―――あぁ〜気持ち悪い。
それに体も痛いし…。
昨日の夜は真由と飲み明かして、フローリングの上でそのまま眠ってしまったよう。
二日酔いとフローリングに寝ていたことであちこち体が痛いが、それにしても朝っぱらから何やら外が騒がしい。
「帆波、おはよ」
「あぁ、おはよう真由。大丈夫?」
「ダメぇ…」
真由は本気でダメみたいだが、外の騒々しさで目を覚ましてしまったようだ。
「なんだか、外が騒々しいんだけど何かしら?」
帆波はダルイ体を引きずるようにして起き上がると、そっとドアを開けてみる。
―――アレ?引越し?
そう言えば、少し前に右隣の部屋の住人が引越すと挨拶に来たのを思い出した。
もう、次の人が入るのね。
ここは人気のアパートだったから、あっという間に埋まってしまう。
今度は、どんな人かしら?
前は帆波より少しお姉さんが住んでいたのだが、気さくなとても感じのいい人だった。
今回はどうだろう、女性なのか男性なのか。
「帆波ちゃん、おはよう」
ドアの隙間から首だけを右の部屋に向けて出していたのだが、反対方向からいつものハイテンションな声が聞こえてきた。
「あっ湊さん、おはようございます」
―――え?
湊はここへ越して来た時と同じ、頭にタオルを巻いていた。
彼は越してきたばかりだし、その格好は…友達でも住むのかしら?
「今日から、帆波ちゃんの右隣の部屋に海が住むことになったんだ。よろしくね」
「え…」
そういうこと…。
1つの部屋に二人で住むには無理があったが、間に帆波を挟んで住むことになろうとは…。
「よぅ、帆波。俺はこっちに住むことにしたから、よろしくな」
右隣の部屋から出てきたのは、同じように頭にタオルを巻いた海だった。
二人並ぶと、やっぱり似ているなぁと感心してしまう。
「はい、こちらこそ」
見ず知らずの人が住むよりは、知っている人が住む方がいいとは思う。
でも、これってどうなんだろう…。
「帆波、どうしたの?」
外を覗きに行ったきり戻って来ない帆波の元へ真由が頭を押えながら出て来たが、二人を見て少し驚いた様子。
「湊さんに海さん」
「やぁ、河西さん。来てたんだね」
湊が、朝から爽やかな笑顔で答える。
「はい、あの…引越しですか?」
二人の格好を見て言った真由に、すかさず帆波が状況を説明したのだが…。
「海さん、右隣の部屋に住むんですって」
「え?ということは、海さんが右隣で湊さんが左隣ってこと?」
さっきまで二日酔いでぐったりしていた真由の目が一瞬輝いたように見えたのは、気のせいだろうか?
「そうなんだよね。これで、帆波ちゃんは安心だよ。俺と海で見張ってるからね」
「え…」
―――見張ってるって何?
あたしは、二人に監視されてるわけ?!
ガックリと肩を落とす帆波とは裏腹に、真由は二日酔いなんてどこへやらと思うくらい笑ってるし。
「良かったじゃない、帆波。素敵なナイトが二人もできて」
「もう、真由っ」
―――ナイトって…。
まぁ、同じ部屋に住んでるか住んでいないかの違いだから、そんなに変わらないんだけど…。
「そういうことだから、兄貴がいない時は俺が帆波の面倒を見てやるよ」
「海、帆波ちゃんを頼んだよ」
―――あぁ…何が、『帆波ちゃんを頼んだよ』よ…。
そんな、暢気なことを言ってる場合じゃないでしょうに。
海さんは、対決するって言ってるのよ?
なんて、帆波の声など届くはずもなく…。
彼らは、再び仲良く荷物を運び始めた。
「なんだかんだ言ってあの二人、仲いいわよね?」
「まぁね」
真由の言うように仲がいい。
海も決して湊のことを敵視しているわけではなく、尊敬しながらも兄を超えたいと思っているし、お互い刺激し合いながらいい関係を築いているのかもしれない。
その日は海の引っ越し祝いということで、4人でパーッと飲むことにしたが…。
前日に真由と散々飲み明かした帆波には、少々キツイ。
なのに彼女は全く平気だっていうのは、タフというかなんというか。
「ところで、湊さんと海さんは、どっちがお酒は強いんですか?」
真由の質問に、二人は首を傾げて考え込んでいる。
海の歓迎会の時に見たところ、どちらもかなり飲むタイプ。
「どうだろう?俺も海も結構飲むけど、あまり気にしたことはなかったから」
「だったら、兄貴。この際だから、どっちが強いか勝負しようぜ」
―――え?
なんだか、変なことになってない?!
まさか…これも、対決のうちなんじゃないでしょうねぇ。
「おもしろい。ヨシ、やってみよう!」
「ちょっと、止めた方がいいですよ」
「おもしろ〜い。あたしが、審判やりま〜す」
すっかり乗り気の湊に輪をかけて真由が加わる。
帆波の話なんて、3人とも聞いちゃぁいないし…。
―――もう、知らないから。
そんな帆波の心配を他所に、湊も海も黙々と飲み続けている。
逆に審判を買って出た真由の方が先に潰れてしまい、寝息を立てて眠ってしまった。
「アレっ、河西さん。審判やるんじゃなかったの?」
「ダメだこりゃ。っつうことは帆波、ちゃんと最後まで見ててくれよ」
「え…何であたし…」
「ここには、お前しかいないだろう」
「帆波ちゃん、これは男の勝負なんだから最後まで見届けてくれないと」
―――男の勝負って…。
もう、止めるんじゃないわけ?
「だったら、止めた方が」
「せっかくだから、最後までやる」
「そうだよ」
―――勝手にして…。
投げやりな帆波は睡魔と闘うのが精一杯で、かなり粘った湊と海を最後まで見届けることができなかった。
次の日、どっちが勝ったのか責められるとは知らず…。
帆波の膝枕で気持ちよく眠る、湊と海だった。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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