『痛ぃ…』
帆波は体の痛みで目を覚ますと、その理由はソファーで眠っていたからだとわかる。
そして、体の痛みとは別に下半身の違和感はというと…お隣のナンパ男に何度も迫られたから。
―――あれ?そう言えば、ナンパ男の姿はないわね。
それが、寂しいとか思ってしまうのはなぜだろう?
なによ!人をほったらかして、出て行くなんてっ。
そう毒づきながら、シャワーでも浴びようと起き上がるとテーブルの上のメモが目に入る。
手に取って見るとミミズが這ったような、汚〜い字。
―――うわぁ、きったな〜い。
何コレ。
パッと見ただけでは何が書いてあるのか、さっぱりわからない。
帆波はもう一度ソファーに座りなおして、そのメモをじっと見つめる。
『 帆波ちゃんへ
おはよう、ごめんね朝まで一緒にいられなくて。
俺、朝一番でお客先で会議があるんだ。
ちょっと遠くて…だから、先に行くね。
もう少し寝顔を見ていたかったんだけど、残念〜。
でも、お土産買ってくるからね、それと今夜はゆっくりできるよぉ。
湊 』
―――会議?
そう言えば、そんなことを言っていたようないないような…。
でも、お土産はいいとして『今夜はゆっくりできるよぉ』って…。
ということはあの男、また来るわけ?
はぁ〜。
ガックリとうな垂れる、帆波。
一体、なんなのか…。
勝手に好きな子にしか勃たないとか言って、迫ってきて…。
それを受け入れるあたしも、あたしなんだけど。
でもいまいち、あの男の考えていることがわからない。
っていうか、わかる方が無理なのよ、あのナンパ男の頭の中身なんて。
帆波は勢いよく立ち上がると、今度こそシャワーを浴びにバスルームへと向かったのだった。
◇
ソファーで寝たせいで、どうにも体中が痛い。
まぁ、それだけじゃなかったけどね。
午後も3時を過ぎた頃、帆波は給湯室でコーヒーを入れながら首を捻ったり、肩をグリグリ回したりしていると、出張から戻って来たあの男が現れた。
「帆波ちゃん、ただいま。いやぁ、外は暑くって」
―――何が、暢気に『ただいま』よ…。
無視を決め込んだ帆波は、存在すら気付かないフリをする。
だって、この男に関わるとロクなことにならないような気がするから。
「どうしたの?帆波ちゃん。もしかして、アレになっちゃったとか?」
「そうなの〜残念だなぁ〜」とか、言ってるし…。
―――オイオイ、そういうこと平気で口に出すなっつうの!
「違いますっ。それより、日向さん。ここは会社なんですから、そういう発言は謹んでいただけますか?」
「違うの?よかった」
「よかったって…」
本当に嬉しそうな顔をしているナンパ男、いや今からスケベ男に改名した方がよさそうね。
「あのね、今日は帆波ちゃんが食べたいって言ってたチョコレートを買ってきたんだ」
「え?あの、超高級な?」
「そうだよ」
ずっと食べてみたいチョコレートがあったんだけど、一粒単位で計算すると何百円もする。
でもバラ売りはしていないから、ずっと手が出なかったのよ。
それを買ってきてくれたわけ?
だからって、ここで騙されちゃいけないんだわ。
「あの、もうそういうのやめていただけますか?」
「どうして?」
「どうしてって、いただく理由がないからです」
スケベ男は、顎に指をあてて暫く考え込んでいる。
このポーズって、この人の癖みたい。
だいたい、同じ会社に勤めててお隣さんってだけで、まぁ、過ちは犯してしまったけど、それだけじゃない。
毎回毎回、お土産を買ってこられても困るわよ。
あたしは、恋人になんてなったつもりないんだから。
「理由?理由ならあるよ」
「へ?」
―――なによ、理由って。
「俺たち、恋人同士だから」
「それ、違うからっ」
帆波は咄嗟に叫んでいたが、彼はまったく動じる気配もない。
「もう、帆波ちゃんったら、俺達そういう仲なのにもうっ、恥ずかしがっちゃって。可愛いっ」
―――あぁ〜。
普通の頭の構造じゃないとは思ってたけど、ここまでとは…。
いつから、あなたと私は恋人同士になったのよ!
