タイム・リミットは聖夜
3


三行(みつゆき)さんの言葉が紫苑を勇気付けてはくれたものの、元来の性格が災いして自分の負けを認めることができなかった。
いっそ、一人のクリスマス・イヴを過ごす方がいいとさえ思う。
―――どうせ、今までだってそうだったんだもの。
この期に及んで、今更どうしようもないじゃない。
彼氏など、意地や見栄で作ろうと思って作れるものではないのだということを改めて思い知ったような気がした。

「よっ、おめでとう」
「えっ、何いきなり?あたし、誕生日じゃないわよ」

コピーを取っていたところを見つけた志賀に「違うよ。彼氏できたんだってな」と唐突に言われて、思い当たる節がないだけに呆気にとられている紫苑。
どこでどう間違ったら、そういう解釈になるのか…。
それより、どこからそんなガセネタを志賀は入手したのかを確認しなければ。

「彼氏って?」
「いいよ、隠さなくたって。いいやつなのか?そいつ」
「だから、彼氏って」

―――もしかして、志賀の言ってるあたしの彼氏って三行さんのこと?!
あの時の合コンで結構話がはずんじゃったし、今もメールで近況報告なんかもしてるから、それに誘ってもらった友達はおしゃべりで有名だったから、きっと話に尾ひれが付いて志賀のところに伝わっちゃったんだ。

「笹雪のことをちゃんと想ってくれる男なんだろうな」
「志賀?」

志賀の真剣な表情に面食らってしまう。
今までの経験からして、まともな男性との付き合いはなかったし、だからといってそこまで知らない彼に心配されるのもどうなのか…。

「だったら、俺は何も言わないけどさ」

ひょんなことから紫苑は負けを認めなくて済んだけれど、どうもすっきりしないのは、三行さんはいい人でも彼氏じゃないことを誰でもない目の前の志賀に誤解されていること。

「ちょっと待って、あたし…」
「お前の手料理を味わえなかったのは残念だけど、理想のクリスマスを過ごせる相手が見つかって良かったな」

勝手にゴチて行ってしまった志賀の背中に向かって何かを言いたかったけれど、なぜか言葉にならなかった。

+++

あれから、志賀はクリスマスの件に関して何も言ってこない。
本当は聞きたくても紫苑に彼氏ができてしまったのだから(実際には、そんな人はいないのだが…)、話し掛ける口実さえ見つからないなんて知る由もないが…。
だから、今になって彼氏なんかいない、デマだったなんて言えるはずがない。
あんな約束をしなければ、それより潔く負けを認めていれば今頃は志賀とクリスマスを過ごす計画を立てていたのかも。
―――あぁ〜ぁ。
これって、ある意味一人のクリスマスより寂しいかも。

もし、志賀が彼氏だったら、プレゼントにどんなものを選んだんだろう?
もう少し早かったら、手編みのセーターとか…。
いや、会社のお昼休みや寝る時間を少し削れば、まだ間に合うかも。
やだ!!あたしったら、何現実にならないことを想像してるのよ。
それも、相手は志賀だし…。
どうせ、バーチャル・クリスマスなら、もっと素敵な相手を思い浮かべればいいのに。

そう思いながら、彼のために会社帰りに毛糸を選ぶ自分に呆れ返りながらも、止める気にはなれなかった。
いつか…そう願いながら、一人で飾り付けしたクリスマスツリー。
メニューも考えて、あとはほんの少しの勇気をもって彼を誘えたら…。

『大切な人を失うより』

三行さんの言ったことの意味を今になって理解しても、まだ失っていないと思いたいし、信じたい。
タイム・リミットまで、もうわずか…。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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