君だけに
Story22


恭と美春はいつものように学校に登校したが、なぜか妙に視線を感じるのは気のせいだろうか?

「美春、さっきから俺達みんなに見られてないか?」
「恭ちゃんも、そう思う?」

厳密に言うと、恭というよりは美春の方に視線は集まっていると思う。
そんなことを思っていると、二人を待ってましたとばかりにルミと雄太がすっ飛んで来た。

「美春ちゃんっ」
「ルミちゃんに雄太さんまで、おはようございます」
「それより、これ」
「え?」

ルミが手にしていたのは、若い子達に人気の雑誌だった。
こんなの学校に持って来てもいいの?と思いつつも指差す場所に視線を向けて、美春と恭は目を見開いた。
なんとそこには、美春の写真が大きく載っていたからで…。

「すっごい、美春ちゃん。もう、こんなところまで話が進んでいたの?」
「え…これは…」

軽い気持ちで写真撮影をしたが、まさかこんなふうに雑誌に載ってしまうとは…。

「美春、どういうことなんだ?」
「恭ちゃん、これはね―――」

美春が説明しようとしたところで、始業の鐘が鳴ったために仕方なく恭と雄太は自分のクラスに戻って行く。
そんな二人の後姿を見つめながら…。

「美春ちゃん、早乙女さんに言っていなかったの?」
「うん。だって、こんなふうに雑誌に載るなんて聞いてないし、思ってもみなかったから」
「そうなの…」
「どうしよう、ルミちゃん」

さっきの恭の様子からして、多分怒っているに違いない。
―――どうしよう…。

一方、恭は。

「なぁ。美春ちゃん、いつの間にあんなことになってたんだ?」
「知るか、そんなこと」

恭は雄太と顔も合わせずに、スタスタと先を歩いて行ってしまう。
そんな恭を後から急いで追いかける雄太。

「お前、聞いてなかったのか?」

美春は何でも恭に話しているとばかり思っていた雄太は、今の言葉を聞いて驚きを隠せない。

―――聞いてたら、俺があんなこと許すわけないだろ。

「誘いがあったのは知ってるけど、写真を撮ったなんて話は聞いてない」
「そっか。でも美春ちゃん、何で黙ってたんだろう」

―――それは、こっちが聞きたいよ。
どういうことなのか、後でじっくり聞かせてもらわないと。
そのことが気になって、恭は勉強など手につかなかった。



入学当時から可愛いと評判だった美春、雑誌に載ったことでより注目を浴びてしまい教室にいても他のクラスや学年の子が入れ替わりで見に来る始末。
本当に芸能人になったりしたら、こんなものでは済まないのだろう。

「はぁ…。こんなことになるなら、羽奈さんに付いて行ったりするんじゃなかった」
「本人に承諾もなく写真を載せるなんて、違法なんじゃないの?」
「それがね、そうでもないのよね」
「え、どういうこと?」

確かにルミの言うように黙って写真を使えば違法かもしれないが、今思い出してみると帰り際に羽奈にこう言われたのだった。
『美春ちゃん、いい写真が撮れたら使わせてもらってもいい?』
初めから使うことはないだろうと思っていたし、使ったとしてもそんなたいしたことじゃないと。
だから美春は、つい『はい』と言ってしまった…。

「あちゃー、じゃあしょうがないわね」
「うん。恭ちゃんに全部話して、どうするか考える」
「それがいいわね」

―――怒ってるなぁ、恭ちゃん…。
さっきの表情を思い浮かべて、周りではしゃぐみんなとは裏腹に暗い顔の美春だった。

+++

結局、学校では話すことができなくて帰り道、恭と美春の間には重苦しい空気が流れていた。
それを先に打ち破ったのは、美春の方だった。

「恭ちゃん、ごめんね」

俯いたままの美春の頭に、恭はそっと自分の右手を載せる。

「どうして、言ってくれなかったんだ?」

美春がゆっくり顔を上げると、彼はいつものように優しい笑顔だった。

「うん、なんか言い出しにくかったの。勝手にあんなことしちゃったし」
「俺は、美春がやりたいっていうのなら何も言わないよ」
「あたしね、すっごくやりたいっていうわけじゃないの。ただ、言われると断れないっていうか」

恭は美春の性格を知っているから、断れなかったというのはよくわかる。
きっと、ひとりの時に羽奈に上手く誘われたのだろう。

「そっか。でも、全く嫌っていうのでもないんだろう?あの写真、俺から見てもよく撮れてたと思うし」

雄太が持っていた雑誌を見せてもらったのだが、恭から見ても美春のいい部分が出ていて、初めてとは思えないくらいとてもよく撮れていたと思う。

「好きな人の顔を思い浮かべてたから」
「え?」
「あのね。カメラマンの人が、好きな人の一番好きな顔を思い浮かべたら楽になるからって言ってくれて。だから、あたしの中で一番好きな恭ちゃんの笑顔を思い浮かべたの」

恭にしてみれば黙って写真を撮ったのはあまり喜ばしいことではなかったが、あの写真の中の美春は自分を想っているのだと知れば嬉しくないはずがない。
―――芸能界に足を突っ込むようなことには反対だけど、どうなんだろう…。
美春の性格からいって、恭の意見は絶対に違いない…。

プップー ―――。

どうしたものかと考えていると、背後からクラクションを鳴らす音と共に車が近づいて来た。

「お二人さん、お揃いのようね」

なんというタイミングなんだろう。
羽奈がこんなところに現れるとは…。

「なんですか」
「まぁ、そんなに怖い顔しないでよ。あなたもも彼女の写真見たんでしょ?よく撮れてたと思わない?すっごい評判なんだから誰なの、あの子はって。それで美春ちゃん、また撮らせてくれないかしら」
「え?」

今は恭が側にいるし、美春にはなんと答えていいかわからない。

「今度は男の子と一緒なんだけど、どう?」
「何、男だと」

男と聞いて、いや聞かなくても恭が黙っているはずがない。

「カッコいいのよ、これが。ねぇ、美春ちゃん。お願い」

「オイっ、人の話を聞けっつうのに」という恭の話なんて、全く聞いていない羽奈。
美春が押しに弱いことを知っているからか、わざと恭を無視して話し続ける。

「ダメだ、美春。俺以外の男となんて、絶対ダメ」
「だったら、あなたが代わりにやってくれる?」
「はぁ?何で俺が」

―――何で俺が、そんなことをやらなきゃならないんだ。
っつうか、どこからそういう話が出てくるのやら…。

「だって、もう美春ちゃんでいくって言っちゃったんだもの」
「そんなの、あんたの都合だろ」
「美春ちゃんはどう?彼氏と一緒だったら、いいわよね?一回だけだから、お願い」

―――また、無視かよ。

「一回だけなら…」
「ほんと!あぁ〜ん、ありがとう」
「オイっ、美春。何言ってんだっ」

お願いされて、美春は羽奈を断ることができなかった。
それに一回だけだというし、相手は恭なのだから。

しかし、これが羽奈の策略だったとは…。


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