メゾン塚田
Story7


あのスケベ男の考えていることがさっぱりわからない。
彼の言っていることを信じれば、帆波のことを好きなんだろうけど…。
―――あたし自身も、彼のことは嫌いじゃないわよ?
嫌だったら、こんな毎晩のようにシテないし…。
でも、な〜んか腑に落ちないのよねぇ。

「帆波、どうしたの?真剣な顔して、悩み事?」
「あっ真由、う〜ん」
「なに、日向さんのこと」
「えっ、どうしてわかったの?」

「やっぱりね〜」とひとりゴチている真由だったが、どうしてわかっちゃったのかしら?

「女の勘ってやつ?」

「うふふ」と笑っている真由だったが、帆波を見ていればそれはすぐにわかること。
会社に入ってだからそれほど長い付き合いではないが、帆波は思ってることと反対のことを口に出すから湊に対しての態度は、裏を返せば好きということになる。

「でもいいなぁ、カッコよくて将来有望、おまけに隣に住んでるんだからいつでも会えるし」
「その会えるのが問題なんじゃない。あの男、毎日夕飯食べに来るのよ?そりゃ、手ぶらってわけじゃないけどさぁ」
「へぇ。だから、最近お疲れモードなのねぇ」

真由の意味深な言い方に、帆波はなんと答えていいかわからない。
しかし、疲れているのまで見抜かれていたとは…。

「別に疲れてなんかいないけど」
「そんな隠さなくてもいいわよ。まぁそれにしても、日向さんって手が早いわね。それって、越して来てすぐってこと?」
「そこなのよ。突然好きだって言われても、本当なのかなって」

帆波の返事を聞いて暫く考え込んでいた真由が、思い立ったように言う。

「ねぇ、今日も彼、帆波の家に来るかしら?」
「多分…」
「だったら、あたしも行っていい?」
「えっ?」

「泊まりで」って言われても…だいたい、真由がうちに来るってどういうことよ。

「日向さんの反応を見るのよ」
「反応?」
「そう。あたしが行ったらどうなるか、見てみたい」

今まで家に誰かが来たことはなかったから、それはそれでおもしろいかもしれない。
―――あのスケベ男。部屋に真由がいたら、どうなるかしら?

「わかった。あの男には内緒にしておくわね。」

『ちょっとおもしろくなってきたわ』と、ひとりほくそ笑む帆波だった。



定時で帰れる真由と帆波に対して彼はというと、毎日ほとんど外に出ていて、帰って来るのは20時を過ぎた頃。
いつもは仕方なく夕飯を食べずに待っている帆波だったが、今夜は真由とさっさと済ませ、お酒も入ってほろ酔い気分。

―――ピンポーン

「来たっ!」

二人で顔を見合わせると、なぜだかニヤけてしまう。
彼だとわかっていても一応テレビモニターで確認してからドアを開けると、いつもの脳天気な声。

「帆波ちゃん、ただいま」
「お帰りなさい」
「今日は、コレにしてみました〜」

手渡されたのは、ロールケーキで有名なお店のストロベリーロール。
―――うわぁ、これ真由が食べたいって言ってたのだわ。
なんてグッドタイミングなのかしら。

「アレ、誰かお客さん?」

目ざとい彼は、帆波とは別のヒールに気付いたようだ。

「そうなんです。急に友達が来て。でも、日向さんのことは話してますから、気にしないで大丈夫ですよ」
「でも…」
「さぁ、どうぞ」

「どうぞ」と彼の腕を引っ張って、部屋の中に招き入れる。
いつもならこんなことしないんだけどね。

それほど広くない廊下を通って部屋に入ると、ソファーに座っていた真由が立ち上がってニッコリと挨拶する。

「日向さん、お邪魔してます」
「友達って、河西さん…」

さすがに同じ会社の子だとは思わなかったのか、スケベ男も驚いている様子。
あたしは何食わぬ顔で、「お腹空いてるでしょ?」と彼の食事を用意し始める。
今夜は、真由の希望で得意のパスタもの。
スープパスタの初挑戦だったが、なかなか上手くできたと思う。

「まさか、日向さんと帆波が付き合っているなんて〜」

わざといつもよりワントーン高い声で話す真由が、役者だなぁと思う。

「黙ってるつもりはないんだけどね」

―――どーだか。
本当は、誰にも言いたくなかったんじゃないの?

