「美春ちゃん、おはよう」
「おはよう、ルミちゃん。ん?どうしたのそこ」
朝、学校でいつものように先に来ていたルミと挨拶を交わした美春だったが、ルミのセーラー服の襟元から見える首のところが赤くなっていることに気付く。
「えっ、う…ん」
「ルミちゃん?」
急に俯くと顔を赤らめてしまったルミ。
一体、どうしたというのだろう?
「あのね…あ〜恥ずかしい」
「もう、ルミちゃんったら。どうしたの?」
「ここじゃちょっと…後で話すから」
「うん…」と答えた美春だったが、ルミの様子が気になって勉強にあまり集中することができなかった。
◇
お昼休み、いつもならルミと美春は教室でみんなと一緒にお弁当を食べていたが、今日はルミの話を聞くためにあまり周りに人がいないところと中庭に来ていた。
早めに出てきたので、空いていたベンチに並んで座ると持ってきたお弁当を広げる。
「美春ちゃん、あのね…あたし、雄太さんとしちゃった」
「しちゃった?って、何を?」
「ヤダっ、美春ちゃんったら。そんな…恥ずかしいじゃない」
何をしたのかわからない美春には、妙に照れているルミがさっぱり理解できない。
「ちゃんと教えてくれないと、わからないんだもん」
「え…もしかして、美春ちゃん…」
そう言えば、今朝も首のところが赤くなってるのがなぜなのか、わからなかったようだし…。
今までの彼女を見ていれば、そういうことを知らなくても仕方がないのかもしれないけど。
「美春ちゃん、キスマークって知ってる?」
「キスマーク?」
キスマークとは聞いたことはあっても、実際どういうものかと聞かれるとよくわからない。
美春は、首を傾げるばかりである。
「そう。今朝、美春ちゃんここどうしたの?って聞いたじゃない。これね、キスマークなの」
「え?」
―――その赤いのが、キスマークなの?
全然、知らなかった。
「あたし、雄太さんとえっちしちゃったの」
「えっち?」
―――えぇぇぇぇ?!
キスマークのことはよくわからなかったけれど、えっちの意味くらいは美春でも知っている。
でも、自分はまだ高校生になったばかりでそういうことは大人のすることだと思っていたから、まさかルミがもうしてしまったとは…。
「美春ちゃんは?早乙女さん、そういうこと言わないの?」
「えっうん、特には…」
「そっか、だからって雄太さんがってわけじゃないんだけど、たまたまうちの両親とお兄ちゃんがいなくってね遊びに来た雄太さんとそういう雰囲気になって」
「そうなんだ…」
―――ルミちゃん、もう雄太さんとえっちしたんだ…。
恭ちゃんも、そう思ってるのかな?
ずっと優しいお隣のお兄ちゃんだって思ってた恭ちゃんのことをひとりの男の人と意識するようになって、今では恥ずかしいけど恋人って呼べる存在になっている。
人がいないと恭ちゃんはすぐにキスしてくるから、それにようやく慣れたところだったのに…その先なんて…考えたことなかった。
「雄太さんとしちゃったことは後悔していないし、よかったって思うの。もちろん二人とも初めてだったから、なかなかうまくできなくって…。でも、彼すごく優しくしてくれて益々好きになっちゃった」
「痛かった?」
「そりゃもう、痛いなんてもんじゃないくらい」
―――初めてが痛いって言うのは、本当なんだ…。
「でも、早乙女さんは初めてじゃなさそうだから、大丈夫かも」
「え?」
―――恭ちゃんは、初めてじゃないかもしれない?。
それを聞いて、なんだか複雑な心境の美春。
「ごめんね変な意味じゃないの。ただ、そんな気がして…ほら、男の人ってそういうのものでしょ?」
美春は、ルミが雄太とえっちしたということもさることながら、もしかして恭は初めてじゃないかもしれないのだと…自分だけが取り残されているようで寂しかった。
+++
恭は雄太から童貞でなくなったと告げられた時、ある意味ショックだったことは確かだった。
別に先を越されたとかそういうことではなかったが、やはり避けては通れないものだということ。
美春にはまだ早いと思っていたし、大事にしてあげたいという気持ちはあるが、これ以上抑えることができなくなってしまうかもしれない。
そんな悶々とした気持ちで、一緒に帰るために美春のことを待っていたが…。
「ごめんね、恭ちゃん遅くなって」
「ううん」
恭は、極力考えないようにしながら美春と肩を並べて家に帰る。
駅に着いて電車に乗る頃になると手を繋ぐのが恒例になっていた。
初めの頃はすごく恥ずかしがっていた美春だったが、今はようやく慣れてきたよう。
人前でいちゃいちゃしているカップルを見るとウザイと思っていた恭だったのに、いざ美春が彼女になった途端それがコロっと変わるのだから不思議なものだ。
「そうそう。お母さんが今日おばさんに話すって言ってたんけど、夕食は恭ちゃんの家に食べに行くね。お母さん、急に泊まりで田舎のおじいちゃんとおばあちゃんのところに行くことになったの、それにお父さんも遅くなるって言うし」
「そうか、母さん喜ぶな。姉ちゃんも家を出てるし、毎晩父さんと俺じゃあ料理を作る張り合いがないって言ってたから」
―――そうかぁ美春が、家に来るのか…。
自分の家にひとりでいるのは怖いからって、きっと俺の家で風呂に入ってから帰るんだろうなぁ。
いや、もしかして泊まり?
おっと、俺は何を考えているんだ…。
そんな心の中を悟られないよう、恭は美春の手を強く握りした。
◇
「美春ちゃんがお夕飯を食べに来てくれて、おばさん嬉しいわ。お父さん、今日は飲んで帰るから食事はいらないってさっき電話があってね。恭と二人じゃねぇ、せっかく頑張って作っても何も言ってくれないんだもの」
「おばさんのお料理すごく美味しいです。私、全然料理できなくて…この前なんて、合宿の時は指を切っちゃうし」
「あら、そうなの?気をつけないと。恭が心配したんじゃない?」
「え…」
ちらっとこっちを見た母に『なんて鋭いんだ』と恭は、心の中で言い返す。
まぁ、小さい時から一緒なわけだし、そのくらいのことはわかっているのかもしれないが…。
3人で食事を済ますと美春は数学の宿題でわからないところがあるからと、恭の部屋で教えてもらうことにした。
「根津先生の授業はわかりやすいんだけど、どうしてもここだけわからなくて」
「どれどれ?あぁ、ここはちょっと難しいかもしれないな」
恭は美春の方に顔を近づけて、体を密着させるようにして教えてくれるのだが、たまに肌が触れたりして美春にしてみればそれが気になって勉強どころではなくなってしまう。
ふと、『早乙女さんは初めてじゃなさそうだから、大丈夫かも』というルミの言葉が思い出される。
―――恭ちゃん、そうなの?…それにやっぱり…したいって思うのかな。
せっかく恭に勉強を教えてもらったのに、わかったようなわからないような、美春はあまり頭に入らなかった。
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