SLS
No.9 バレンタインデー


今日は2月14日、ちまたで言うバレンタインデー。
あたしもあの人のために例に漏れず、昨日徹夜で手作りしたわ。
単にチョコを溶かして作るだけなのに、こんなに大変なものなんてね。
惚れた相手でなけりゃ、絶対こんな面倒なことはできないと思う。

「随分たくさん、もらったのね」
「あぁ、これか?」

陽の手には、色とりどりにラッピングされたチョコレートの数々。
やっぱり、モテるのね。

「これでも肝心なやつからは、まだもらってないんだよな」
「いいじゃない。それだけもらえば」

あたしは、自分の作ってきたチョコを後ろ手に持ったままそう言った。
だって、この中のひとつになっちゃうなんて嫌なんだもの。

「俺はたくさんより、たった一つがいいんだよ」
「町田さんのたった一つって、何?」
「お前の、その手に持ってるやつ…かな」

ちょっと照れながらそう言う彼に、思わず笑みがこぼれてしまう。
この人はどうしてこう、一番欲しい言葉をくれるのかしら?
あたしは、彼の前にそっとチョコを差し出す。

「好きです。受け取って下さい」
「え?」

あたしがまさかこんなふうに言うとは思わなかったのだろう、彼の顔が一瞬固まったのがわかる。

「お前、不意打ちだぞ」

だって、バレンタインって女の子が男の子に告白する日でしょ?

「受け取ってくれるの?くれないの?」
「受け取るに決まってるだろ」

彼の手にチョコを乗せると、その腕をぐっと引き寄せられた。
優しいキスが、ひとつ頬に落ちてくる。

「町田さん、ここ会社なんだけど」
「あ?誰も見てないだろ」

見てないって…そりゃあ、そうかもしれないけど…。

「町田さん」
「ん?」
「返事を聞いてないんだけど」

聞かなくてもこうやって抱きしめられて、キスされたんだから。
『言わなくても、わかるだろ』そう答えが返ってくるのは、わかってる。
でも、ちゃんと聞きたいのよ。

「わかったよ」

あれ?
今日の陽ったら、なんだか素直ね。

「結衣が、好きだよ」

あ〜ん、どうしよう…。
嬉し過ぎて、涙出そう…。

「馬鹿、何泣いてんだ」
「馬鹿なんて、ひどい…」

好きな彼女に馬鹿なんて…。
ひどくない?

「俺は、笑ってるか怒ってる結衣が好きなんだよ。泣き虫は、嫌いなんだ」

怒ってるのも好きって、どうなのよ。
人が嬉しくて、泣いてるってのにぃ。

「だって、嬉しかったから…」
「馬鹿だな」
「馬鹿馬鹿ってぇ」
「俺さ、涙に弱いんだ。特に結衣の涙を見た日には、冷静でなんていられなくなる。ずっと、腕の中に封じ込めておきたくなるだろ」

陽…。

「ほら、笑って」
「うん」

もう一度「好きだよ」って言われて、また泣きそうになっちゃったけど、あたしも陽が好き。


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