Shine
8

「俺の友達が、沙良(さら)を紹介してくれって言うんだけど」
「何、突然。友達って、川波くんの?」

「珍しいっていうか、そういうこと引き受けちゃったりする人だったんだ」と目をまん丸にして驚いた様子の沙良。
空良(そら)とはお互い専属になっている雑誌の撮影で久し振りにスタジオで一緒になったのだが、今まで自分の友達を沙良に会わせるなどということを彼は一度だってしたことはない。
お互い仕事仲間という見えない壁があって、仲がいいことさえ大っぴらに口には出さなかったはずなのに。
余程せがまれたか、何か他に企みが…例えば、清良(せいら)のこととか。

「同じ大学に通ってる幼馴染なんだよ。実は、清良ちゃんのことがバレちゃってさ。あいつそういうところは感が強くて、俺が彼女に会えないでいるのをだったら、沙良と4人ならどうかと言うもんだから」

初めの方だけ聞いているとてっきり、二人のことを黙っている代わりに沙良を紹介しろと言い出すものと思ったが、この感じだと空良から話したわけでもなく。
かといって、下心が全くないとは言い切れないが、4人でというところにその友達の空良を気遣う気持ちのようなものを感じてなぜか嫌な気持ちはしなかった。
それに彼の妹は清良と同じ華ノ宮に通っていて友達だと聞けば、信用度もグッと高くなるというものだろう。

「そのお友達って、素敵なの?」
「えっ…」

誰だって紹介して欲しいと言われれば、まず気に掛かるのはその容姿に違いない。
それが、若い女の子に絶大な人気を誇るモデルの沙良となれば、その相手は相当な男でなければ恐らく受け入れてはもらえないだろう。
だからといって、空良から見ても遥(はる)はなかなかのいい男だとは思うが、ここはどう答えるのが一番なのか…。
大抵、いい男だと言われて会ってみたら…だった、という場合が多いし。

「いや、そういうのは人それぞれ好みだと思うから」
「顔じゃなくって、川波くんから見てそのお友達は人間的にどうなのかよ」

沙良は、顔や容姿で判断するようなタイプの女性とは違う。
そりゃあ、いい男に越したことはないけれど、反面、沙良の表面だけしか見ないような人となら、いくら清良とのことであっても顔を合わせるのだって御免だ。
そういう彼女のことを空良はとても好きだと思うし、だからこそ、遥の意向を飲んだのだ。
でなければ、清良に会いたいという自分の都合だけで二人を巻き込んだりはしなかった。

「いいやつだよ。俺がこんな仕事をしていてもずっと付き合っていけるのは、あいつだけだな。顔だって、結構いい線いってると思うし」

「まぁ、多少、軽いところはあるけど」と最後の言葉が微妙に引っ掛からないでもないが、空良がここまで言う相手なら一度会ってみる価値はありそうだ。
それに空良が、簡単に清良に会いにいけないことも。
家に帰ると清良が嬉しそうに何度も携帯を覗く姿を目にすると姉としては複雑な心境ではあったが、やっぱり二人を会わせてあげたい気にもなる。

「あたしのことより。川波くんは、清良ちゃんに会いたいんでしょ?」
「えっ、俺は…」

ここで否定しつつ、本心は会いたいに決まってる。
パフェを美味しそうに頬張っていた彼女の顔がちらついて、夢にまで出てくるようではかなりの重症かもしれない。

「彼女は、どう思ってるかわからないけどな」

たまの電話でのはにかんだ声、メールを送るとすぐに返事が来るし、彼女だってそう思っていてくれると信じたいが…。

「悔しいけど、清良ちゃんはあたしより川波くんの方がいいみたい。わかった、4人でなら会ってあげる」
「ほんとか?遥のやつ、喜ぶよ」
「嘘ばっかり、嬉しいのは川波くんのクセに」

