SLS
No.11 ホストクラブ


「ねぇ、結衣。今夜、暇?」

何かのお誘いなのか?
同じ部で仲良しの子が、そう結衣に声を掛けた。

「うん、特に予定はないけど」
「だったら、行かない?」
「行かないって?」
「ホ・ス・ト・ク・ラ・ブ」

彼女は結衣の耳元で囁くように言ったのだが、誘われた場所が場所なだけに大声で答えてしまう。

「えっ、ホストクラブ?!」
「そうなの。友達が嵌っちゃっててね、おもしろそうだからあたしも行ってみたくて」

まぁ、あたしも行ってみたいわよ?
一回くらい、ホストクラブってところへ。
でも、いくらかかるかわからないし…。

「あたし、お金ないもん」
「大丈夫、初回料金5,000円だから」
「へぇ、そんなもんでいいの?」
「だ・か・ら、行ってみよう?」
「うん」

ホストクラブかぁ、ちょっと楽しみぃ。
あっ、でもこのことは陽には言えないわね。
あの人、意外に嫉妬深いし、後で何を言われるかわからないから。



「結衣、今夜食事でもどう?」
「え…今夜?」

廊下で陽とすれ違った際、珍しく食事に誘われた。
いつもなら、あたしの方が誘って渋々なのに。

「何か、予定でもあるのか?」
「あっ、うん。友達と出掛ける約束を…」
「そっか、なら仕方ないな。じゃあ、またの機会にするか」

少しだけ寂しそうな表情で陽はその場を去って行こうとしたが、結衣がそれを止めた。

「ねぇ」
「あ?」
「どうしたの?急に食事に誘うなんて」
「いや、友達にいい店を聞いてさ。たまには、結衣を誘ったらどうかなって思って」

どうして、こういう時にそんなことを言うのかしら?
ホストクラブと陽からの食事の誘い。
どっちを取るかって言われれば、決まってるじゃない。

「待ち合わせ場所は?」
「え?だって、結衣は友達と約束が」
「断る」
「いいのか?」
「いいわよ。別の日にしてもらうから」
「わかった。じゃあ、18時に駅で」
「うん」

結衣が去ろうとすると、今度は陽に呼び止められた。

「なぁ」
「ん?」
「今夜、友達とどこに行くつもりだったんだ?」
「え…」

何で、そんなことを聞くわけ?
いいじゃない、どこだって。

「あっ、うん。ちょっと…」
「ホストクラブじゃないのか?」
「えっ、どうして…それ…」

何で、陽がそれをっ…。

「聞こえたんだよ。さっき、結衣ったら大きな声で話してたからな」
「うそ…聞こえてたの…」
「まっ、ホストより俺を選んでくれたんだから、今回は許してやるよ。でも、さっき別の日にしてもらうって言ってたけど、行ったらどうなるか。わかるよな」
「・・・・・・・・」

ニヤッと笑う陽の目が怖い…。

わかったわよ。
行かなきゃいいんでしょ?行かなきゃぁ。

「俺が今度、ホストやってやるよ。結衣の専属のさ」
「陽が?」
「なんなら、同伴もOKだし」

陽がホスト?!
想像できないんだけど、なんかおもしろそうかも。
っていうか、妙に似合いそう。

「やって、あたしだけの専属ホスト」
「もう、友達に誘われても行かない?」
「行かない」

陽がホストになってくれるなら、行く理由ないもの。
それに後が怖いから…。


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