あいつとあたし。
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あいつに相談したものの、ドーナツを奮ってもらっただけで、二人をくっ付けるいい案は見つからなかった。
確かに周りで騒いでも、最後はお互いの気持ち次第だし…。
取り敢えず、篠塚君のことを優奈(ゆな)がどう思っているのかという確認と、あいつには極力、篠塚君と一緒に居てもらうことで接触の機会を増やす。
そんな程度しか、可憐にはできることがなかった。

「ねえ。優奈って、うちのクラスでカッコいいって思う男子とかいないの?」

「カッコいい男子?」そうねえ、と真剣に考えているところを見ると、もしかして意識している人がいるのかもしれない。
真比呂はお母さんが出掛けて居ないからと留守番を頼まれたらしく先に帰ってしまったが、可憐と優奈はバイトのシフトが同じになって、少しの時間を学校で潰していたところ。

「あたしは―――」
「可憐は、平井君でしょ?」
「えぇ〜っ、何でまたあいつよ」

―――あいつがカッコいいのは一応、認めるけど、だからってあいつとは限らないじゃない。
だいたい、そんなことは口が裂けても本人の前では言えないもん。

「いい男じゃない。優しいし、それに一途だし。あんないい彼氏なんて、どこを探してもいないんだから」
「そお?」

「そうそう」と思いっきり顔を上下させている優奈。
彼氏っていうのが実際よくわからないんだけど、あたしにとってのカッコいい男子の話はこの際、どうでもいいのよ。
問題は、優奈の方なんだから。

「それより、優奈は?」
「あたし?」
「やっぱり、篠塚君とか?」

誘導尋問のようだが、他の男子の名前を出されても困るし、今はどうしても彼の話題に振らなければっ。

「篠塚君ね、確かにカッコいいかな」
「ナニヨォ。カッコいいかな、じゃなくってカッコいいでしょ」

―――やっぱり、あんまり好みじゃないのかな?
優奈は篠塚くんのこと。

「そうなんだけど。所詮、憧れの王子様には手が届きっこないんだから」

現実派の優奈には、可憐のようにカッコいいから憧れるとか、簡単にはいかないのかもしれない。
それが篠塚君となれば、ハードルはより一層高くなるというもの。

「あたしは、あたしのことをちゃんとわかってくれて、好きって言ってくれる人がいいな」

「だから、あたしも外見とかじゃなくて、その人のいいところも悪いところも全部わかって好きになりたいの」と話す優奈。
彼女の口からそういう話を面と向かって聞いたことはなかったけれど、その気持ちもわかるような気がした。
お友達からというような関係からスタートする、時間を掛けてじっくりと愛を育んでいくタイプなのかもしれない。

「そっか」
「羨ましいんだから、可憐が」
「え?」
「平井君と可憐みたいな関係って憧れ」
「あいつとあたし?」

どこが?と言いたくなるけど、そうなのかな。

「そうよぉ、もっと大事にしなきゃ」

「あっ、そろそろバイトに行こう?」と壁の時計を見た優奈と可憐は、慌ててカバンを掴んで教室を出た。

きっと、今日もあいつは迎えに来てくれる。
いつもより、感謝の気持ちをたくさん言ってみよう。

2008.11.14

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いつものようにバイトを終えて店を出た可憐と優奈だったが、若いといっても学校を終えての仕事は少々きつい。
働いてお金をいただくということは容易なことではないと実感させられるが、この瞬間だけはそんなこともすっとどこかに飛んで行ってしまう。

