SLS
No.13 夏の終わりに


「もう、夏も終わりなのね。なんだか、物悲しくなってくるわ」

梅雨明けが遅かったわりに秋の足音は、もうすぐそこまで来ている。
暑かったけど、短過ぎる夏に心まで寂しくなるような気がしていた。

「どうした。結衣にも、そんな女らしいこと言えるようになったんだ」
「失礼ねぇ。あたしは女らしいこと、いつも言ってるでしょ?」

―――どうして、陽はそういうこと言うのよ。
まぁね、確かに普段のあたしは女らしいこと何一つしてないけど、たまには言葉くらい口にするわよね。

「そういうことにしておくよ」
「むっ。納得できないわね」

あたしは陽の腕をすり抜けてキッチンへ行き、冷蔵庫から発泡酒を取り出した。
―――昼間っからって、言われたっていいんだもん。
喉、渇いたし。

ブシュッ〜

あぁ〜美味しい。

「おっ、俺にも一本くれよ」
「飲みたかったら、自分で取りに来ればいいでしょ?あたしは、陽の家政婦じゃないんですからね」

また、いつものイライラか?
陽はこれ以上、結衣を怒らせないためにソファーから立つと入れ違うようにして冷蔵庫から発泡酒を取り出す。
ビールを飲みたいところだが、このご時勢少しでも安いものをといつもこれ。
細かいことを言わなければ、これでも十分だったから。

「あぁ、美味い」

キッチンで立ったまま、ぐびぐび飲んでいる陽を見ていると本当に美味しそうに思える。
もっと燃えるような恋愛に憧れた時もあったけど、こんなふうに他愛のない時間もいいのかな。
いっつも肩肘張ってたら、くたびれちゃうもんね。

「なんか、おつまみでも作ろうか?」
「いいねぇ。俺も手伝うよ」
「うん」

確か、鶏のささみが冷蔵庫にあったはずだから、バンバンジー風のサラダとカッペリーニを使ったトマトの冷製パスタなんてのもいいかも。
あとは…。
冷凍だけど枝豆と冷奴。

「夏休み、どこにも連れて行けなくて、ごめんな」
「え?ううん。陽はずっと仕事だったんだもの、しょうがないわよ」

今年の夏休みはどこかへ旅行にでも行きたいねと二人で話していたのに、それも陽の仕事が入ってあえなくお流れ。
この前みたいに『陽は、仕事とあたしとどっちが大事なの?』なんて、大人気ないことは言わない。
休みなしで働く彼は、ほんとに大変なんだから。

「秋に休みでも取って、温泉でも行くか?」
「温泉?いいわねぇ。露天風呂とか入って、のんびりした〜い」
「貸切にして、二人で入る?」

隣で微笑んで、いえニヤニヤしている男、約一名発見!!
―――どうせ、そんなことでしょうよ。
陽の考えそうなことだもん。
だけど、今だってお風呂も一緒になんて入ったことないのに…。

「もうっ、陽のえっち」
「知ってるくせに」
「知らないわよ。そんなこと」
「じゃあ、この際だから、きちんと確認しておこうか」

―――え…。
なんだか、嫌〜な予感が。
っていうか、これからおつまみ作るんじゃなかったの?

「やぁ…っ…ちょっ、陽っ…そんな…作れない…」
「後にしよ。今は、結衣を味わいたい」
「…味わいたいって…っ…ぁん…」

背後から抱きしめられて、唇を塞がれる。
お互い、微かにアルコールの匂いが香ったが、キスはどんどん深くなるばかり。
こうなっちゃったら、止められない。

「…あ…きら…っ…好きって…言って…」
「好きだよ」
「もっと」
「ん?今日の結衣は女らしいと思ったら、今度は甘えん坊さんか。まっ、どっちも俺にとっちゃぁ可愛いから」

陽はきちんと体を向かい合わせて、密着させる。
薄っすら頬を染めた結衣が、陽にはたまらなく色っぽく見えた。

「好きだ、結衣。愛してる」
「あたしも、陽が好き」

いつも、素直に言葉に出せたら喧嘩もしないのに…。
夏休みはどこにも行けなかったけど、一緒にいられればそれで幸せ。
秋には、温泉に連れて行ってね。
約束だから。

あたしは、陽の首に腕を回すと声に出さない声で。

『愛してる』


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