小室さんは、俺のモノなのに…。
だよな?
そう何度も、心の中に言い聞かせる。
野郎どもの会話の中で、やたらと彼女の名前を耳にするようになった。
それもそのはず、彼女は俺の唇を奪った日から、どんどん綺麗になっていくのだ。
『待って』と言われてから既に一ヶ月が経過していたが、俺は一体いつまで待てばいいのだろうか?
ずっと憧れていた彼女に一生、自分の気持ちを伝えるつもりなどなかった。
年下だし、俺よりいい男なんて履いて捨てるほどいるというのに告って撃沈されるより、ずっと側で見ていられたら…。
それだけでも十分、幸せだったのが、彼女の方からあんなことをしてくれるなんて夢としか思えなかった。
ただ、反応からしてビミョーに俺の唇に対する興味本位だったという感じも拭えなくもないが、それだって俺のことを少しは意識していたということになるはずだ。
自惚れてると言われたっていい。
しかし、2度目のキスはいつ、味合わせてもらえるんだろう…。
というか、その前に俺の彼女になってくれるんだよな?
待たされるだけ待たされて、挙句の果てに『ごめんね。やっぱり、織田君とは付き合えない』なんていわれた日には、俺は立ち直れないぞ。
「小室さんだ」
「あっ、織田君もティータイム?」
給湯室に入ると一足先に紅茶を入れていた彼女が、自分のマグカップを手に持った俺の顔を見るなり、パっと明るく微笑んだ。
もちろん、彼女が入って行くのを確認した上で俺もここへ来たわけだが、クルンっとカールした睫毛が印象的な瞳と、ぷっくりとした艶々の唇に視線が釘付けになる。
誰も入って来なかったら、即行奪っているところだろう。
そして、透き通るような白い肌はラメ入りのフェイスパウダーを付けているのか、光に反射してキラキラと光っている。
思わず手を伸ばしそうになって、抑えるのが大変だった。
「俺のこと、忘れてないでしょうね」
「ごめんね、待たせて。っていうか、待っててくれてるわよね?」
「当たり前でしょ。もう、待ちくたびれて、痺れを切らしてるんですけど」
これじゃあ、飢えた何とかみたいだが、だからといってカッコつけている余裕なんてどこにもない。
一瞬、『ごめんね』なんて言うものだから焦ったけれど、それより、彼女の『待っててくれてるわよね?』という言葉が唯一の救いだったかもしれない。
「まだ、ダメなんですか?」
「あのね、今週末空いてる?」
「週末ですか?」
スーパーコンピューター並みの処理能力で弾き出した答えは、例えどんなに大事な予定があったとしても、『空いている』という言葉以外になかった。
「織田君さえ良かったら、どこか…デートしない?」
「あっちぃ!!」
「織田君、大丈夫?火傷しちゃった?」
「余所見するから」と、彼女は慌てて水道の蛇口を捻ると俺の手を流水で冷やす。
俺のスーパーコンピューターは、お湯が跳ねることまでは計算できなかったようだ。
今はそんなことなんか、どうだっていい。
うぉっー!!
ようやく待った甲斐あったかっ。
本当は、デートより俺の部屋で…と思っても、ここは彼女の希望に応えるのが男ってもんだろう。
「いいに決まってます」
「ほんと?」
「はい。喜んで」
「良かった。でも、手、赤くなっちゃったわね。痛くない?」と心配そうに見つめている彼女に見栄を張って、「大丈夫。全然、痛くなんてないです」と俺は答える。
ちょっとくらい手がヒリヒリしたって、痛みより喜びの方がずっとずっと大きいのだから。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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