「よっ、二人ともお疲れさん」
「ごめんね、遅くなって」

「どういたしましてぇ」とおチャらけて言うあいつだったが、やっぱり嬉しいことには変わりない。

「お疲れ様」

そんなあいつの後ろから聞こえてきたもう一人の声に可憐と優奈が一斉に視線を向けると、そこにいたのは篠塚君だった。

「篠塚君、今まで部活?」

あいつが気を利かせて取った行動だとすぐにわかった可憐、部活を終えた篠塚君を誘ったに違いないが、そこは自然に合わせることにする。

「そうなんだ。たまたま、平井に会ったから」
「そうそう、優奈と篠塚君の家って確か同じ方向だったような?」
「うん。そうだけど」
「じゃあ、送ってもらったら?」

「ねぇ、篠塚君」とあたしはさり気なく言ってみる。
学校ではあまり話し掛けたりできないだろうから、これは二人っきりになれるいい機会。
―――あいつも結構やるじゃない。

「帰ろっか」

あたしは真っ直ぐにあいつの隣に行くと、そのままゆっくり歩き出す。
敢えて後ろは振り返らなかったけれど、そこは篠塚君がしっかりやってくれるに違いない。

「いつも迎えに来てくれて、ありがとう」
「何だよ、改まっちゃって」

可憐の真面目な表情にちょっと面食らった様子のあいつ。

「ちゃんと言わなきゃって思ってたの」
「いいんだよ。そんなこと気にしなくたって」
「それに、篠塚君も誘ってくれたんでしょ?」
「あ?偶然だよ、偶然」

こういうところが、あいつのいいところだと思う。
『もっと大事にしなきゃ』と言っていた優奈の言葉を思い出して、本当にそうだなって。

「ねぇ、今度の休みに映画、見に行かない?バイト休んじゃう」
「おっ、映画?行く行く」

「俺、見たいのあったんだよ。ホラーもの」とか言ってるけど、あたしが見たいのは恋愛ものなんだからね?

2009-2010.1.23

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高校2年生になって真比呂には合コンで知り合った彼氏が、そして優奈にも篠塚君が…。
―――彼氏と呼べる人がいないのは、あたしだけぇ?!
もうすぐ夏が来るっていうのに恋の季節だっていうのによ?これじゃあ、夢に描いた花の高校生活が台無しにぃ。
成翔に入れば、イケメンがいっぱい!!
確かにいるにはいるが、なぜか、あたしは誰にもときめかない。
何で?
王子様の篠塚君でさえも憧れ以上にはならなかったし、こう胸が締め付けられるようなせつないくらいな恋がしたいのにそういう相手が現れないのだ。
それもこれも、いっつもあいつが側にいるから。
男子の前でも慣れっこになってしまったのかもしれない、女としてもっと磨きをかけなければ、声も掛けられないし、恋なんてできっこない。

「よっしゃぁ、いっちょ頑張るか」
「可憐ちゃん、何を頑張るんだ?」
「いいでしょ、何だって」
「教えてくれたっていいじゃんか」
「あんたに教えても、しょうがないの」

「ケチぃ」と口を尖らせているあいつ。
だいたい、この男と一緒にいるから女として見てもらえないのよ。
それより、まず、髪型を変えて、普段ほとんどしないメイクなんかもちょっと頑張ってみちゃおうかなぁ。
気にしていなかったけど、周りの女子はよ〜く見ればみんな薄いメイクをしているし、髪も色を入れて緩くパーマもかけている。
うちの学校はそれほど校則が厳しくないから、逆に真っ黒でクセっ毛そのまま、伸ばしっぱなしの髪なんてあたしくらいなんじゃないだろうか。
あぁ、何でもっと早く気付かなかったのよ。

あたしは、今日から変わるの。
いい女になって、この夏はいい男をゲッチューしなきゃ!!

