Mini Mini STORY
ドラマみたいな恋がしたい
5
「あっ、ありがとう。すっごく綺麗、いい匂い」
桜は受け取った花束を顔の近くまで持ってくると、甘い香りがいっぱいに広がった。
今まで一度だって花束なんてもらったことなんてないし、それは信哉に限らず付き合った彼みんなだから初めてのことで逆に戸惑ってしまう。
「でも、どうしたの?これ」
「ごめんな。この前、あんな言い方して」
「この前?」
一瞬、この前と言われても桜は思い浮かばなかったが、信哉と一緒にドラマの前話を見ていてのことだと気付く。
―――あたしがあんなふうに出て来ちゃったから、信哉、気にしてたのね。
わざわざ、花束を持って来てくれたなんで…なんだか、悪いことしちゃったな。
別に怒ったわけではなかったけれど、自分のとった態度は大人気なかったと反省してる。
「ううん。あたしこそ、ごめんね。あんなふうに帰って来ちゃって」
「そんなことないさ」と首を振る彼に「立ち話もなんだから、中に入って」と言うと、今度はすんなり家の中に入ってくれた。
今更だけど、見れば彼はまだスーツ姿のまま。
もしかして、この時間まで仕事をしていたのだろうか?だとすれば、食事だってまだかもしれない。
こんな時間に開いているフラワーショップも限られているはずだし、考えれば考えるほど桜は申し訳ない気持ちでっぱいになる。
「ねえ、食事は?」
「あぁ、まだ」
「だったら、おなか空いてるでしょ?残りものしかないけど、何か作るね」
「その前に」
「あっ」と小さく声を上げた桜の背後から、信哉が包み込むように抱きしめる。
酔ってということはあっても、そうじゃない彼がこんなふうに抱きしめてくることはまずない。
――― 一体、どうしちゃったの?
「ちょっ、信哉?」
信哉は桜の肩に顔を埋めて、「うん」とだけ。
不器用な彼は韓国ドラマをビデオで見て勉強したものの、実践では思うように表現できない。
ここで一発、決め台詞の甘い言葉で囁ければ、どんなにいいだろう…。
「会社で何かあった?」
今の信哉の行動に何かあったと受け取ってしまった桜。
バリバリ仕事をこなし、絶対弱音を見せない信哉がこんなこと…か余程のことが、あったのかもしれない。
「ううん、何も」
「え?」
――― 何もって…。
信哉、ほんとにほんとにどうしちゃったの?!
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