君だけに
Story2


「美春ちゃん、おはよう」
「おはよう、ルミちゃん」

美春が教室に入って来たのを見つけたルミが、美春の席にやって来た。
入学式でたまたま隣に座っていた二人は、すぐに意気投合したのだった。
彼女は小柄だが、出るところはちゃんと出ているナイスバディの持ち主で、フランス人形のように可愛らしかった。
ルミは中等部からの進学だったが、外部入学の美春にとても優しくしてくれ、不安だった高校生活も楽しく過ごせそうだなと思う。

「ねぇ、美春ちゃん。あの人と知り合いなの?」
「あの人?」

あの人と言われて思い当たる人物がいない美春は、首をかしげた。

「今朝、一緒に来てた人。えっと、2年生の早乙女さん」
「早乙女さん?あぁ、恭ちゃんのこと?」
「恭ちゃん?!」

あまりに大きなルミの声に、美春の方が驚いたくらいだった。
でも、そんなに驚くようなこと?

「ルミちゃん、そんな大きな声を出してどうしたの?」
「だって、あの人すっごく怖そうじゃない。あたし、笑ったのなんか一度も見たことないもん。なのに美春ちゃん、一緒に来てたから」

笑ったところを見たことがない?
―――恭ちゃんは、あたしの前ではいつも笑っているけど…。

「恭ちゃんは、怖くなんかないよ優しいし。それに一緒に来てたのはね、恭ちゃんとあたしは、家がお隣さん同士で幼馴染だから」

美春の恭は優しいという言葉に意外だという様子のルミ。
しかし、二人が幼馴染だったとは…。

「そうなんだ。でも、本当に怖くないの?」
「怖くないよ。もしかして、みんなそう思ってるの?」

ずっと一緒に過ごしてきた美春には、恭はいつだって優しいお兄ちゃんだった。
それが、もしかして学校では違うのかもしれない。

「うん。すっごくカッコいいんだけど、表情が怖そうだなって」

そう言われてみれば、恭は二重なんだけど切れ長の目だし、目が悪いのもあってそういうふうに見えてしまうのかもしれない。

「そっかぁ。あたしは小さい時から一緒だから、あんまり気にしたことないな」
「それにどんなに可愛い子に告白されても付き合わないの」
「え?」

―――恭ちゃんが、告白?
ルミも言っていたように恭は、美春から見てもすごくカッコいいと思う。
そんな彼が、モテないはずがない。
しかし、自分の知らないところで告白されたりしていると聞かされると複雑な心境だった。

「早乙女さん、ちょっと怖そうだけど、カッコいいからすっごくモテるの。告白も絶えないって噂だけど、どんなに可愛い子とも付き合わないんだって。だから、女嫌いなんじゃないかって」
「女嫌い?」

それは、どうだろう?
アイドルの可愛い子がテレビに出てくると、結構騒いでいるような気がするが…。

「彼女はいないらしいし、誰とも付き合わないなんておかしいじゃない?」
「そんなことないよ?恭ちゃん、アイドルとか大好きだもん。たまに一緒にテレビを見ていると隣で騒いでるし」
「え…」

ルミが、固まった。
それはそうだろう、あの恭がアイドルが大好きなんて…。

「ねえ、美春ちゃんと早乙女さんが一緒の時って、どういう話してるの?」
「え?普通だと思うけど」
「普通ねぇ」

意味深なルミの言い方に少々納得できない美春。

「もう授業がはじまっちゃうわね。今度、ゆっくり聞かせてね」

そう言うとルミは、名残惜しそうに自分の席に戻って行った。
美春の知っている恭と学校での恭がかなり違っていることに驚いたが、少しだけ彼の素顔を知ったような気がした。

+++

新学期早々の授業は、まだ休み気分が抜けないせいかあまり身が入らない。
恭はほとんどの教科で寝ていたにもかかわらず、それでもクラストップの成績だというのが雄太には信じられなかった。

「お前、相変わらずよく寝るなあ」
「今朝は、朝っぱらからあいつが起こしに来たんだよ。おかげで30分は寝そこなった」
「あいつって、今朝一緒に来てた美春ちゃんか?へぇー、起こしに来てくれるんだぁ」

―――なんだよ、その言い方は。
ニヤついた顔の雄太を恭はいつもの無表情で睨み返す。

「あいつが勝手に来たんだよ」
「勝手にねぇ」
「うるさいっ、もういいだろ。俺は帰る、じゃあな」

恭は、力バンを手に持つと雄太を無視して教室を出て行こうとする。

「オイっ、俺も帰るよ」
「俺、あいつと約束してるんだ」
「え?っあぁ、だったら途中までいいだろ?」

まさか一緒に帰る約束までしていたとは…。
しかし、このチャンスを逃す手はない。

「勝手にしろ」

雄太は、カバンを掴むと急いで恭の後を追いかけた。

階段を一階まで下りると既に美春は待っていたが、隣には友達なのか女の子がひとりいた。

「あっ、恭ちゃん」
「ごめんな、遅くなって」
「ううん。あのね、お友達のルミちゃんも一緒にいい?」

恭は、美春の隣にいた女の子に視線を向けるとルミはぎこちない笑顔を返す。
それもそのはず、ルミにはどうしても恭は怖いというイメージが強くて、つい顔が引きつってしまうのだ。

「あっ、あの。私、美春ちゃんと同じクラスの塚原 ルミと言います」
「美春が、お世話になってます。俺は―――」
「早乙女さんのことは、美春ちゃんに聞いてますから」
「そう、なんて聞いてるの?美春のやつ、変なこと言ってない?」
「え?」

横から「恭ちゃん、失礼ね。あたしが、そんなこと言うわけないでしょ?」という美春の声が聞こえてきたが、それにしてもあまりに優しく返されてルミはどう答えていいかわからない。

―――なんだか、いつもと表情も違うし…。
早乙女さんって、こんな人だったの?

「ならいいんだけど。あと、こいつも一緒にいいかな?」
「こいつは、失礼だな。ちゃんと紹介してくれよ」

こいつ扱いされて不満顔の雄太が、恭の腕をつねる。

「いってぇなあ、わかったよ。えっと俺の友達の高津 雄太」
「始めまして、美春ちゃんにルミちゃん」

二人の可愛い女の子を前にして、鼻の下がデロデロに延びまくってる雄太だった。


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