「本当ですか?ほら、社内恋愛って周りに知られると面倒じゃないですか。後で色々と」

真由が言いたいのは、別れた時のことと湊を想っていた子達から帆波へのやっかみ等の心配だった。
社内恋愛だと、色々噂になったりもするから。

「でも俺、結構あからさまに表してると思うんだけど。名前もそうだけど、帆波ちゃん以外の子とは、極力目を合わせないようにしてるし、誘いも丁寧に断ってるよ」

―――え?そうかしら?
名前はそうかもしれないけど、他のことは全然気が付かなかったわ。

「そうだったんですか?なんか微妙に視線を外してるなぁって、思ってたんですよ」

湊は誰とでも気さくに話をするが、合コンに誘われてもうまく誤魔化しているし、確かに目を合わせないなと真由も思っていたところだった。
それは、帆波という存在があるからこその行動だったとは…。
軽い男かと思っていたら、どうもそういうところはきちんとしているよう。
『な〜んだ。日向さんって、帆波のことちゃんと想ってるんじゃない』

「河西さんは鋭いね、帆波ちゃんに言ってあげてよ。なんだか俺、信用されてないみたいでさ」
「あなたを見て、信用する方が無理なんですぅ」

キッチンから聞こえてきた帆波の声に湊も真由も一斉に視線を向ける。
―――真由、騙されちゃダメよ。
こんな、スケベ男になんて。

「はいはい、なんかここに来た意味がなくなっちゃったみいたい。帰ろうかな」
「ちょっと〜真由。今日は泊まって行くんでしょ」
「え?河西さん、泊まりなの?」

真由が泊まって行くことまで想定していなかった湊は、つい本音が出てしまう。

「日向さんが、あたしがいると迷惑だって言ってるし」
「おっ、俺はそんなこと…」
「言わなくても、わかりますよ」
「だったら、日向さんのお土産だけ食べていってよ。真由の好きなストロベリーロールよ」
「ほんと?食べる食べる」

まったくゲンキンな子だわと帆波は思ったが、彼女は彼女なりに自分のことを心配してくれている。
それがとてもありがたい。
だけど、あの男の反応はなんなの?
まさか…今日もとか言わないでしょうねぇ。
帆波はギロっと湊を睨みつけると、なぜか視線を泳がす彼。
―――真由〜やっぱり泊まっていって〜。
という声も虚しく、ロールケーキを食べて満足した彼女は、自分の家へと帰って行った。

「帆波ちゃん、こういうことはちゃんと言ってくれないと」
「言ってくれないとって、何をですか?」

何を言わないというのだろうか?真由をここへ連れて来ること?

「うん?俺のこと、遊びだとか思ってたんでしょ?だから、それを確かめるために河西さんを連れて来た」

洗い物をしている帆波の背後に立って、一緒に洗い物を手伝う湊。
彼は意外にマメで、こうやって食べた後の食器は一緒に洗って片付けてくれたりする。

「そんなこと…」
「ないって、言い切れる?」
「それは…」

『はい、言い切れません』

「言ったでしょ、俺が欲情するのは帆波ちゃんだけだって」
「いやぁっ…んっ…」

耳元で囁くように言われて、甘噛みされると嫌でもこんな声が出てしまう。
うまく騙されているような気がするけれど、少しだけスケベ男の本当の気持ちがわかったような気がして、やっぱりこの夜も彼を受け入れてしまった。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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