始まりはHoly Night
STORY11

R-18

野坂は専務室を出ると隣にある別室の自分の席で、そっと携帯の画面を見つめる。

『ごめんなさい健二さん、こんな時間にメールを送ってしまって。でも、夜まで待てなかったから』

これはもちろん愛しい彼女からのものだが、こんなメールをもらって嬉しくない男などどこにいるだろう?
クールを装っている野坂でさえも、鼻の下が伸びまくってしまう。
こんなところを専務に見られようものなら、何を言われるか…。

あの日、専務から食事に同席するように言われたが、それが実は見合いだったことを知りハメられたと思った。
しかし、相手は前日に驚かせて気絶させてしまった欄だったから、始めは驚きつつも、形はどうあれ彼女ともう一度再会できたことに何かを感じずにはいられなかったが、自分の今までの恋愛過程を省みれば慎重にならざる負えなかったのは確か。
それを二人きりになった時に彼女が言った『もう一軒付き合って下さいとは、言ってくれないんですね』のひと言で、野坂の奥底にあったものが崩れたのだ。
彼女には本心でぶつからなければならないと思ったし、それで嫌われても仕方がない。
結果的にはそれが功を奏したわけだが、知らなかった自分にも気付かされ…。

「俺の家に来るか?」

彼女にそう言うと一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐ後にしっかりと手を握り返し、小さく頷く。
お互いのことも全く知らない、こんなふうに家に誘うのは早過ぎるかもしれない。
でも、彼女の前では躊躇ってはいけないような気がしたから。

「野坂さんは、すごいマンションに住んでいるんですね」
「ここ、気が付かなかった?うちの会社が建てた、分譲マンションだって」
「えっ、そうなんですか?」

専務秘書の野坂でも、都心に一戸建てを建てるには少々無理がある。
そこで勧められたのが、このマンション。
もちろん、勧めたのは誰か、言わなくてもご存知だと思うけれど。

「そう、専務に勧められてね。持ち家くらいないと、一人前の男じゃないとかなんとか。だけど、眺めの一番いい部屋を俺のために押さえてくれたんだ。恐らく、ここは抽選になってただろうし」

なんとなく、欄にも二人のやり取りが頭に浮かぶ。
さっき、4人で食事をした時に信頼関係というか、それ以上のものを感じていたから。
それにしても、ゴージャスという言葉がぴったり当てはまるような部屋。

「素敵なお部屋ですね。私の家の8畳一間にキッチンとは、大違いです」

あっちこっちを眺め回す欄。
…野坂さんはこのお部屋で間接照明だけにして、夜景を見ながらお酒を楽しんだりするのかしら?
想像しただけでも、大人な彼に益々魅力を感じる欄。

「何か飲む?ワインでも、カクテルでも、お好みのものを用意するけど」
「いいえ、私は」
「それより、こっちの方がいい?」

「えっ」と声を上げた欄を抱き寄せると、野坂は彼女の唇を奪う。
それはほんの一瞬触れるようなものだったが、唇は離れても彼の顔はすぐ目の前にある。

「言っとくけど、俺は誰にでもこんなことはしない」

欄だから特別だと言っているのだということを、彼女はわかってくれるだろうか?

「野坂さん」
「嫌だったら逃げていい。でも、俺を受け入れてくれるなら、君からキスして」

射抜くような目で真っ直ぐ見つめられて、欄にはそれだけでも全身に電気が走ったような衝撃が…。
…嫌なんて…ただ、彼を受け入れたら自分がどうなってしまうのか、恥ずかしい部分を出してしまいそうで…怖い。
でも…。

小さく息を吐くと、欄はそっと野坂の唇に自分の唇を重ねた。

「…ぁっ…野坂…さ…」

欄の言葉を遮るように野坂の優しくて、それでいて激しいくちづけ。
腰を支えられていなければ立っていられないくらい、心も体も溶けてしまいそう…。

きっと、こんな恋がしたかったんだ―――。

これは欄が思ったのと同時に野坂自身も、思ったこと。
本当は、想いをぶつけた燃えるような恋がしたかった…。

唇を塞いだままで、野坂は欄の着ていたブラウスのボタンを外し、スーツのジャケットと一緒に肩から落とす。
真っ白に透けるような白い肌が露になり、素肌に触れるとまるで絹のように繊細で滑らかだった。

「綺麗だよ」
「あんまり、見ないで下さい」

俯いたままの欄の顔を野坂が覗き込むようにして見ると、薄っすらと頬を薔薇色に染めていた。
彼女はまだ若いということもあるが、目が覚めるように美しい。
そして、抜群のスタイル。

「どうして?ちゃんと見せてくれないと」
「野坂さん、意地悪です」
「俺ってこんな人なんだけど、止めるなら今だよ?ほら」

…野坂さん、意地悪。

「やっぱり、意地悪」
「欄が可愛いから、いじめたくもなるんだ」

可愛いなんて言われて欄はより一層頬を染めたが、彼は今、自分の名前を呼んでくれた…。

「野坂さん」
「堅苦しいのは抜き、健二でいいよ」
「健二さん?」

さん…なんて、呼ばれる感覚は初めてで、これが妙に快感というか、ものすごく心地いい。
気を良くした野坂は、欄を軽々抱き上げると寝室へ。
お互い、下着姿になってベットに深く沈みこむ。
さっきは野坂が欄に見惚れていたが、今度は反対で欄が見惚れてしまう。
彼の体はほどよく引き締まっていて、これから抱かれるのだと思ったら…。

「…あっ…っ…」

胸元を彼の唇が這い、至るところに証が残される。

「可愛いよ、欄。声、我慢しないで」
「…でもっ…ぁ…っん…」

自分でも思っていなかった声が口から漏れ、抑えようと思っても、それを欲望が阻止する。
全身を愛撫され、どうにかなってしまいそう…。

「欄、入れてもいい?」との問いに「はい」と小さく頷くと、準備を施した彼自身がゆっくりと中に入って来る。
お互い一つになると彼はぎゅっとだきしめてくれて、その後に優しいキスが振ってくる。

「…健二…さ…ん…」
「欄、俺の全てを受け取って」
「…あぁぁ…っ…っん…健…二…さ…ん…っ…」

欄がイったすぐ後に野坂も自身と解き放って、そのままぐったりと倒れ込んだ。



「野坂さん、野坂さん」

欄…ん?この声は、欄…じゃない…。

「野坂さん」
「あっ、何?」
「どうしたんですか?ボーっとして。何度も電話したんですよ?専務にお客様がいらしてますが」
「あぁ、わかった。すぐ行くよ」

野坂は携帯を閉じると、急いで部屋を出た。


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