今日は2月14日、ちまたで言うバレンタインデー。
あたしもあの人のために例に漏れず、昨日徹夜で手作りしたわ。
単にチョコを溶かして作るだけなのに、こんなに大変なものなんてね。
惚れた相手でなけりゃ、絶対こんな面倒なことはできないと思う。
「随分たくさん、もらったのね」
「あぁ、これか?」
陽の手には、色とりどりにラッピングされたチョコレートの数々。
やっぱり、モテるのね。
「これでも肝心なやつからは、まだもらってないんだよな」
「いいじゃない。それだけもらえば」
あたしは、自分の作ってきたチョコを後ろ手に持ったままそう言った。
だって、この中のひとつになっちゃうなんて嫌なんだもの。
「俺はたくさんより、たった一つがいいんだよ」
「町田さんのたった一つって、何?」
「お前の、その手に持ってるやつ…かな」
ちょっと照れながらそう言う彼に、思わず笑みがこぼれてしまう。
この人はどうしてこう、一番欲しい言葉をくれるのかしら?
あたしは、彼の前にそっとチョコを差し出す。
「好きです。受け取って下さい」
「え?」
あたしがまさかこんなふうに言うとは思わなかったのだろう、彼の顔が一瞬固まったのがわかる。
「お前、不意打ちだぞ」
だって、バレンタインって女の子が男の子に告白する日でしょ?
「受け取ってくれるの?くれないの?」
「受け取るに決まってるだろ」
彼の手にチョコを乗せると、その腕をぐっと引き寄せられた。
優しいキスが、ひとつ頬に落ちてくる。
「町田さん、ここ会社なんだけど」
「あ?誰も見てないだろ」
見てないって…そりゃあ、そうかもしれないけど…。
「町田さん」
「ん?」
「返事を聞いてないんだけど」
聞かなくてもこうやって抱きしめられて、キスされたんだから。
『言わなくても、わかるだろ』そう答えが返ってくるのは、わかってる。
でも、ちゃんと聞きたいのよ。
「わかったよ」
あれ?
今日の陽ったら、なんだか素直ね。
「結衣が、好きだよ」
あ〜ん、どうしよう…。
嬉し過ぎて、涙出そう…。
「馬鹿、何泣いてんだ」
「馬鹿なんて、ひどい…」
好きな彼女に馬鹿なんて…。
ひどくない?
「俺は、笑ってるか怒ってる結衣が好きなんだよ。泣き虫は、嫌いなんだ」
怒ってるのも好きって、どうなのよ。
人が嬉しくて、泣いてるってのにぃ。
「だって、嬉しかったから…」
「馬鹿だな」
「馬鹿馬鹿ってぇ」
「俺さ、涙に弱いんだ。特に結衣の涙を見た日には、冷静でなんていられなくなる。ずっと、腕の中に封じ込めておきたくなるだろ」
陽…。
「ほら、笑って」
「うん」
もう一度「好きだよ」って言われて、また泣きそうになっちゃったけど、あたしも陽が好き。
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