Shine
3

「清良(せいら)ちゃん、すごい人気よ?今朝から雑誌社に問い合わせが殺到しているんですって」

沙良(さら)が撮影の合間に休憩していると、マネージャーの滝川 夏葵(たきがわ なつき)が少し興奮気味に雑誌を手にやって来た。
夏葵(なつき)は沙良がモデルとしてスカウトされた時からの担当で、今では姉のように慕う存在だった。
この前、清良に内緒で写真に撮らせたのだが、それが今日発売のTUNE(テューン)に載ったらしい。
沙良もまだあの写真は見せてもらっていなかったので、夏葵(なつき)からそれを受け取ると空良(そら)が清良にキスしているシーンが表紙に使われていた。

「うわぁ、表紙に載っちゃったの?」
「そうなのよ。名もない素人モデルがこんなふうに使われるのって、異例中の異例らしいわ。それも男性モデルと一緒なんてね」

十代から二十代前向けのファッション誌の表紙を飾るモデルは、雑誌の売れ行きを左右するもので看板モデルがなると相場が決まっている。
だから、清良のようにモデルでもなんでもない素人が表紙を飾ることは、まずあり得ないことなのだ。
そして、夏葵(なつき)の言うように女性向けのファッション誌の表紙に男性モデルと一緒というのもない。
それが、このような形で出されるということは余程のことなんだと思う。
沙良から見ても清良は本当に可愛らしくて、これを見た読者が騒ぐのもわかるような気がした。
本当なら、売れっ子の空良がこんなふうに女の子にキスしている写真を出されればファンとしては嬉しくないところだろうが、相手が清良ならそれも許せてしまうのかもしれない。

「でね、早速、清良ちゃんを本格的にモデルデビューさせようって話が出てるんだけど、沙良から言ってくれないかしら」
「え…それは」

そうなる予感がないでもなかったのだが、沙良にはそのつもりは全くなかった。
撮影に連れて行ったのは、可愛いのにあまりに地味な清良を変えてあげようというのがそもそもの目的で、モデルにさせるためではない。
ましてや、本人が絶対に『うん』とは言わないだろう。

「ダメかしら?」
「本人が、『うん』と言わないと思うんだけど」
「そこをなんとか、ねっ」

夏葵(なつき)の頼みならば聞いてあげたいのは山山だったが、それとこれは別の話である。
大事な清良を公共の目にさらすなどということは、沙良にはどうしてもできない。

「いくら夏葵(なつき)さんの頼みでも、こればっかりはあたしからは何も言えないなぁ」
「沙良は、清良ちゃんがモデルになるのは反対なの?」
「本心を言うと反対」
「どうして?」
「あの子は、純粋で無垢なの。だからこそ、輝いて見えるんだと思う。それを無理に引き出そうとしたら、きっとダメになっちゃう」

何の色にも染まっていないから、今の清良が魅力的に映るのだと沙良は思った。
それを無理に引き出そうとすれば、清良自身がダメになってしまう。

「そっか、清良ちゃんのことは沙良が一番よく知っているものね。私達が、とやかく言うことじゃなかったかもしれないわ」

それでも諦めきれないのか、夏葵(なつき)に取り敢えず清良にその気があるかどうかだけでも聞いてくれと言われて、渋々その場は承諾せざるを得なかった。



一方、空良は大学の学食で人知れずランチを摂っていると、幼馴染で親友と言うか悪友の久遠寺 遥(くおんじ はる)が、『探してたんだよ』とか言いながら空良の前の席に陣取った。

「何だよ」

相変わらず、愛想のない返事の返し方である。

「なぁ。あの子名前、何て言うんだよ」
「あの子?」

遥(はる)が言っているあの子というのが誰のことかわからない空良は、箸を止めていたハンバーグ定食を再び食べ始める。

「とぼけるなよ。この子だよ、この子」

遥が目の前に差し出したのは、男は読まないであろう女性ファッション誌だったが、その表紙には自分と清良が写っていたのである。

「あ?誰だっけ」

「お前なぁ〜」という遥の声が聞こえてきたが、無視するように黙々と箸を進める空良。
ここで、あれはモデルの沙良の妹の清良だよとは、言えないのである。
あの撮影の後、清良のことは絶対に話さないようにと、沙良にしっかり釘を刺されたからだ。
素人であってモデルではない清良に何かあったら大変だからという姉の心使いだったようだが、それに彼女は名門華ノ宮女学園に通っているから、このことが学校に知れるとマズイらしい。

「本当に知らないのか?」
「別に聞く必要もないし」
「お前、あんな可愛い子なんだぞ?普通、名前くらい聞くだろう」

そんなこと言われなくても空良にだってそれはわかっている、だから即行、彼女に名前を聞いたのだから。

…おっと、これは口が裂けても言えないけどな。

「そうか?」
「そうだよ!どうせ、可愛い子に不自由しないお前には関係ないだろうけどさ」

…それは、どういう意味だ?

モデルなんてしている以上、女の子にモテないわけじゃないが、不自由しないというのは聞き捨てならない。

「俺は、そんなにタラシじゃない」
「それは、わかってるんだけどさ」

遥も空良がモテるからといって、誰とでも付き合うような軽い男でないことは知っている。
逆に可愛い子に対しても興味がないというか、関心がないことの方に苛立ちを覚えていたのだから。

「本当にあの子に関心がないのか?」
「しつこい」
「だってさ。俺あんな優しい顔をしてるお前、初めて見たから。お前とは長い付き合いだからわかるんだよ、いつも作ってるってのがさ」

上手く演技しているつもりでも、幼馴染の遥には空良が無理に作っているのがわかっていたのだろう。
それが、清良の前では違ったというのか…。
自分でもそれに薄々気付いていたけれど、まさか遥に見抜かれていたとは…。

「もう一度、会いたいって思ってるんじゃないのか?あの子にさ」

…何で、こいつはこう俺の心の中が読めるんだ。

「どうだろうな」
「素直になったらどうだ?あの子めっちゃ可愛いから、すぐ誰かに持ってかれるぞ。いや、既に持ってかれてるかもしれないが」

後者は彼女の様子からしてマズないだろう。
が、しかし実際、遥の言う通り、何であんなに可愛い子が今まで誰にも見つからなかったのか。
そして、あの初心さは一体、何なんだろう。
誰かのものになってしまった時の清良を思ったら、空良はいてもたってもいられなかった。


お名前提供:橘 鈴(Rin Tachibana)/久遠寺 奈留(Naru Kuonji)… 桜花 さま


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
誤字が多く、お見苦しい点お詫び申し上げます。お気付きの際はお手数ですが、下記ボタンよりご報告いただければ幸いです。

NEXT
BACK
EVENT ROOM
LOVE STORY
TOP


Copyright(c)2006-2013 Jun Asahina,All rights reserved.