Happy Happy Traveling
STORY4


次の日の朝も、雲ひとつない快晴だった。
まさに絶好のアクティビティ日和。

「すっごい、いいお天気」
「美花ちゃん、今日は大丈夫?日焼け止め、ちゃんと塗った?」
「うん。雅くんに怒られちゃうから、念入りにね」
「それなら、大丈夫ね」

こんな素直なところが、本当に可愛いなと絵里香は思う。

「あれ、彩那ちゃんは?」
「さっきまでいたのに。どこに行ったのかな?」

みんなで一緒に部屋を出て来たのだからいるはずなのだが、なぜか見当たらない。
そう言えば、龍もいないところを見ると二人一緒なのだろうか?
まだ、集合時間には時間があったからいいが、一体どこに行ったのだろう?



「なぁ、彩那。機嫌直してくれよ」
「別に機嫌なんて悪くないわよ」

二人が見当たらないと思ったらどうやら喧嘩をしたらしく、ロビーの隅の方で龍が一生懸命謝っている。
彩那の機嫌の悪い理由はと言うとせっかく絵里香にコーディネートしてもらった洋服を褒めてくれなかったからだった。
確かにファッション誌の編集に携わっている絵里香に見立ててもらいたいというのもあったけれど、それは全て龍のためでもあったのだ。
ただでさえ、彩那は龍よりも2歳年上である。
表面上は気にしていないように振舞っているが、本当のところは絵里香と同じでとても気にしていたのだ。
年上の彼女だから尚のこと可愛く見えたいという女心が、まだ若い龍にはちょっとわかっていなかったかもしれない。

「どうしたんだ?あの二人」

アクアウォークをするために送迎バスに乗り込んだ6人だったが、さっきから会話のない龍と彩那を見て一郎が絵里香にそっと耳打ちするように言う。
行きの機内では、あんなに仲が良かった二人だったのに一体どうしたというのだろうか?

「なんか、喧嘩しちゃったみたい」
「喧嘩?」

旅行にまで来て喧嘩もないものだろうと一郎は思ったが、成田離婚などという不吉な言葉もあるように意外にこういう時だからこそ多いものなのかもしれない。
でも、絵里香は自分も同じ境遇だけに彩那のことがとても気になっていた。
先週3人で買い物に行った時、一番張り切っていたのは彩那だったし、その理由も知っていただけに心境は複雑である。
ふと隣にいる一郎に目を向けると窓の向こう側にどこまでも続く海を眺めている。
自分は、彼の隣にいてもいいのだろうか?
また、そんな不安が過ぎってくるのを絵里香は、ただ黙って受け止めるしかなかった。



「うわっ、美花ちゃん…」

絵里香がそう言って、固まった。
なぜ、固まったかと言うと美花の水着姿を見たからで…。
既に知っている彩那や雅巳はともかく、他の初めて見る3人もそれは同じリアクションであったことは言うまでもない。

「うそ…ちょっと、反則でしょ」
「反則って…」

そういう言葉が出てきても、それは仕方がないのかもしれない。
それくらい美花は、スタイル抜群なのだから。

「ねぇ、雅くん。いいの?美花ちゃんの水着姿をみんなの前にさらしても」
「いいかと言われるとハイそうですねとは、言えないんですが…。そこまで、考えてなかったというか」

雅巳も実は今の今まで、美花の水着姿のことなど全く頭にはなかったのだ。
ただ、美花が喜んでくれることしか考えていなかったから。

「ぴったり付いてないと変なヤツに持ってかれるぞ」
「そうですよ」

一郎と龍が追い討ちをかけるような言い方をするから、雅巳もなんだか心配になってきた。
というか、美花の心配をするより自分達の彼女のことを心配するべきなのではと冷静に雅巳は思う。
絵里香はスレンダー美人だし、彩那は美花に負けず劣らずスタイルがいい。

「それより、自分の彼女を心配したらどうなんだ?もう、狙ってる輩がいるぞ」
「「えっ?!」」

一郎と龍が慌てて周りを見回すと同じツアーに参加した輩どもが、美花だけでなく絵里香や彩那のことを狙っているのがわかる。
そんな男達の心配を他所に美花は、係りの人の話を真剣に聞いている。
気持ちは、海の中で思いっきり泳ぐ魚だった。

実際海の中に潜ってみると水族館なんて比べ物にならないくらいものすごく綺麗で、自分が人間だということも忘れてしまう。
そして水中散歩を楽しんだ後は、念願のイルカウォッチング。
クルーザーに乗って、イルカの群れがいるポイントまで行くと遠くの方にジャンプするイルカが見える。

「美花、ほらあそこ見て」

雅巳に言われた方を見るとたくさんのイルカがジャンプしながら、船の周りを取り囲む。
まるで、美花達を歓迎するかのように。

「いやぁん、イルカがいっぱい。可愛い〜」

『出た!』、美花のこの声が出れば、満足度120%は間違いない。
美花は、デッキから身を乗り出すようにして見ている。

「すごいね、雅くん。こんなにいっぱいなんて」
「だな。あっ、あのイルカ、美花みたい」
「え?」

雅巳の指差す方を見ると1頭だけ群れから外れてるイルカがいる。
なんとなく出遅れてるところなんか、美花っぽいと言えなくもない。

「じゃあ、あれは雅くんかな?」
「うん?」

そのすぐ後ろを前のイルカを絶対に追い越さないように見守るよう、もう1頭のイルカが追いかける。
2頭のイルカが仲良く泳ぐ姿を自分達に重ね合わせて、いつまでも二人一緒にいられたらいいなと思う。
より一層絆の深まった美花と雅巳だったが、他の二組はというとなかなかそうはいかないようだ。
特に彩那と龍は、まだ朝の尾を引いていた。


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