王子様なんて大嫌いっ。
2

長瀬君が戻って来て、数日後。

「ねぇ、羽澄。今度、同期で長瀬君の歓迎会をやるらしいんだけど、どうする?」
「パス」
「即答かい」

みのり、飲み会大好きだからね、でもほんと悪いんだけど長瀬君関係でなければ行ってもいいんだけど。

「ダメよ、羽澄。あんた、長瀬君と一緒に仕事してるんだから。こういうのには、ちゃんと出ないと。それに同期で集まるの久し振りじゃない」

みのりったら、やっぱり出る気満々ね。

「そんなこと言われてもね~」
「いいじゃない。同期は女二人なんだしさ、出ようよ、ね?」

こう、お願いされると断れないのよね。
あたしは、仕方なく頷くしかなかった。

+++

場所は、いつもお決まりのお店。
あたしとみのりは定時で会社を出ると、目的の場所に向かっていた。

「今日は、何人くらい集まるの?」
「確か、10人って聞いたけど」
「へぇ、結構いるね」

入社した時は20人ほどいた同期も、今は3分の2になっていた。
内、何人かは他県の支社や事業所に行ってるから、これでもかなりの出席率だと思う。

「なんか、みんなに会うのって久し振りねぇ」
「そうそう、木村君も来るんだって」
「木村君って、大阪支社に行った?」
「そう。出張でたまたまこっちに来てから誘ったって、幹事の佐藤君が言ってたよ」

木村君というのは去年、大阪支社に異動になって最近、子供が生まれたという話。
関西弁を覚えるんだって張り切ってたけど、どうなったかな?後で聞いてみよう。
お店に着いて、予約の名前を告げると奥の座敷に案内された。
半分くらいの人はもう来ていたみたいだけど、肝心の主役はまだみたい。
そう言えば、課長に捕まって何か話をしていたわね。
あたしは一緒に仕事をしている身なのに置いて来ちゃったけど、良かったのかな…。
そんなことを考えていると『羽澄、早く~』って、みのりの呼ぶ声が聞こえて、あたしは長瀬君のことを頭の中から追い出した。
空けてあった、さっき話していた木村君とみのりの間に座わる。

「木村君、久し振り~。元気だった?」
「おう。高野さんやないか、ちょと見ないうちにまた、えろうべっぴんさんになってもうて」

―――おっ、ちゃんと関西弁話してるぅ。

「何、お世辞言ってるのよ。そんなこと言っても、何も出ないからね。それより、ほんとにもう木村君には会えないと思ってたよ~」

あたしが、ふざけて言う。
だって、ほんと一度異動になっちゃうと、なかなか会う機会もないから。

「そんな、悲しいこと言うなって。だけど、今日出張でほんまよかったわ。そう言えば、高野さん長瀬と組んで仕事してるんやて?」

―――えっ、木村君まで、そんなこと知ってるの?

「さすがぁ、情報早いね」
「高野さん、いくら長瀬のこと苦手かて冷とうしたらあかんよ。あいつかて、あれでもデリケートやねん」

―――げっ、木村君知ってたの?

「誰が見ても、わかるって」

隣の、みのりも“うんうん”って頷いている。
やっぱり、みんなわかってたか…だけど、あたしってそんなに露骨に態度に表してた?

「この前、みのりにも同じこと言われたけどさぁ、だって嫌なものは嫌なんだからしょうがないじゃない。だいだい、あのすかした態度が気に入らないってのよ。こう、女を手玉に取るっていうか」
「手玉って…相変わらず毒舌やなあ、高野さんは。あいつかて、表には出さんけど、結構傷ついてんねんで。高野さんのこと、気に入ってたさかいなあ」

―――はぁ???
あいつが、あたしのことを気に入ってただぁ?!

「やっぱりそう?」

あたしが木村君の爆弾発言に固まっていると、みのりが脇から口を挟む。

「そうやわ。あいつ、いっつも高野さんのことばかり言うてたんやから」

―――何ぃ?あいつったら、木村君にもあたしのこと言ってたの?

「ねっねっ、何て言ってたの?」

みのりが、今度は身を乗り出して聞いてくる。

「そやなぁ。可愛い、可愛いって、そりゃもう耳にタコができるほどだったわ」
「何それ!!嘘~絶対、嘘に決まってるもんっ!!」

あたしは、木村君にこれ以上話をさせないように割って入る。
もう、何なの?やめてよ。
冗談だってわかってても、顔が熱くなるじゃない。
だいたい、あいつがそんなこと言うはずないわよ。

「嘘やないって。多分、あいつ今でも高野さんのこと想ってると思うわ。でなきゃ、あの容姿で誰とも付き合わんと一人でいる方がおかしいやろ。俺、あいつと仲ええから、たまに電話で話すんやけど、今回の異動は、ほんまに嬉しそうに話してくれたんやで」

―――もう、やめてよ~。
んなわけないじゃない。

「高野さんは、長瀬のこと誤解しとるわ。俺かて、最初は顔も良くて性格も良くて仕事もできるなんて物語の王子様みたいな奴、絶対おらん思うてたよ。けど、あいつはほんまに王子様なんや、ただちょっと無理し過ぎる部分もあるんやけどな。男の俺かて、惚れるほどいい奴なんやから、だから高野さんも、あいつのことちゃんと見てやって欲しいんや」

―――な~にが、王子様よ。
カエルになっちゃえっての。
でも、木村君もみのりと同じこと言うのね。
大きく溜め息を吐いてあたしが返す言葉もなく俯いていると、予定の時間から少し遅れて主役の長瀬君がやって来た。
『おい、長瀬。遅いぞ~』という声が周りから聞こえるが、彼は『悪い、課長に捕まって』と話していた。
あぁ、やっぱりそうだったんだ。
でも、この時間でここに来ているということは、そんなにたいしたことじゃなかたみたいね。
あたし、何、安心してるんだか。

「おい、長瀬こっち来いや」

―――うぇ?何てことを言うの木村君。
木村君の言葉にびっくりして長瀬君の方を見ると長瀬君は既にこっちに来ようとしていたので、あたしはこっそり、その場からそっと立ち去ろうとしたが、しっかりみのりに腕を捕まれていた。
隣にいた木村君がひとつ隣にずれて、間に長瀬君に座わるよう座布団をポンポンと叩く。
どうして、木村君もみのりもそういうことをするかなぁ。
軽く木村君とみのりを睨んだけど、二人とも知らんふりしてるし。
長瀬君は何のためらいもなくあたしの隣に座ると、みのりがグラスとビールをあたしに持たせて肘で脇をつつく。
長瀬君に注いでやれってことよね。
へいへい、わかりましたよ。
木村君とみのりからニヤニヤ顔で微笑まれて、仕方なくあたしは長瀬君にグラスを持たせるとビールを注いだ。

「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。長瀬主任」

一斉に木村君とみのりの、突き刺さるような視線を浴びる。
―――あぁこういうのが、可愛くないって言いたいんでしょ。
だって、口が勝手に言葉を発しちゃうんだから、しょうがないじゃない。
二人は呆れ顔で睨んでいるのはわかっていたけど、そんなの構わないわ。
あたしは、自分のグラスを一気に飲み干した。

※ 他のお話とカブってますが…そして、店主のエセ関西弁…どうか、さらっと流して読んでいただければ嬉しいです。。。

2009-2010.4.22


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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