「俺、これからまた会議なんだ。あっそうそう、昨日ソファーで寝てたから体痛かったでしょ。だから、今夜は俺の部屋においで」
「ハイ、これ」と手に乗せられたのは、あたしのものと同じメーカーの鍵。
なぜか、亀のキーホルダーが付いている。
『こんなもの、いらないっ!』って言おうとした時には、「じゃあね」と彼は行ってしまった。
―――もう…ほんと自分勝手なんだから。
『でも、この亀には罪はないのよね』と呟きながら、目の辺りまで掲げて頭を指で小突いた。
+++
結局、スケベ男の言うなりになってしまうあたし。
健気だわと思いながら、自分の部屋でシチューを作って彼の部屋で待つ。
初めて入った彼の部屋はすっかり片付いていたけど、食器もお鍋も何もないんだもの。
―――それにしても遅いわねぇ。
時刻は午後10時を回ったところ、まぁ明日は休みだからいいんだけどと思っているとドアホンが鳴った。
『やっと帰ってきたわ』
一応、モニターで彼だということを確認してドアを開けると文句のひとつやふたつ言ってやろうと思っていたのに彼のひと言でそれもすっかり消えてしまった。
「帆波ちゃん、会いたかった〜」
ぎゅっと抱きしめられて、『ただいま』じゃなくて、『会いたかった』なんて言われたら、やっぱり言い返せなくなる。
あたしもなぜだかしおらしく、彼女のフリをしたりして…。
「お帰りなさい」
「ただいま。ごめんね、遅くなって」
湊は、帆波の額に軽くキスを落とす。
それが妙に様になっていて、家で待っていてくれるような彼女はいないようなことを言っていたが、本当なの?と疑いたくもなってくる。
「帆波ちゃん、先に食べたんじゃなかったの?」
時間も時間だし、てっきり先に食べているものと思っていた湊は、テーブルの上に並べられた2つ食器を見てちょっと驚いた様子。
「ひとりで食べてもつまらないですから、シチューすぐ温めますね」
振り返ってキッチンへ行こうとした帆波を、湊が背後から抱きしめる。
「ちょっ、日向さんっ」
「湊だよ」
―――そうじゃなくって…。
「ほら、お腹空いてるでしょ?」
「そうだけど、可愛い帆波ちゃんを先にいただきたいな」
「何、い―――っん…ぁっ・・・」
『言うんですか』と続けようとして、あっけなく唇を塞がれた。
それは、決して強引だとかそういうことではなくとても優しいものだから、強く言えないし抵抗もできなくなってしまう。
「可愛いよ、帆波ちゃん」
「…んっ…やぁっ…」
「ベット、行こうか」
帆波の唇を塞いだまま、器用に抱き上げてベットまで運んで行く。
そして、ゆっくりとスプリングに静められて、シャツのボタンを外される。
慣れてるのよねと思いながらも、それに慣らされている自分がいたりして…。
「今日は、ピンクだね?黒もいいけど、明るい色も可愛いなぁ」
「そんなこと、いちいち言わなくても…」
「だって、本当のことだからね」
湊は暫く眺めていたが、やっぱりそのままの帆波が一番いいからと全部脱がせてしまう。
形のいいふたつの膨らみの淡いピンク色の蕾はツンと上を向いていて、余計に彼のハートをそそる。
舌で転がされて、軽く歯で甘噛みされると声が我慢できなくなる。
「…っあ…ぁっ…んっ…」
「いいよ、もっと声聞かせて」
「…はぁあ…っ…ぁっ…ん…」
自分がこんなにえっちだったの?と思うくらい、いやらしい声を出してしまう。
胸を攻められたまま、アソコに指を入れられるとどうにかなってしまいそう。
「…やぁ…っあぁ…っん…」
「入れていい?帆波ちゃんの中に早く入りたい」
黙って頷くと急いで準備をした湊が、ゆっくりと体を沈める。
「…あっ…あぁぁぁ…っ…んっ…」
「うっ…気持ち…い…」
「…ひゅ…が…さん…」
「帆波ちゃん、湊って呼んで」
「…んっ…ぁ…み…な…とっ…」
「ほな…み…イく…」
あたしは、意識を手放した。
◇
「帆波ちゃん…大丈夫?」
「え…」
―――ヤダ…もしかして、あたし寝てた?
「そんなに俺がよかった?」
「やっ、そんなんじゃ…ぅぐ…っ…」
何かが口の中に…甘くて、ほろ苦くて…う〜ん、おいひいかも。
「チョコレート?」
「そう、美味しい?」
「美味しい」
甘いものには目がない。
あぁ…あたしって、なんてゲンキンなのかしら…。
「よかった」
その声も、優しく髪を頬を撫でる大きな手も、とても心地いい。
―――なんだろう?この気持ち。
考えているうちにいつの間にか彼の腕の中で、眠ってしまっていた。
※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。
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