「しょうこ、宿題見せて」
「嫌!」
昨日まではあんなに可愛らしく振舞ってくれたのに、また今までに逆戻り。
またまた、ご機嫌斜めのしょうこはプイッと顔を背けると、机に突っ伏してしまう。
こんなごろうを見ても二人が別れたと思った人は少なく、むしろ喧嘩でもしたのだろうくらいの反応だった。
別れるも何も付き合っていないのだから、関係は変わっていないのだけれど…。
「何で?いいじゃん。昨日までは、見せてくれたのに」
「昨日は昨日なの。言ったでしょ?もう、お仕舞いだって」
「俺は…」
それ以上言えなくて、ごろうはトボトボと自分の席に戻って行った。
その後ろ姿を薄目を開けて見つめながらも、しょうこだって胸が痛む。
本当は何でもいいから頼ってくれるのは凄く嬉しいけど、本命の彼女がいるのに何でって思いの方が強いから。
―――大体、本命の彼女って誰なのよ?
カモフラージュ女をしてても、彼女の影なんて全然感じなかった。
だって、朝も帰りもずっと一緒にいたもん。
たまに携帯にメールが入ったって言ってた時も、わざわざ相手は友達だからって、あたしに見せてくれた。
もちろん、それは全部男子だったし。
え?あたしは、本命の彼女とはてっきり上手くいってるものだとばかり思ってたけど、そんなことひと言だって言ってなかったじゃない。
うそ…。
えぇぇぇ?!
もしかして、そんな子いなかったの?
いなかったのに、あたしとあんなふうにしてたなんて…。
ってことは、ごろうは…。
ううん、そんなことあるはずない。
こんな平凡な女なんかを、学校一いい男のごろうが相手にするはずないんだから。
ふと、『可愛くなったな』と言ったごろうの言葉が頭を過ったが、しょうこはブルブルと頭を左右に振ると体を起こして大きく息を吐いた。
◇
「しょうこったら、ダメじゃない。彼にあんな態度を取っちゃ。かわいそうに寂しそうな顔してたわよ?」
「そんなこと言っても…」
確かに寂しそうにしていたかもしれないけど、それはしょうこのせいかどうかはわからない。
いつものように言っただけだし、それでそんなことを言われても…。
「あんなにしょうこのこと、大好きっ!ってオーラを体中で表してたのに」
「えぇ、それこそ大げさじゃないの?あいつはいつだって、あんなよ」
「違うって。しょうこだからでしょ?なんか羨ましいっていうかさぁ、もう妬けちゃう」
――― 一人で言ってなさいって。
だけど、そうなの?
全然、そんなふうには感じなかったんだけど、周りはそう見ていたの?
ごろうは…。
「ちゃんと、仲直りするのよ?いい?」
「仲直りってほどでも…」
「いいから、しょうこから謝るの!わかった?」と怒られて、「ハイ」って答えるしかなかった。
でも、今更ごろうに面と向かってなんて言いにくいなぁ。
とは思っても、仕方ない。
あいつが寂しそうにしていたのと、あたしの態度が関係しているのだとしたら。
◇
「ねぇ、一緒に帰ってもいい?」
「えっ」
もう、一緒に帰ることもなかったが、話す機会はこれしかないし…。
ちょっと驚いた表情のごろうだったけど、すぐに優しい笑顔に変わる。
やっぱり、好きなんだなって実感させられて、胸がキュンってなった。
「ごめんね」
「ん?何で、しょうこが謝るんだよ」
「宿題、見せてあげなくて」
下を向きながらボソッと言うしょうこが可愛いなと思うのは、ごろうだけじゃないと思う。
今の彼女は本当に可愛いし、それが自分の前だけで見せる可愛さであって欲しいと願いたい。
「俺も、ちゃんと言わなくてごめん」
「え?」
しょうこが立ち止まって顔を上げると、ごろうは真剣な表情でこっちを見ていた。
「俺の本命は…しょうこだから。好きなんだ」
言ってしまえば楽になれるのに…。
でも、これで何もかもが終わってしまうかもしれないけど…。
「うそ…えぇぇっ。ごろうが、あたしを?」
「気付かなかったのかよ。俺が何でわざわざ、しょうこにいっつも宿題を見せてもらってたと思ってんだ」
「何でかなとは思ったけど…。でもさ、何であたし?ごろうは学校一のいい男なのによ?無理にフツーのあたしを選ばなくってもいいじゃない」
―――好きって言われて、すごく嬉しいけど…。
あたしを選ばなくてもいいんじゃない?
もっと可愛い子は、いっぱいいるんだから。
「しょうこと一緒にいると楽しいし、それにしょうこは可愛いから」
「楽しいのは何となくわからないでもないけど、可愛いっていうのはね。ちょっと無理があるんじゃないの?」
「そんなことないって。今のしょうこは、可愛いよ。他の男子も狙ってんだ。これも気付いていないと思うけどさ」
可愛いっていわれても、ピンとこない。
ましてや、他の男子が狙っているなんてこと、誰が信じるだろうか?
「ごろうの考え過ぎだと思うけど」
「なぁ、しょうこは?俺のこと、どう思ってんだよ」
「えっと、あたしは…」
―――言ってもいいのかな。
あたしなんかが、好きなんて…。
「好き…ごろうのことが」
お互い好きなのに、この言葉がなかなか言い出せなかった。
「あっ、ちょっ…何?」
「晴れて恋人同士になったわけだし、こういうことも平気でしてもいいんだろ?俺達さ」
「だからってねぇ…」
いきなり、手に指を絡めるようにして握ってきたのはどうなの?
あたしにだって、心の準備ってものがあるのにぃ。
あっ…。
『彼って、すごそうよね』
こんな時に思い出すことじゃないんだけど、そうなのかなぁ…。
なぁんてね。
「今日さ、俺ん家誰もいないんだ」
「はい?!」
まさか…。
「愛を確かめ合わないとな」
ごろうって、こんな人だったの?
もっと真面目な人だと思ってたのは、あたしだけ…。
あぁ…。
半ば拉致されるように彼の家に連れて行かれたあたし。
この後、どうなっちゃうの???
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