あいつとあたし。
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あいつとのことを誤解されるといけないから、吉田君には本当のことを話すことにしたあたし。
ちょっと心配もあったんだけど、彼はあいつのことをわかっているのか、気にしないと言ってくれた。
問題は、学校のみんなよね?
変な噂が立って、いい迷惑なんだから。

「ちょっと、あんた。何で、あたしと付き合ってるなんてデタラメなこと言ってるのよ」

相変わらず人の家に迎えに来ては、くつろいでるあいつ。
こんなところを見られようものなら、もっと変なことになるわ。
同じ中学からの出身者がいなくて良かったって、そんなことで安堵してる場合じゃないのよ。

「あ?やぁ、なんか告られて面倒だったから」
「面倒だったからって、何もあたしを出すことないでしょ?」
「可憐ちゃんの名前を出したら、一発で諦めてくれたからな」
「へ?」

―――それ、どういう意味よ。
何で、あたしの名前を出したら、諦めるわけ?

「ほら、急がないと遅刻するよ?」
「えっ。うっ、うん」

あいつに急かされて、何でか理由を聞きそびれた。
まぁ、どうでもいいんだけど。
それから、不思議なことにあたしはパッタリと告られなくなった。
吉田君という人がいるのに不謹慎だと思うけど、それはそれで寂しいものよ?
そんな時…。

「ねぇ、乃木さん。平井君と上手くいってないのかな?」
「えっ、どうして?」
「あたし、見ちゃった。平井君が、綺麗なお姉さんと一緒に歩いてるところ」
「綺麗なお姉さん?」
「うん、あの感じだと大学生くらいかな。なんか、意味深って感じだったんだけど」
「へぇ〜、不倫?かわいそう、乃木さん」

―――あ?平井が女子大生と?不倫?
不倫も何も、あたしと付き合ってないんだから、それって普通に付き合ってるんじゃないの?
だけど、あいつが女子大生ねぇ…。
年上が好みだったなんて、『この学校で付き合うつもりはないし』と言っていたのは、そういう意味だったわけ。
なるほど、と妙に納得したあたしだったけど、その後、かわいそうな彼女としてみんなに同情されてまいったわよ。

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女子大生と付き合ってるって、ほんとなのかしら?
あいつは中学に入ったばかりの時はというと片っ端から告られては付き合って、かと思ったら勉強するって急に誰とも付き合わなくなった。
今の今までそうやってきてたのが、逆に不思議なくらいよね。

「ねぇ。女子大生と付き合ってるって、ほんと?」
「あ?もう知ってたの?可憐ちゃん早いね」

知ってたの?ということは、やっぱりそうなんだ。
一体、どこで…。
あいつのことなんてどうでもいいと思いながら、ちょっと気になるのはなぜなのか。

「勝手に耳に入ってきたから。そのおかげで、あたしはあんたに不倫されたことになってるんだけど」
「不倫?あぁ、そっか。俺、可憐ちゃんと付き合ってることになってたんだった」
「なってたんだったじゃないでしょ?人に迷惑掛けないでね」
「はいはい。それより、吉田とは上手くいってんの?」
「え…なっ、何でそんなこと聞くの?」

思わず痛いところをつかれて、どもっちゃったじゃないの。
吉田君とは上手くいってるというか、いっていないというか…。
あたしにも、関係がよくわからない。
本当のところを言うとこのままじゃいけないかなって、だからきちんと話をしようとは思うんだけど、なかなか言い出せないのよ。

「いや、どうなのかなって思っただけ」
「人のことは、どうでもいいでしょ?」
「俺が言うことじゃないけど、目を瞑って吉田の顔が浮かばないようなら距離を置いた方がいいんじゃないかな?」

そう言い残して、あいつは行ってしまった。

『目を瞑って顔が浮かばないようなら―――』

あたしは暫く考えた後、ゆっくりと目を閉じた。

43

「可憐ちゃん、ごめんね待った?」
「ううん、あたしも今来たところだから」

週末の今日は、吉田君と待ち合わせてのデート。
行き先は特に決めてなかったけど、どこかでお茶してウィンドウショッピングするのもいいかなって。
あたしは肩を並べて歩きながら、ちらっと彼を盗み見る。
ちょっと見ないうちに、なんだかとっても男らしくなったのは気のせい?

