IMITATION LOVE
STORY17


莉麻は東洋映画社のスタッフと映画を撮るためのスケジュールを打ち合わせて、会議室から戻るところだった。
てっきりパニックものやサスペンス・アクションものだとばかり思っていたが、話を聞く限りでは全く違う。
機内で繰り広げられる様々な人間模様を描いた作品で、どちらかと言うとコメディ映画。
―――林 耀二監督が撮るからこそ、面白いのかも

「莉麻、スタッフとの打ち合わせは、どうだったの?」
「あぁ、綾子。うん、なんかすっごく面白そう」
「で、配役は?」

綾子が気になっていたのは、どんな俳優、女優が起用されるのか。
監督が手掛けた今までの作品の主演はほとんどが新人だったが、みんなその後話題になるような人物ばかり。
予想通り、今回もそうなる予定で、莉麻が名前を聞いてもわからない若手と脇を固めるベテランの個性派揃い。

「どうなのかしら?今回も新人を起用するみたいだから、私も名前を聞いてもわからなかったのよ。あとは、ベテランの個性派俳優とか女優さんとかかな」
「じゃあ、将来有名になっちゃう子とかも、いるかもしれないのね?いいなぁ、莉麻」

いいなぁと言われても、莉麻が撮影に立ち会うかどうかは今のところ未定。
キャンペーン等で、もしかしたら会えるかもしれない。
―――そうなったら、私としても嬉しいんだけど。

「まぁ、どうなるか。一回くらいは、見てみたいけど」
「撮影は、どこでするの?実際に飛行機に乗るんでしょ?」
「全部撮影は機内だけで、空港に駐機してる機材を使うんですって」
「ふううん、そうなの」

空港内に出演者とスタッフの控え室などの確保と、撮影が長引いた場合などに近くのホテルも押さえておかなければいけない。
これからが大変だと、身が引き締まる思いの莉麻だった。

+++

―――あっ、命からのメールだ。
莉麻は仕事を終えて会社ビルを出ようとした時、バックに入れてあった携帯から、命からのメールの着信を告げるメロディが聞こえる。
急いで携帯を取り出して見ると、すぐそこまで来ているという。
―――もう少し帰るのが早かったら、すれ違いになるところだったわ。
良かったと思いながらロビーを抜けると毎度のことだが、女性の目を引く男性が立っていた。
本当は命のように素敵な彼がいることを自慢したい莉麻だったが、目の前にするとやっぱり恥ずかしくなってしまう。

「お疲れ様。連絡するのが遅かったから、もう帰ったと思った」
「最近ちょっと忙しかったから。命も、今日はオフィスだったの?」
「あぁ、話が長引いて」

「取り敢えず、乗って」と、命が車のドアを開ける。
目立つ二人がいつまでも会社の前にいるわけにはいかず、車に乗り込むと静かに走り出す。

「忙しかったって、仕事大変なのか?」
「うん。今度、東洋映画社っていうところで飛行機を舞台にした映画を撮ることになって、うちの会社が協力することになったの。私、広報部に所属してるから、スケジュール調整役を頼まれちゃって」
「映画?そう言えば、莉麻は大学時代に映画サークルに入ってたって言ってたな」
「うちの課長はそのことを知らないから、関係ないんだけど。偶然ね」
「そっか。でも、心配だな」
「心配って?」

命の言っている意味が、イマイチわからない莉麻。
――― 一体、何が心配なのかしら?

「いや、莉麻のことを狙う奴等もいるんじゃないかってこと」
「えぇ?何、言ってるのよ。そんなこと、あるわけないでしょ」

―――命ったら、何を言い出すのかと思ったら、私を狙う人がいるなんて。
そんな人、いるわけないじゃないねぇ。

「わからないだろう?莉麻は、自分のことを全然わかってないからな」
「どういう意味よ」

―――わかってないって、私は自分のことなら嫌っていう程わかってるけど。

「一緒に外を歩いていると、ほとんどの男は見てるんだよな、莉麻のこと」
「そんなこと」

―――そんなことないわよ。
命の方が、女の人達の視線を浴びてるっていうのに…。

「いや、見てる。だから、今夜は家に行こう」
「家って、命の?食事は?」
「作ってもいいけど、面倒なら適当に買って帰ればいいじゃん」
「え〜命の誘いだから、美味しいものを食べられるって思ったのに〜」

