4人で帰ることになったものの恭は美春にベッタリで、雄太もルミも後ろから見守ることしか出来なかった。
「美春、うちの学校はどうだ?」
「うん。みんな優しくしてくれるし、楽しいよ。でも、男の子が周りにいなかったから、なんか不思議かも」
美春は小学校から中学校までずっと女の子しかいない女子校だったから、周りに男の子がいるというのがちょっと不思議な感覚ではあった。
それに成翔学園は女子が3に対して男子が7という比率のため、クラスの半分以上が男子生徒なのである。
「そっか。ずっと女子校だったもんな」
「あのね、クラスにすっごくカッコいい男の子がいたの。神田くんって言うんだけどね」
「えっ…」
―――何?
カッコいい男だと?
俺よりいい男なのか?そいつは。
「どんなふうにカッコいいんだ?」
「うんとね、背が高くて」
―――背が高い?
俺は180cmだけど、そいつはもっと高いのか?
「サッカー部に入ってて」
―――サッカー部か。
まぁ、確かに人気のスポーツだからな。
「それで?」
「それで、面白くって優しいの。あと、頭もいいんだよ?」
―――カッコよくて、スポーツができて、頭もいい?
それに面白くて優しいとは、まさに完璧なやつだな。
だいたい、うちの学校にそんなやついたか?!
「俺とその神田ってやつを比べて、美春はどっちがいい男だと思う?」
「ん?そうねぇ…」
指を顎にあてて、一生懸命考えている美春。
―――オイオイ、そこは悩むところじゃないだろう?
絶対自分だと自負していた恭だったが、美春の表情から段々不安になってくる。
「神田くんもカッコいいんだけど、やっぱり恭ちゃんかな?」
「そっか」
――― ヨッシャッ~!!
心の中で思いっきりガッツポーズをとっている恭だったが、美春の手前敢えて普通に返す。
ここで美春の口から神田などという名前が出た日には、どうしてくれようか。
しかし、そいつは美春に手を出したりしないだろうなぁ。
そんな気持ちを悟られないよう質問を続ける。
「俺のどこが、カッコいい?」
「えっとね、恭ちゃんの目が好き。見つめられると吸い込まれちゃいそうなんだもん」
あはは―――吸い込まれそうってのは、面白い表現だな。
ついつい見つめてしまうから、そう思うのかもしれない。
しかし、美春に意図はないにしても、好きなんて言われると妙にドキドキするもんだなぁ。
「でもね、ルミちゃんに今朝言われたの。恭ちゃんが怖くないのって?だから、あたしは全然怖くないよ優しいよって言ったんだけど」
―――なるほど、さっき俺のことを聞いてるって言ってたのはこのことか。
まぁ、学校での俺は、無表情で無愛想って有名だからな。
そう思うのは仕方がないかもしれない。
でもいいんだ。
優しくするのは、美春ひとりだけで十分だから。
それにそういう顔を見せると、すぐに近寄ってくる女がいるからうざったい。
「あと恭ちゃん、どんなに可愛い子に告白されても付き合わないってほんと?」
「あ?」
―――うわっ、ルミちゃんとやらは、そんなことまで美春に吹き込んだのか~。
確かに恭への告白は絶えないが、そういうことまで周りに伝わっていたとは…。
一応言っとくけど、どんなに可愛い子に告白されてもって、美春より可愛い子なんていないんだぞ?
「どうして?」
どうしてって…。
それは、決まってるだろう?
俺には、美春しかいないんだから。
とは思っていても、今それを言うわけにはいかない…。
「美春は好きでもない男に告白されて、“ハイ”って言うのか?」
「ん…言わないかな」
「だろう?断ってるというのは、相手の子が好きじゃないからなんだ」
「だったら恭ちゃん、好きな人はいないの?」
「え?」
―――美春、そういうことを真顔で聞かないでくれ。
答えに困るだろうが…。
「いないわけじゃないけど…」
「いるんだ…」
―――うわっ、なんだよその落ち込み方は、俺は期待するぞ?
「いや、いない」
「ほんと?」
「あぁ」
美春の顔が、急に明るくなる。
なぜかわからなかったが、恭への告白が絶えないことをルミに聞いた時、すごく嫌な気持ちになった。
今も好きな人がいるかとの問いに対する恭の曖昧な返事にも、やっぱり美春の気持ちはもやもやしてしまう。
でも、いないと言われて嬉しいと思うのは事実。
「そういう美春こそ、どうなんだ?さっきの神田ってやつのことは、好きじゃないのか?」
「神田くんはカッコいいなあって思っただけ、好きっていうのとは違うと思う。だって、まだ入学したばっかりだし、そういうのよくわかんないもん」
周りに男の子がいなかったわけだし、美春にはまだそういうことはよくわからない。
恭にしてみれば、ここで自分のことを好きだといって欲しかったのだが…。
「俺に好きな子ができたら、美春は喜んでくれるのか?それとも…」
この質問は、イジワルだっただろうか?
でも、どうしても聞いておきたかったから…。
「本当なら喜ばなきゃいけないって思うんだけど…恭ちゃんが遠くに行っちゃうようでなんかやだなって。ごめんね、こんなのあたしの我侭よね」
全然、我侭なんかじゃない。
むしろ、そう思ってもらえるだけでいいんだ。
「美春に好きな男ができるまで、俺は好きな子は作らない」
「え?でも…」
「決めたから」
恭は、他の誰にも見せない美春だけに見せる笑顔で彼女を見つめた。
そして、その相手が自分になることを願って。
そんな二人の様子を見ていた雄太とルミは、今まで見たことがないくらいの優しい表情の恭に目が離せなかった。
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