじゃないですか、俺は女性には優しい特に律花さんには」
「…言った…って…いじ…わ…る…だ…も…の…っ…」

律花は、反撃とばかりに思いっきり綴を反対側へ押し返す。
どこにそんな力があったのか…。
形勢は逆転、綴はいとも簡単に律花に押さえつけられてしまう。

「律花さんっ」
「私ばっかり」

変なところで意地を張ってしまうのはわかっているが、性格だから仕方がない。
綴が着ていたシャツのボタンを上から順に器用に外していく姿は、酔っていなくても同じだと思った。
それが、ある意味快感になっていたりして…。
おとなしく律花にされるままの綴、まな板の鯉とはこういうことを言うのだろうか?
しかし、上半身裸の彼を見て頬を赤らめている律花。
自分でしておきながら、そんな彼女が綴には愛しくて。

「律花さん、俺の裸はどうですか?魅力的ですか?」
「えっ…」

―――クックック…。
ダメだぁ…律花さん、可愛過ぎる。
っていうか、俺ってそういう気があったのか?!

「うん…なんか、若いって感じ。私より、ずっと綺麗」

彼は若いだけあって肌にハリと艶がある。
やっぱり、7歳の年の差は大きいかも…。

「律花さんの方が、ヤバイくらいに綺麗ですよ」

真っ白な肌に、綴が咲かせたいくつもの赤い薔薇の花。
綴は、体を起こすと律花を抱きしめた。
彼女の胸の膨らみが直に触れるだけで、下半身が熱を帯びてくるよう。

「好きです。どうしようもなく」

彼は、こうやってストレートに気持ちをぶつけてくる。
その想いを全身で受け止めてあげたい。

「私も」

再び唇が重なって、舌を絡め合う。
静かな部屋にぴちゃぴちゃという音だけが聞こえ、お互いのまだ身に着けていた衣服を全て取り去って生まれたままの姿になると、ひとつに繋がる。

「…あぁぁぁぁ…っ…っ…ぁ…っ…ん…」

入れただけですぐにイってしまいそうなくらい、律花の中は気持ちいい。
段々と律動が早くなって、二人の限界は近かった。

「…律花…さんっ…っ…」
「…つづ…り…イ…っちゃ…う…」
「…俺…も…」

こんなに早くイったのは、恐らく初めてではないか…。
しかし、そこは若い綴のことである、一回で済むはずがない。

「…ちょっ…今、イった…ばかりな…のに…」
「まだまだ、これからですよ。俺は、若いんですから。一回じゃ済みません」
「え…そ…んな…」

その後、2回イかされた律花は、最後には綴の腕の中でグッスリと眠っていた。


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