「ねぇ、いいの?カラオケ行かなくて」
―――二人で抜けて来ちゃったけど、休み明けに会社に行ったら、みんなに何て言われるか…。
結局、彼の誘いに乗ってしまったというか、最終的に誘ったのはこれってあたしの方?!
微妙にそれとも違うなぁ。
だって、彼の唇が欲しかったわけじゃなくて、若い男の人の唇の感触を思い出したかっただけ。
だからといって、誰でもいいってわけでもないし、そりゃあ織田君は見た目も味も想像通り、ううんそれ以上ではあったわよ?
「いいじゃないですか。とっくにみんなも知ってますよ。俺が小室さんのこと、好きなの」
「は?みんな知ってるって…。あたしは知らないわよ?そんなこと」
―――当人が知らないことをどうして、みんなが知ってるのよぉ。
でも今、あたしのことが好きだって…。
それが本当なら、何もこんな年上女を好きにならなくてもいいのよ?
「小室さん、ニブイって言われません?俺、あからまさまに態度変えてたのに」
「失礼ね。ニブイって、どういう意味よ」
確かにニブイって言われなくもないけど、普通に考えたって、いくら態度に表していても、これだけ歳の差があるっていうのに真に受ける方がおかしいでしょう。
「そういうところもツボで、俺は好きですけどね」
「ねぇ、織田君。言ってて、恥ずかしくならない?」
「全然。ニブイあなたには、はっきり言わないとわからないようですし」
「ニブイ、ニブイって言わないでよぉ」
―――これでも一応、先輩なんだから。
入社した時は、何でも『はい』って素直にあたしの言うこと聞いてくれたのに。
いつから、こんな小生意気な口をたたくようになったのかしら。
「で、どこに行きますか?二人っきりになれるところって言うと、俺の家?」
「あのねぇ。あたしは別に織田君と二人っきりにならなくっても、ち〜っとも構わないんですぅっ」
―――な〜にが、俺の家よ。
誰が、織田君の家なんか…。
だけど、織田君の家ってちょっと興味あるかも。
何か、おしゃれそうだし、若い男の人の部屋って…。
いかんいかんっ。
あたしは一体、さっきから何を想像してるのよ。
彼の唇を意識したばっかりに、こんなことになっちゃって…。
「俺は、今すぐにでもなりたいですよ」
「え?」
「どうやって小室さんを口説くか、ずっと考えてて。まともにいったんじゃ、俺なんか相手にしてもらえないだろうし」
真剣な表情の彼に、いつの間にか惹き込まれて目が離せなくなる。
こんなふうに想いを告げられたのも、いつのことだったんだろう?
このまま彼の胸に飛び込んだら、忘れかけていた恋も女としての自分も、取り戻すことができるのだろうか…。
「ちょっと待ってもらってもいい?」
「は?」
「今のままのあたしじゃ、ダメなのよっ」
「俺は、そのままのあなたが―――」
「ダメダメっ。あたしが変わるまで、少しだけ待って」
―――これじゃあ、ダメなのよ。
今のままじゃ…。
彼の隣にいても、恥ずかしくない自分にならないと。
そのためには、自分をもっともっと磨かなきゃ。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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