王子様なんて大嫌いっ。
3

木村君とみのりは事あるごとにあたしと長瀬君に話題を振ってきて会話をさせようとしてきたけれど、完全無視した。
そりゃあ、二人の話を聞いて今まで抱いていた彼への印象が少しずつ変わりつつあることは確かだけど、それで急にあたしの態度が変わったらその方がおかしいじゃない。
彼は相変わらず、そつがないっていうか、そんな感じで同期の仲間と昔話に花を咲かせていた。
一次会も終わり、何人かは二次会に繰り出そうとしていたが、あたしがその中に入る気力はもう残っていなかった。

「ごめんね。あたし、帰るわ」
「何、言ってるのよ。羽澄も一緒に行くの〜」

あたしが帰れないように身体に抱きついてきた。
―――あ〜ぁ、みのりったら、だいぶ酔っちゃってるわね。

「ほんと、ごめんね。みんなで楽しんできて」

真面目な顔で言ったせいか、みのりも諦めたみたいであたしから素直に離れてくれた。
みのりは旦那さんを放っておいていいのだろうか?そっちの方が心配になったけど、木村君も今夜は一泊して、明日大阪に帰るというので任せることにした。

「旦那さん心配するから、みのりも飲み過ぎないようにね」

『大丈夫よ〜』って、みのりは両手をヒラヒラさせながらネオンの中に消えて行った。
『さて、帰りますか』あたしは声にならない声でひとり呟いて歩き出そうとした時、隣に誰かがいることに気付いた。

「あれ?長瀬君、二次会行かないの?」
「あぁ、明日も早いからね」
「いや、それはそうだけど…。でも、今日は主役でしょ?行かなくて、どうするのよ」

―――なんで、主役のあんたがここにいるのよ!!

「高野さんを放っておけないし」
「はぁ?何、言ってるの?あたしは全然平気だけど」

―――何、言ってるのかしら?この人は。

「だって、随分酔ってるみたいだし、一人じゃ心配だから。それに俺は、君の上司だろ?部下を面倒みる義務がある」

―――だ・か・ら・、何でそうなるかなぁ。
確かにいつもよりは飲んだかもしれないけど、これくらいなら一人で帰れるわよ。
あたしは彼を置いて一人歩き出そうとしたが、言ってる側から足がふらついて、よろけそうになったところをしっかり抱きかかえられていた。

「だから、心配だって言ったんだ」

あたしは返す言葉がなく、諦めておとなしく彼と駅に向かうことにした。

「高野さん、俺と仕事するのイヤだったら、言ってくれていいよ。課長には上手く話して、なんとかするから」

しばらく二人は無言で歩いていたが、突然の言葉にあたしはその場で歩みを止めると彼もそれに合わせてその場に立ち止まる。

「それ、どういう意味?」
「あっ、いや、ごめん。変なこと言って」

彼は慌てて言葉を濁し、再び歩き出そうとしたが、あたしは彼の背中に向かって声を投げ掛けた。

「それって、あたしが長瀬君のこと嫌ってるから言ってる?」

彼は振り向いて、苦笑した。

「高野さん。相変わらず、はっきり言うね」

『だって、本当のことだからね』ってあたしが言うと、悲しそうな顔をした彼が、なんだかちょっとかわいそうな気がした。

「だけど、イヤじゃないよ。長瀬君の仕事の指示は的確だと思うし、今は上司で良かったと思ってる」
「え?」

彼は、あたしの意外な言葉に驚いたようだった。
そう、彼の仕事ぶりには目を見張る。
的確な指示にフォロー、わからないことはすぐに丁寧に教えてくれるし、若いのにすごいって素直に思ったから。

「ほんとに?」

あたしは黙って頷くとその場で立ちつくしている彼を追い越して、スタスタと歩き出した。
―――この人、馬鹿じゃないかしら?どこまでお人良しなのよ。
だって、そうでしょ?嫌ってる相手の心配してどうするのよ。
『あいつ、表には出さんけど、結構、傷ついてんねん』さっきの木村君の言葉が頭を過る。
あんたは、なんでこうなのよ。

「それよりあんた、あたしに何か隠してるでしょ」

定時間際に課長と話していたのが、やっぱり気になる。
あたしはその場に立ち止まって、彼が来るのを待つ。

「え、何のこと?」

彼は本当にわからないようで、首を傾げて考えている。

「隠したって無駄よ。帰る時、課長と話をしてたでしょ?」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。大したことじゃないから」
「ほんとにそう?あんたいっつもそう、一人で抱え込んでんじゃないの?」

全部自分で抱え込んで、人に心配かけまいとする、この人はいっつもこうなのよ。

「高野さんは俺のこと、何でもわかるんだな」
「まぁ、あたしじゃ力になれないだろうけど、一緒に仕事してるんだから、もっと頼ってもいいんじゃない?あんたに倒れられたら、こっちが困るんだからね」
「わかったよ。ありがとう」

彼はそう言うとさっきの悲しそうな顔とは打って変わって、優しい微笑をあたしに向けた。


2009-2010.4.23


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