2009-2010.4.5

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「可憐ちゃんっ、おはよー!―――あれ?おばさん、可憐ちゃんは?」

「まだ、起きてないとか?」あいつは朝っぱらから図々しく人の家に上がり込むと、いつものようにお母さんの用意してくれたミルクティーをありがたく頂戴する。
しかし、可憐の姿は見当たらない。

「それがね、今日からジョギングですって」
「ジョギング?何でまた、そんな大層なことを」
「女を磨くらしいわよ?」

「急にお化粧したり、髪型を変えたり。平井君のためかしらねぇ」と可憐の母は娘の成長にちょっぴり寂しさを覚えながらも、目の前にいるカッコいい男の子のために頑張る娘を応援していたのだ。

「は?可憐ちゃんが?」

…あれ以上、女を磨いたりしたら、変な輩が寄って来るに決まってる。
俺のためっていうのは嬉しくないこともないけどさ。

「ただいまーっ。お母さん、まだ時間大丈夫?」

「シャワーを浴びなきゃ」と額に汗を滲ませながら帰って来た可憐。

「早くなさい。平井君を待たせちゃ悪いでしょ」
「だったら、先に行ってて。それより、お母さん。お弁当はカロリーの少ないものにしてくれた?」
「お弁当のことより、せっかく来てくれてるのに何てことを言うの」

「あの子ったら。ごめんなさいね」と呆れ顔の母。
アルバイトを始めた当初の目的が“おしゃれ”だったのだが、お母さんの目が気になってなかなか行動に移せないでいたのは確か。
期待していた素敵な出会いもないのは、努力が足りないからに違いない。

しかし、平井にはそれよりも、可憐が本気モードに入っていることが心配で…。
『先に行ってて』と言われても、支度が済むのをジッと待っていたのだった。

2009-2010.4.7

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「『乃木さん、あの…前から可愛いって思ってたんだけど。誰とも付き合ってないなら、僕と付き合ってくれないかな』だってぇ。ねぇ、聞いてる?」

「3年生のイケメン君に告白されちゃったぁ」と嬉しそうに話すあたしに対して、あいつの反応はイマイチ。
―――努力の甲斐あって、ようやっとあたしの良さが世間に認められたっていうのにもう少し喜んでくれたっていいじゃない。
友達なんだから。

「あぁ、何度も聞いたよ。耳にタコができるくらい」

…すっげぇ、つまらない。
何で、俺がこんな可憐ちゃんの告白話なんか聞かされなきゃならないんだ?っていうか、こうして隣にベッタリ、コバンザメの如く張り付いているってのに告るヤツの気がしれないっつうの。
ちょっと待てよ。
可憐ちゃん、まさか…そいつの告白を受けるつもりじゃないだろうな。
3年のイケメンって言ったら、女っタラシで有名だぞ。
可憐ちゃんみたいにまだ男を知らない子が、ヤツの毒牙にかかったら…。

「ねぇ、どう思う?」
「どうって」
「付き合ってもいいかな。彼は3年生だし、受験しなくてもいいとはいっても成績下がったらとか」
「可憐ちゃんは、俺が付き合うなって言ったら断るのか?」
「えっ、そういうわけじゃないけど…」

―――そんな言い方しなくたって…。
だからといって、何て言って欲しいのかもわからない。
自分だって、どうしたいのか…。
確かに素敵な人だとは思うけど、前から可愛いって思ってたなんて絶対ウソぽいし。
そう言えば、吉田君と付き合う時は、あいつに『付き合うのか?』って聞かれて『あんたには、関係ないでしょ。あたしが誰と付き合おうと』って突っぱねたんだった。
なのに…。

「ごめん。自分のことなのに」
「可憐ちゃんが付き合いたいなら、いいんじゃないのか?」
「ねぇ」
「ん?」
「あたし、本当に可愛くなったと思う?」

あたしはあいつの前に立ちはだかって、真剣な表情で問い掛ける。
毎日、ジョギングして体もだいぶ引き締まってきたと思う。
髪やお肌の手入れだって欠かさない。
自分でも頑張ったし、成果も出てるはず…。
身近にいる平井がどういう感想を持っているのか、一番気になるところだから。

「そんなこと、今更聞かなくても」
「今更だから、聞いてるの」
「可憐ちゃんは、いつだって可愛いじゃん。今も昔も変わらないよ」

「へ?」

「ほら、帰ろうぜ。バイトあるんだろ」とあいつに背中を押されて。
なんだか、はぐらかされたような…。
でも…。

2009-2010.4.19


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