好き…が遠くて
おまけ
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R-18

「おはよ。お二人さん、仲直りしたのね」

「しょうこも一段と可愛さを増してぇ。ごろう君も気を付けるのよ?恋する女はきれいさ〜けしてお世辞じゃないぜ〜」と友達はわざとごろうとしょうこの間を割るようにして一体いつの時代の歌?を口ずさみながら、ニヤニヤと先に教室の中へ入って行った。

―――だ・か・らぁ。
仲直りも何もって思ったけど、こうしてごろうと恋人同士になれたんだから、細かいところは、まぁいっか。
前から学校へは一緒に来ていたけど、それはしょうこが勝手に思い込んでいたカモフラージュ女だったからで、今は違う。
電車の中でもずっと手を繋いでいたし、彼の視線がしょうこを捕らえて離さなかった。
こんなふうに想ってもらえるのはすごく嬉しいけど、あたしはごろうにその想いのどれだけを返してあげられるだろうか…。

「あっ、しょうこ。宿題見せて?」
「えっ、またやってこなかったの?」

教室に入るなり、ごろうのひと言で現実に引き戻されたしょうこ。
悩み多き、恋する乙女の気持ちを彼はわかっているのか、いないのか…。

「うん。だって、しょうこに見せてもらいたいから」

そんな可愛く言われると、しょうこだって『嫌』とは言えない、言えないけど…ちょっとは人を頼らず自分でやろうって気はないわけ?

「見せてあげるのはいいけど、宿題は自分でやらないと意味ないでしょ?」
「そうなんだよな」

―――『だよなって…』だったら、やってよ。

「じゃあ、今度から一緒にやろう?家でもいいし」
「しょうこの家で?お母さんとか、妹とか、いるんじゃないのか?」

一緒にやるのは構わないっていうか、二人っきりになれるなら尚のこと。
でも、しょうこのお母さんは専業主婦だって言ってたし、中学生の妹だっているはず。
女ばかりの中に男のごろうが一人で入って行くのは、どうにも気が引けるから…。

「妹は毎日部活で、バスケ部なんだけど中学生のくせに帰りが遅いのよ。私立に行ってるっていうのもあるから、通学に時間も掛かってるし。お母さんは最近サルサに嵌っちゃって、発表会があるとかで連日練習なんだって」

妹はしょうこが高校入学と同時に私立の中学へ入学した。
勉強そっちのけでスポーツにばかり熱を入れている妹を心配した両親が、大学まで行ける学校に入れたから。
一方、母はというと最近サルサダンスに嵌り、本来は週一回のレッスンなのに今は発表会前だからと毎日のように出掛けている。
実際は練習よりも、その後のおしゃべりに花が咲いているようだけど…。

「そうなんだ」
「うん。ごろうのうちと同じでお父さんはもっと遅いし、あたし一人でみんなの帰りを待ってることの方が多いかな」
「じゃあ、今日から行ってもいい?」
「いいけど。宿題、出たらね」

…あぁ、でも俺、耐えられるのか?
しょうこは、男と二人っきりになるってことの意味をわかって言っているのだろうか?
いや、わかってないんだろうなぁ。
昨日だってなんとか抑えたけど、今度は無理っぽいぞ?
もっとゆっくり進んで行こうと思う、だけど、しょうこが昨日より今日ってどんどん可愛くなっていくんだ。
俺にとっては、初めて見た時からしょうこのことは可愛いって思ったよ。
それは顔とかそういう外見的なものじゃなくて、しぐさとか話し方とか、とにかく一緒にいないとわからない部分。
電車の中でスカートの裾をドアに挟まれてアタフタしてるところなんて、スッゲェ可愛かったんだ。
あれがきっかけで声を掛けたけど、わざとなのか照れてるのか、つっけんどんに返すところもツボだった。
でもさ、最近はなんだろう、さっきの歌じゃないけど恋しているからなのか?刻々と変化していく彼女に目が離せない。
狙ってる男どもも急増中だし、俺は心配なんだからな。



「何で、今日に限って宿題出ないんだよ」

二人で宿題ができると楽しみにしていたごろうに、先生はわざと意地悪をしているのではないかと疑いたくもなってくる。
あんなに毎日毎日出ていた宿題が、どうして今日に限ってないんだ。

「いいじゃない。宿題なんてない方が」

学校帰り、人目をはばからずに二人は電車のドアに寄り掛かって見詰め合っていたが、ごろうはどうにも納得できない様子。
―――実を言うとあたしは、ホッとしてるの。
だって、昨日みたいなことになったら、どうしていいかわからないもん。

「あ?しょうこって、案外クールだよな。俺だけなのかよ、しょうこのことを想ってるのは」

宿題が出なかったことイコール、ごろうと一緒にいたくないという意味に取られてしまったのだろう。
そんなつもりで言ったわけじゃないが、結果的にそう取られても仕方がない。

「ごめんね。あたし…」
「俺もごめん。先走ってるのは、俺の方なんだな」

「ううん」って、顔を左右に振るしょうこをごろうはそっと抱きしめる。
一番大切なものは、しょうこなのに…。

宿題が、ちょっとおあずけになったくらい。
『なんでもないさ』と強がってみせる、ごろうだった。


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