「高校生になったら、大人っぽくなったね。雰囲気が随分違う」
「え?それは、吉田君の方でしょ?」

思っていることを先に言われて、驚いた。
お互いほんの少しの間離れていただけなのに、大人への階段を気付かないうちに上っているということなのかな。
でも、あたしが大人っぽくなったなんて…。

「僕?僕は全然変わってないよ。背は、また伸びたかもしれないけど」
「そんなことない。吉田君、男らしくなったし、すっごいモテるでしょ?」
「自分では、特別感じたことないけど。まぁ、告白なんてものもないわけじゃないけどね」

―――やっぱり。
さすがに成翔は中学の時に比べればイケメンが多いとは思うけど、もし吉田君がその中にいたら間違いなくモテると思うもん。
こんなカッコいい人が彼氏なんて、あたしは恵まれている。
でも…。

『目を瞑って顔が浮かばないようなら―――』

あいつに言われて目を閉じてみたけど、どんなに隣にいる吉田君がカッコいいと思っても残念ながら浮かんでこなかった。
浮かんできたのは、不本意にも…。

「可憐ちゃん、どうかした?」
「えっ、何でもない」
「なら、いいんだけど」

心配そうな顔であたしを覗き込む吉田君、不意に手を握られてどうしていいかわからない。
付き合ってるんだから、当然のはずなのに…。

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―――言いそびれちゃった。
本当は吉田君に別れを言うつもりで、最後のデートのつもりだったのに…。
彼のことは嫌いじゃないけど、このまま付き合う理由が見つからない。

「可憐ちゃん、これ見て」
「ん?」

チープな雑貨が並んでるショップの前で吉田君が足を止めて、あるものを指差した。
それは、なんとかっていう人形だったんだけど、すっごく可愛いの。

「可憐ちゃんに似てる」
「えぇ?!あたし、こんなに可愛くないもん」
「ねぇ、それ本気で言ってる?可憐ちゃんのこと、可愛いからみんなが見てるのに」

―――うそ…。
周りをキョロキョロしてみたけど、だぁれもあたしのことなんて見てないわよ?
吉田君ったらぁ、お世辞が上手いんだから。

「うそ、ばっかり。誰も見てないのに」
「そんなことないって、ほら」

彼の視線の先には同い年くらいの男子が数人、確かにこっちを見てるけど…。

「・・・・ぁ・っ・・・・」

ほんの一瞬だけど、吉田君の唇があたしの唇に触れた。
あいつのファースト・キッス以来2度目。

「ごめんね、不意打ちして。可憐ちゃん、あんまり可愛いから。つい」

「それに僕達、付き合ってるのにまだだったね」って、恥ずかしそうに言う彼は少し頬が赤いかも。
でも…。
あたしは、彼の気持ちをどう受け止めていいかわからなかった。

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「あぁ〜ぁ…」

吉田君にキスされて、それは決して嫌なものじゃなかったけど…。
彼の気持ちが、なんだか重い。
このままだと、どんどん言い難くなってくるし、どうしよう。

そう言えば、あいつは女子大生と付き合ってるって、上手くいってるのかしら?
―――何で、こんな時にあいつのことなんて…。

「可憐ちゃん、元気ないね」
「え?そんなこともないけど」

噂をすれば何とやら、あいつがあたしの顔を心配そうに覗きこむ。
―――だからぁ、そういうことしないでって言ってるのにぃ。

「なら、いいけどさ」
「ねぇ、女子大生とはどこで知り合ったの?」
「可憐ちゃん、気になるの?俺が、女子大生と付き合ってるってこと」
「別にそんなんじゃないけど、なんとなくどうなのかなぁって」

そっぽを向いて誤魔化したけど、本当はすごく気になってる。
自分の知らない人と付き合ってる、あいつのことが…。

「別れた」
「はぁ?」

別れたって…。
噂が立ったのは、ついこの間なのにもう別れたの?

「やっぱ、年上はダメだな。姉貴ぶって、恋人も何もあったもんじゃない」
「だからって、早過ぎない?」
「俺は可憐ちゃんと違うから、情けで付き合ったりしないんだよ。後腐れないうちに別れた方が、お互いのためだし」

『情けで付き合ったりしないんだよ』と言ったあいつの言葉が、心に突き刺さる。
そんなつもりじゃないけど…。
結果的にそうなってるのかな。

はっきり決断できるあいつが、ちょっぴり羨ましくもあったり。
それより、別れたってことが嬉しく思うのはなぜなんだろう…。


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