IMITATION LOVE
STORY12


―――総司…今頃、どうしているのかな。

決して忘れていたわけではないが、どこか自分自身の中で封印していたところがあったのかもしれない。
彼が莉麻の前からいなくなって、もう5年。
あの時は何も手につかない、生きている意味さえもわからなくなっていたというのに…時というのは、いつしかそんな辛ささえ思い出に変えてしまうのだろうか。

―――私ったら、何を考えているの?
今は、命のことだけを想っていればいいはずなのに、なぜか今になって総司のことを考えてしまうなんて…。
ブルブルと首を左右に振ると、もう何缶目かわからない飲みかけの缶ビールを一気に飲み干した。



ピロピロ―――
  ピロピロ―――


―――っん?
いつの間にかそのまま眠ってしまったのか、莉麻は携帯の着信音で目を覚ました。

「もしもし…」
『莉麻?俺だけど』
「総司…」

かなりのお酒を飲んでいたせいか、莉麻は命を総司と勘違いしているようだった。
一瞬、電話の向こうでどう答えていいかわからない命だったが、そのまま話を続ける。

『オイ、また酒を飲んでいるのか?』
「またって、何?そんな、酒乱みたいな言い方しないでくれる〜」
『莉麻は、限度ってものを知らないからだろ。どれだけ、飲んだんだ?』
「どれだけって〜缶ビールが、1,2,3…」
『あ〜わかったよ。今から、そっちに行ってもいいか?』
「今から?別に構わないけど…」
『じゃあ、すぐ行くから。それ以上飲むなよ、わかったな』
「はいはい」

電話を切ると莉麻は、その場に再び横たわる。
―――総司…。
やっぱり、私に逢いに来てくれたのね。
携帯を胸元で握り締めながら、段々と意識が遠のいて行った。



「莉麻、オイっ起きろ。こんなところで寝てたら、風邪ひくぞ」

電話をしてから、30分ほど時間が経った頃だろうか?
命は渡されていた合鍵で部屋の中に入り、莉麻の体を揺するが相当酔っているのか、なかなか目を覚まさない。

「莉麻、起きろっ」
「…ん…総司?」
「あ?あぁ。ったく、こんなに飲んで。あれほど、飲むなって言ってるのに」
「いいじゃない、明日は休みなんだし〜。だいたいねぇ、ここは私の家なんだから。誰にも迷惑掛けてないでしょ」
「そうだけど…っていうか、迷惑はかけてないが、俺に心配は掛けてるぞ」

命は、莉麻の腰に腕を回して抱き上げる。
酔っている彼女を襲うつもりはないが、このままでは本当に風邪をひいてしまうから、きちんとベットに寝かせるために。

「ごめんね、総司」
「謝るくらいなら、飲むな」
「だって、つまんなかったんだもん。総司が、逢いに来てくれないから」

完全に、命を総司と間違えている莉麻。
酔っ払う度にこれではどうなんだろう…。
一度、きちんと聞いておく方がいいのだとは思うが、もし莉麻が傷つくようなことだったら…。

「わかったから、ベットに入ってもう寝ろ」
「嫌」
「嫌って…。じゃあ、どうするんだよ」
「抱いて」
「あぁ?」

どうして、そうなるんだ…。
そりゃ、男だし、愛してる子に言われれば嬉しいに決まっているが、今の彼女は自分でない他の男のことを想っている。
この前、抱いた時はちゃんと田村 命という男を想っていたことに間違いはないのだけれど…。

「…っ…ちょっ…やめろ…莉麻…」

そんな命を他所に莉麻は、自ら唇を寄せる。
少々、いや、かなり酒臭かったが、それよりも柔らかさというか気持ちいい感触の方が上回る。

「総司…」
「ごめん、莉麻…。今夜は、よそう」
「何で?総司はっ…そうやってまた、私の前から消えちゃうのっ」
「莉麻、落ち着けっ」

泣き叫びながら、首を左右に振って命にしがみ付いてくるのをなんとか落ち着かせようとするが、相当興奮しているようで、なかなか言うことを聞いてくれない。

「嫌っ、行かないでっ。私の前からいなくならないでっ、総司っ」
「莉麻っ、俺はソウジじゃない。良く見ろ!」
「…総…司っ…」
「莉麻っ、俺は誰だっ」
「…いやーっ…――――」

そのまま、莉麻は意識を手放した。


眠っている莉麻をじっと見つめる命。
今の彼女はとても穏やかな表情で、さっきまであんなに興奮していたのが嘘のようだった。


「…ん…命?」

命がウトウトとしかけた頃、莉麻が目を覚ました。

「気分はどうだ?」
「うん、ちょっと頭が痛いかも」
「そりゃ、そうだ。あれだけ飲めば」

電話で確認した時には、ビールの缶を3本というのまでは聞いていたが、それが実際ここへ来てみると5本は空になっていた。
命でさえも一人でそこまで飲むことはよほどなのに、莉麻は普通に飲んでしまうから恐ろしい。

「でも、どうして命がここにいるの?」

全く覚えていない莉麻は、どうして命がここにいるのかわからない。

「電話をしたら、随分飲んでいるようだったんで、心配になって来たんだ」
「そうなの?ごめんね。全然覚えてなくて」

莉麻は上半身だけ体を起こすと、命はベットの端に腰掛けて肩に腕を回して抱き寄せる。

「あのさ、こんなこと聞いていいのかわからないんだけど」
「何?」
「ソウジって、誰なんだ?」
「えっ」

彼に総司のことは、話していないはず…。
なのに知っているのは…。

「莉麻は覚えていないだろうけど、俺のことソウジってやつと間違えてたみたいだから」
「そんな…こと…」

―――私が、命と総司を…。
自分ではそういう意識はないが、彼がそう言うなら間違いないのだろう。
総司のことは、もう終わったはずなのに…。

「話してもらえないか?ソウジって、男のこと」

一瞬躊躇った莉麻だったが、命と付き合っていく上で総司のことは話しておいた方がいいかもしれない―――。
小さく息を吐くと、彼と出会った頃のことを少しずつ話し始めた。





ちょうど同じ頃、総司が東京に向う飛行機に乗っていたとは…。
知る由もない。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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