今日は、待ちに待った社員旅行当日。
あれから彼女とのデートも控えて1ヵ月、特訓に特訓を重ねた遼と野坂、特に遼は腰を痛めて大変だったが、それもお仕舞い。
やっと、本番の日を迎えることとなった。
「ノエル、専務と野坂さんの余興が楽しみね」
「うん。でも、自分の方も気になっちゃって、それどころじゃないかも」
ノエルの所属する部署でも余興をやるのだが、ある女性アイドルグループをもじったモーモー娘。
なぜか頭に牛の被りモノをして歌って踊るという、遼達に比べれば全然可愛いものではあったが…。
ただ、若くて可愛いノエルと亜佐美は一番前に立たされてしまうので、見られるのが恥ずかしい。
「あぁ、でも専務。大丈夫かしら?ノエルのあんな姿を見ても」
「そうなのよねえ。それが、ちょっと気にはなってたんだけど」
バックの男性陣は牛の着ぐるみを着て踊るのだが、ノエルを含む女性陣はというと、牛の被りモノだけでかなり露出度の高い衣装を着ければならない。
あれを見た遼が、何て言うか…。
「まぁ、あたしとしては、それも見てみたいわね。専務の動揺したところ、なぁんて」
暢気に言う亜佐美はスタイルもいいし、彼氏が見に来るわけじゃないから結構楽しみにしているが、見られるノエルの身にもなって欲しい。
集合場所の駅には、既に十数台の大型バスがズラリと並んでいる。
それを見ると、まるで学生時代の遠足みたいでワクワクしてくるから不思議だった。
予定では、お昼頃にハワイアンズに到着してその後は自由行動、そして夜6時からは余興を含めた大宴会が始まる。
一方、幹部ばかりを乗せたバスには遼と野坂がいたが、表情は暗い。
それというのも、せっかくノエルと一緒に行けるというのにちっとも接点がないからだった。
「なぁ、野坂。何なんだよ、このバスはさぁ。オヤジぱっかりで」
「仕方ないですね。秘書課の女性は、全員総務部のバスに乗ってますから」
秘書課の女性達はみんな、総務部所属なのでそっちのバスに乗っていたから、このバスは役員の男性ばかり。
それも、オジサン揃い…。
はっきり言って、つまらない。
「あ〜ぁ、俺もノエルと同じバスに乗りたかったな」
今頃、みんなで楽しくやってるんだろう。
…クソっ、こんなことなら自分の車で行くんだったな。
ノエルのことを想いながら、不貞寝するしかない遼だった。
+++
数時間走って、バスはハワイアンズに到着した。
不貞寝していた遼と違って、ノエルと亜佐美はバスの中でも社員旅行委員の人達が飽きさせないよう色々なことをやってくれたので、あっという間だった。
バスが違った欄と待ち合わせをして、ノエルと亜佐美は早速、ウォーターパークに行くことにする。
遼が心配していた水着姿だが、大丈夫だろうか?
「ノエルちゃん。それ、おニュー?」
胸元の大きなリボンがポイントの白いビキニ、透けたミニスカートがなんとも可愛らしさとセクシーさをミックスしたところは、ノエルにはぴったりではあったが…。
「そうなんだけど、変かな」
欄がノエルの水着姿を見て、一瞬だったが表情が変わったのを見逃さなかった。
―――可愛いと思って選んだのにイマイチ、だったかな?
来る前に散々、遼から水着のことを言われたノエル。
気持ちはわかるけど、海に行く予定があるわけでもないし、こんな時しか着られないからやっぱり最新流行のモノを選びたいとこれを選んだのが間違いだったのだろうか…。
「ううん、そんなことないわよ?すごく似合ってるけど…」
「欄はね。ノエルがあんまり可愛いいから、心配なだけ」
間に入ってくれた亜佐美だったけど、ノエルには意味がわからない。
「心配って?」
「ほら、見て。あの人達、ノエルのこと見てる」
亜佐美の視線を追ってみると、確かに3人組の若い男性がこっちを見ている。
でも、それがノエルに限らないと思うのは、亜佐美も欄もシックなビキニがスレンダーな二人によく似合っているから。
「何も、あたしとは限らないでしょ?」
「ノエルのそういうところが、無防備だって言うの。そんな格好で、一人で歩いたりしちゃダメなんだから」
亜佐美と欄に両脇をガードされるようにして、ノエルはプールに移動する。
―――そう言えば、遼と野坂さんはどうしているのかしら?
プールに入るって感じはしないから、きっと温泉にでも入ってるのかな?
だけど、二人が温泉って…。
◇
「あぁ〜なんだかんだいって、温泉は気持ちいいな」
「そうですね。日頃の溜まった疲れが、取れていくようですね」
ノエルの想像通り、遼と野坂は仲良く温泉に浸かっていた。
なかなか忙しくて旅行にも行けない二人にとって、この社員旅行はつかの間の休息だったのかもしれない。
「でもなぁ、野坂と温泉ってのもどうなんだ?この歳で役員なんてものになるとさ、同期とも疎遠になるし、なんだか寂しいよな」
まだ、27歳の遼。
本来だったら、同期とワイワイ羽目を外しつつも楽しく過ごしているはず。
それが、役員になったばかりに同期とは疎遠になり、気が付けば側には野坂しかいない。
みんなで飲みに行くなんてこともないし、それがなんだか寂しかったりもしていたのだ。
「私はこの歳ですから、あまり気にはなりませんが」
30を過ぎている野坂は、そういうこともあまり考えてはいなかった。
ずっと一人だと思っていたところへ、尊敬する上司の計らいで素敵な彼女までできたのだから、それ以上何を望む必要があるのか。
「あ〜ぁ、ノエル達は今頃、プールで泳いでるか、スパにでも行ってるんだろうな。カーっ、水着姿、見たかったぁ」
一応、露出度の低い水着を着るようにと言ってはあったが、やっぱり心配だ。
可愛い、ノエルの水着姿を人前にさらすなんて…。
「この際、変態コンビとか思われてもいいや。野坂、俺達もちょっと見に行こうぜ」
「え…」
変態コンビ…。
いくら何でもそれは…と思ったが、大の男が二人でいたら変に思われるかもしれないけど、何もそこまで言わなくっても。
それでも、自分の彼女の水着姿は見たいと思うし、他の男の視線も気になる。
ここは、言う通りに見に行くしかないだろう。
遼と野坂は早々に温泉を出ると、ノエル達を探しに行くことにした。
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