ここのところ忙しかった莉麻は自分で食事を作るのが面倒で、閉店ギリギリでデパ地下に滑り込んだり、仕方なくコンビニにお世話になることが多かった。
だから、さっき命からのメールが来た時、美味しいものが食べられるとちょっと期待していたのだ。
それに電話では毎日話していたけれど、こうやって会うのは久し振りだったし。
なのに…。

「あ?なんだ。そんなに食べ物に飢えてたのか」
「違うけど、命って美味しいお店いっぱい知ってるし。久し振りに二人で食事できるかなって、思ったから」
「わかった。そういうことなら、ホテルにでも行くか」
「ホテル!?」

―――なんで、ホテルになるわけ?
飛躍し過ぎなんじゃないの?

「二人っきりになれるし、美味いものにもありつける。一石二鳥じゃないか」
「そうだけど…」

なんか、うまく丸め込まれているような気もしないでもないが…。
今の莉麻にとってみれば、美味しいものが食べられて、命と二人っきりになれるこの提案はあながち悪いものでもないかもしれない。
暫しのドライブを楽しんだ後、目的地のホテルへと向かった。



『え…ここなの?』

「何やってんだ。お腹空いてるんだから、早くしろって」
「うっ、うん」

ホテルと言うからてっきり誰もが知っている有名どころだと思っていたが、ここは見たことも聞いたこともないところ。
―――っていうか、ここ本当にホテルなの?
かなり、怪しいんだけど…。
一見、普通のビルにしか見えないが、まさか…そういうホテルに連れ込もうっていうんじゃぁないでしょうねぇ…。

中に入るとシンプルだけどセンスのいいソファーが並んでいるロビーがあって、フロントには制服を着た男性と女性がいるところを見ると確かにホテルなのだと実感させられる。
命はさっき、電話で予約を入れていたので、すぐに部屋に案内された。
エレベーターに乗っている間、前面ガラス張りになっているので都心の夜景を見ながらふと莉麻は思う。
―――命は、どこでこういう場所を探すのかしら?
ほとんど自宅で仕事をしているのに、ここにはどんな人と来ていたのか…。

室内は白と黒いう、モノトーンのインテリアで統一されたなんともモダンな空間だった。

「ねぇ。命は、どうやってこういうところを見つけるの?」
「友達に連れて来てもらったり、仕事関連もあるかな」
「友達って、女の人?」
「なんだ、気になるのか?」

気にならないと言えば嘘になる。
莉麻は総司のことを話したが、彼からは付き合った彼女の話を一度も聞いたことがない。
お金も持っていて、素敵な彼のこと、きっとモテたに違いない。

「馬鹿だな。そんなこと、気にすることないのに」

窓から見える夜景を見つめる莉麻を、命は背後からそっと抱きしめた。

「だって。命はそういうこと、全然話してくれないんだもの」
「俺は、莉麻が思っているような女関係が派手な男じゃないんだ。でなきゃ、見合いなんて受けない。だからといって誰でもいいってわけじゃないけど、莉麻だからこうして付き合ってるんだ」

命に言い寄って来る女性は、みんなどこかに下心があった。
かといって自分から好きになった女性に声を掛けると、この容姿のせいか逃げられてしまうのは、なぜなのか?
結婚願望だってもちろんある、だからこそ見合いの話を引き受けたのだ。
そこに下心も何にもない、正に命好みの女性が来たとなれば、本気で好きになるのは当然のこと。

「信じていいの?」
「もちろん。俺は、今すぐにでも莉麻を自分のモノにしたいと思ってる」
「もう、してるんじゃないの?」

してると言えばしてるのかもしれないが、命の言いたいのはきちんとした形の問題だった。

「俺が言いたいのは、籍を入れるってこと。それがダメなら、一緒に住まないか?」
「え…住む?一緒に?」

突然の命の提案に困惑の色を隠せない莉麻だったが、彼がそこまで考えていてくれることを嬉しく思わないはずがない。

「ダメか?」
「ううん。ダメなんかじゃない」

自然にくちづけを交わす二人だったが、いいところで頼んであった食事が運ばれて来てしまい、お預けになってしまったのでした。


※ このお話はフィクションです。実在の人物・団体とは、一切関係ありません。作品内容への批判・苦情・意見等は、ご遠慮下さい。


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