聞いてるのか聞いていないのか、空良の心は既に清良のところへ飛んでいってしまったようだった。

+++

沙良が快く受け入れてくれた(かなり微妙な反応ではあったが…)おかげで、めでたく空良は清良と会えることになった。
あの日以来だから、かれこれ2週間振りのことになる。
しかし、まだまだ二人っきりのハードルは高く、清いグループ交際?!とでもいうのだろうか。
行き先は女性陣が決めるということで、男はただただ黙って着いて行くだけ。
とはいっても、モデルの沙良と空良が一緒に居れば、目立ってしまうことは間違いない。

「ねえ、清良ちゃん。川波くんに会いたいとか思ってな〜い?」
「えっ…」

今日は実家ではなく清良の方が沙良の住むマンションに遊びに来ていたのだが、それは例の企画を話すために敢えて沙良がこうなるように仕組んだこと。
夕食を二人で作りながらをそれとなく切り出してみたが、ちなみに夕食のメニューは野菜をタップリ使ったヘルシーカレー。
彼女はモデルだから食事には気を使っていて、そのせいか一人暮らしも重なって料理の腕もグンっとアップしていたが、空良の名前を出されただけで頬を赤く染めるあたり、反応がなんてピュアで可愛いのだろう。
すっかり自分にはなくなってしまった物のようでちょっぴり寂しい気分にもなるが、こればかりは仕方がない。

「あのね。4人でどこかに出掛けない?清良ちゃんの好きなところ、どこでもいいから」
「4人って?」
「清良ちゃんと、川波くんとその友達とあたし」
「空良さんのお友達?」
「そう。清良ちゃんのクラスメイトに久遠時(くおんじ)さんっているでしょ?川波くんのお友達って、お兄さんらしいのよ」
「えっ、奈留(なる)ちゃんのお兄さん?」

姉の沙良と一緒とはいえ、男の人とどこかに行くのは、この前、空良とパフェを食べて以来2度目ということになる。
―――空良さんのお友達だっていうのは聞いてたけど、会うのは初めて。

だけど、奈留ちゃんのお兄さんって、どんな人なんだろう?
兄の遥(はる)は何度か家に遊びに来ていた清良のことを知っていたのは廊下を通った際にリビングにみんなで居るところや玄関側にある自分の部屋からたまたま声に反応して帰って行く姿を見たからで、特に改まって挨拶を交わしたわけではなく、妹の奈留から名前なんかは聞いていたものの、清良はそのことに全く気付いていなかったのだ。

「どうする?」
「私が行ってもいいの?」
「もちろんっていうか、清良ちゃんが行かなきゃダメでしょ。川波くん、泣いちゃうわよ?」

…まさか、清良ちゃんが行かないなんて言ったら、こうして4人で出掛ける意味もないし、だいいち川波くんが立ち直れないわよ。
ああ見えても案外繊細だから、仕事にもすぐに響いちゃうわね。

「空良さんが?」
「そうよ。清良ちゃんに会いたくて、たまらないんだもん」

会いたくてたまらないのは清良も同じ気持ちだったけど、彼がそう思っていてくれるのだったらどんなに嬉しいだろう。
またまた、頬を染める清良のなんと初々しいこと。
…あぁ、あたしもこんなふうに胸きゅんってするような恋がしてみたいわぁ。
久遠時さんっていう人は、そういう相手にならないのかしらねぇ。
誰か、あたしの運命の人になって!!と心の中で願わずにいられない沙良だったが、今は可愛い妹のために協力してあげなきゃ。

「ねぇ、どこがいい?あたしが、うんっと可愛くしてあげるから。川波くん、益々、清良ちゃんに惚れちゃうわねきっと」

『どこがいい?』と聞かれても、今は清良には彼の顔が見られるということだけで幸せ一杯。
―――もしかして、これって…デートとかいっちゃうのかな。
お姉ちゃんも一緒だけど。

勉強一筋の清良だってやっぱり女の子、素敵な彼とデートする夢を見ることだってある。
その相手が、空良さんなら…。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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