「ねぇ、結衣。今夜、暇?」
何かのお誘いなのか?
同じ部で仲良しの子が、そう結衣に声を掛けた。
「うん、特に予定はないけど」
「だったら、行かない?」
「行かないって?」
「ホ・ス・ト・ク・ラ・ブ」
彼女は結衣の耳元で囁くように言ったのだが、誘われた場所が場所なだけに大声で答えてしまう。
「えっ、ホストクラブ?!」
「そうなの。友達が嵌っちゃっててね、おもしろそうだからあたしも行ってみたくて」
まぁ、あたしも行ってみたいわよ?
一回くらい、ホストクラブってところへ。
でも、いくらかかるかわからないし…。
「あたし、お金ないもん」
「大丈夫、初回料金5,000円だから」
「へぇ、そんなもんでいいの?」
「だ・か・ら、行ってみよう?」
「うん」
ホストクラブかぁ、ちょっと楽しみぃ。
あっ、でもこのことは陽には言えないわね。
あの人、意外に嫉妬深いし、後で何を言われるかわからないから。
☆
「結衣、今夜食事でもどう?」
「え…今夜?」
廊下で陽とすれ違った際、珍しく食事に誘われた。
いつもなら、あたしの方が誘って渋々なのに。
「何か、予定でもあるのか?」
「あっ、うん。友達と出掛ける約束を…」
「そっか、なら仕方ないな。じゃあ、またの機会にするか」
少しだけ寂しそうな表情で陽はその場を去って行こうとしたが、結衣がそれを止めた。
「ねぇ」
「あ?」
「どうしたの?急に食事に誘うなんて」
「いや、友達にいい店を聞いてさ。たまには、結衣を誘ったらどうかなって思って」
どうして、こういう時にそんなことを言うのかしら?
ホストクラブと陽からの食事の誘い。
どっちを取るかって言われれば、決まってるじゃない。
「待ち合わせ場所は?」
「え?だって、結衣は友達と約束が」
「断る」
「いいのか?」
「いいわよ。別の日にしてもらうから」
「わかった。じゃあ、18時に駅で」
「うん」
結衣が去ろうとすると、今度は陽に呼び止められた。
「なぁ」
「ん?」
「今夜、友達とどこに行くつもりだったんだ?」
「え…」
何で、そんなことを聞くわけ?
いいじゃない、どこだって。
「あっ、うん。ちょっと…」
「ホストクラブじゃないのか?」
「えっ、どうして…それ…」
何で、陽がそれをっ…。
「聞こえたんだよ。さっき、結衣ったら大きな声で話してたからな」
「うそ…聞こえてたの…」
「まっ、ホストより俺を選んでくれたんだから、今回は許してやるよ。でも、さっき別の日にしてもらうって言ってたけど、行ったらどうなるか。わかるよな」
「・・・・・・・・」
ニヤッと笑う陽の目が怖い…。
わかったわよ。
行かなきゃいいんでしょ?行かなきゃぁ。
「俺が今度、ホストやってやるよ。結衣の専属のさ」
「陽が?」
「なんなら、同伴もOKだし」
陽がホスト?!
想像できないんだけど、なんかおもしろそうかも。
っていうか、妙に似合いそう。
「やって、あたしだけの専属ホスト」
「もう、友達に誘われても行かない?」
「行かない」
陽がホストになってくれるなら、行く理由ないもの。
それに後が怖いから…。
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