「プレゼントは、どうするの?」
「あっ」
───そうよね、恋人達のクリスマスだものプレゼントを用意しなきゃいけないんだわ。
といってもっきり言われたのがついさっきのことなのだから、短時間でそこまで頭が回るはずもなく…。
「駄目よ。そう言うのは、ちゃんと用意しなきゃ」
「どうしよう、何にすればいいの?」
それにイヴを過ごす相手すら最近いなかった聖恵にとっては、何をどうしていいかわからない。
「何でもいいんじゃない?聖恵が選んだものなら」
「そう言われても…」
───何でもって言うのが、一番困るのよ。
「麻紀子は、何を買ったの?」
「内緒」
即答かい!!
「いいじゃない、教えてよ」
「だ〜め。こういうのは、相手に考えてもらいたいものなの。何でもいいのよ、聖恵がいいって思えば。それだけで、彼は嬉しいんだから」
───うう…麻紀子、目が怖いって。
でも、そういうものなのかな。
「それとぉ、当日はめいいっぱい可愛くするのよ」
「今夜は、私がプレゼントくらいの勢いでね」って…。
「はぁ?」
───可愛くって…。
相手は瀬端なのよ?今更、可愛くも何もないでしょう?
と聖恵は思ったが、麻紀子の目が更に怖くて、さすがに言葉に出して言うことはできなかった。
「いいから、言うこと聞くの。聖恵はそのままでも可愛いけど、意識して可愛くしていったら瀬端君絶対喜ぶわよ。それとぉ、これが一番肝心の勝負下着も忘れないようにね。今更って、思いもあるかもしれないけど、イヴくらい彼のために素直になってみたら?」
「勝負下着って…」
世の女の子は、こんなふうに相手の男性のことを想って頑張っているのだろう。
───全く、尊敬するわ。
聖恵には到底真似のできない話だったが、麻紀子の言う通り、彼のために努力していたら相手からフラれるようなことはなかったのかもしれない。
いつだってそうだった、君は思っていた子と違うって…。
彼のために可愛くできていたら、そんな苦労はしないのよ!!それができないから困ってるのに…。
「わかった。一応、努力はしてみる」
その言葉に麻紀子は「頑張るのよ」と声を掛けてくれたが、見えないところで聖恵は小さく溜め息を吐くと残していた仕事を片付けるために席に戻った。
男性のためにプレゼントを選ぶなどということをしたことがない聖恵には何をどう選んでいいかわからなかったが、無難だと思ったけれどいくつあっても困らないということでネクタイを、そして麻紀子に言われためいいっぱい可愛くの言葉を思い出して、店員に勧められるまま服も買った。
そして、勝負下着まで…。
───私ったら、何でこんなことしてるのよ。
ずっと仲のいい友達だと思っていた本気で好きかどうかもまだ自覚していない相手とイヴを過ごすというのに、ここまでやっている自分に驚いてしまう。
そして当日、買ったばかりの服をそのまま着ていくと絶対に周りの人(特に麻紀子)にからかわれるのがわかっていたから、帰りに着替えて行こうと手持ちした。
「聖恵、おはよう」
「おはよう」
早速、会社に着くと麻紀子に会った。
彼女は会社では制服を着ているからと服装は夜のためにバッチリ決めていた。
「プレゼントは決まった?」
「うん、ありきたりだけどネクタイにしちゃった」
「いいんじゃない?鈍チンの聖恵がプレゼントを用意しただけでもすごいもの。そうそう、可愛い服も用意した?」
全く、鈍チンは余計だと思うのだが、あながち間違ってもいないことなので反論できないところが悲しいのだが…。
「可愛いかどうかはわからないけど、お店の人に言って選んでもらったからそれなりにはね」
「ヨシヨシ。そこまでできれば、聖恵にしては上出来よ」
麻紀子に頭を撫でられて、すっかり子供扱いされている。
これじゃあ、女子高生が初めてイヴを彼氏と過ごすために姉に相談しているみたいだ。
+++
定時後に瀬端とは駅で待ち合わせの約束をしていたが、着替えて麻紀子に髪型とか色々いじられているうちにすっかり約束の時間をオーバーしていた。
急いで行くと瀬端が車に寄りかかって、煙草を吸いながら待っている姿が見える。
こうやって見るとやっぱりいい男だなと思うが、今はそれどころじゃない。
瀬端は結構時間には正確で、たまに飲み会などで待ち合わせて遅刻するとうるさいのだ。
「瀬端、ごめんね遅くなって」
「そんなことないよ、俺もついさっき来たところだから」
いつもなら開口一番、遅いぞ!!って言うはずの瀬端が、今日は何だか違うように思うのは気のせいだろうか?
そして、無言のまま聖恵を見つめているのだ。
「何?」
「あぁ、いや…何か、今日の聖恵はいつも以上に可愛いなって思って」
「は?」
少し照れながら言う瀬端に聖恵は思いっきり固まった。
───だって…何なの?
可愛いとか褒められることもさることながら、いきなり名前で呼ぶとは…。
「うわっ、ちょっと瀬端?」
それだけでもこっちは動揺していてどう受け止めていいのかわからないと言うのに瀬端は突然、聖恵の腰に腕を回し、自分の胸に抱き寄せるようにして反対側の助手席に向かって歩き出した。
口をパクパクさせながら声にならない声を上げている聖恵など、まったく目に入っていない。
───ちょっと、どうしたっていうの?
瀬端の思いも寄らない行動に聖恵の心臓はドキドキしっぱなしだ。
「今日くらい、名前で呼んでくれよ」
「はぁ?何、寝ぼけたこと言ってるのよ」
つい、いつもの癖で毒舌が出てしまう。
こういうところが可愛くないのだと自分でもわかっているのだが、甘い言葉などこっ恥ずかしくて言えないのだからしょうがない。
「そんなこと言わないでさ」
べったりと密着した状態で耳元で囁くように言われて、またまた心臓の鼓動が早くなる。
───あぁ、どうしてそういうこと言うのよ。
と心の中で叫んでみても、この男にはまったく届くはずもない。
「わかったから、そんなにくっ付かないでっ」
「駄目、早く呼んで」
───駄目って…。
あぁ、もうこうなったらヤケっぱち。
呼べばいいんでしょ呼べばっ。
「ひ、秀一郎(ひいろう)?」
聖恵はあまりに恥ずかしくて瀬端の顔を見ることができなかったが、彼が満面の笑みで見つめていたことは言うまでもない。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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