始まりはHoly Night
STORY17


「いないな。ノエル達は、どこに行ったんだ?」

遼と野坂は、怪しまれないように…一応持ってきていた水着姿でサングラスを掛けて既にキョロキョロしてるところなど、周りには不審人物に映っていたかもしれないが、そこはいい男の二人。
別の意味で、注目を浴びていた。

「恐らく、ここにいると思いますが。これだけ人がたくさんいると、なかなか見つからないですね」

野坂の頭に付いている触角が(実際は見えません…)鋭く反応し、ウォーターパークにいると確信してここへ来たが、いくら彼女達が目を引くといっても、人が多くてなかなか見つけられない。
そんな時、数人の若者がヒソヒソと何やらナンパ計画を企てている会話が聞こえてきた。
ちなみにこれを鋭く察知したのは、遼の頭に付いている触角で…。

「ん?」

奴等の視線の先には、探していた愛しい彼女…まさか…。
…っつうか、ノエルっ!何なんだ、その水着は〜可愛過ぎるだろうがっ。
くぅっ、あれほど言ったのにぃ。
あまりに可愛い彼女の姿に思わず見惚れていた遼だったが、その隙に彼らはノエル達3人のところへと歩みを進めていた。

「専務」

真剣な表情で黙って頷く遼の後ろを、野坂が水を掻き分けるようにしてぴったりと付いて行く。
彼女達は水と戯れるようにしてはしゃいでいたせいか、ナンパ野郎に遼と野坂にも気付いていない。

「ねぇ、彼女。3人で来たの?俺達もちょうど、3人なんだよね」と声を掛けたのは、ついさっきノエルのことをじっと見つめていた若者だった。
年齢は20代前半くらいで3人とも外見的にはそこそこだと思うが、いわゆる遊んでいるという感じ。
やっぱり狙っていたのだろう、移動したにも関わらず後を付いて来ていたとは…。

「せっかくですけど、あたし達、3人じゃないんで。ごめんなさいね」

素早く断りを入れたのは亜佐美だったが、顔は満面のスマイルを浮かべているものの、口調はかなり低い。
欄もノエルを隠すように一歩前に出る。
3人とも、とにかく目立つから狙われるのは当然かもしれないが、その中でも一際ノエルが可愛らしいから。

「他に誰かいるの?」

3人以外、気配がないのだから彼らがそういうのは当然だし、亜佐美も口からデマカセ、取り敢えず言ってみただけで全く根拠はなく…。

「悪いな。俺達も、一緒なんだ」

そんな時、まるで天の助け、聞き知った声に真っ先に反応したのはノエルだった。
―――遼…。
来てくれたのねと思ったけれど、その姿はなんとも怪しい…。

それより、男の声に3人の若者は慌てて首だけ振り返ったが、遼と野坂を見て体を捻ると数歩後ずさる。
サングラスを掛けたちょっとチャラ男風に見える遼とは対照的に、野坂は妙なオーラを放っていた。
もちろん、欄だけは王子様に見えたけれど…。

「そうでしたか。やぁ、てっきり女の子3人なのかなぁ、なんて。あはは…」

最後は顔を引きつらせて無理矢理作り笑いをしながら、若者はブクブクと水中に潜るとどこへともなく消えて行った。

「ノエル、ちょっとこっちへ」

おいでおいでと手招きする遼のサングラスで瞳は隠れて見えないけれど、キュッと口角を上げて光る白い歯はなんとなく嫌〜な予感を漂わせていたが…。
ゆっくりとノエルは水を掻きながら、遼の元へ。

「ありがとうございます。遼のおかげで助かりました」
「ほんとにそう思ってる?ったく、そんなめちゃめちゃ可愛い格好して。あれほど、言ったのに」

「似合い過ぎだろ」と、サングラスを指で摘まんでマジマジと見つめる遼に、急に恥ずかしくなってくる。
ここで顔を合わせるとは思っていなかったし、彼氏いない暦21年だったノエルにはこんなふうに二人でプールに来ることなんて想像すらしていなかったのだから。
―――でも…今、似合ってるって言ってくれた?
その言葉は、やっぱり嬉しくて…。

「ごめんなさい。あの、今の…」
「え?」
「似合ってるって…」

…やめてくれ、そんな目で見上げられたらヤバイだろ。
人目なんか気にせず思いっきり抱きしめたいところだったが、今日に限っては社内の人間が周りにわんさかいるわけで、だからといって別に我慢することもないけど、彼女のことを思うとそれもできない。

「あぁ、似合ってる。可愛いよ」

言葉だけでなく…とは思っても、ギャラリーが…。
愛の囁きならここじゃないところでやってくれ!と言わんばかりに、3人がニヤニヤとこっちを見つめている。

「良かったわねぇ、ノエル。専務に褒めてもらえて」

この中で唯一、彼氏が同じ会社に勤めていない亜佐美はちょっぴり妬けたかな。
とはいっても、この場で大っぴらに愛情表現できない二組のカップルの方がお預けを食らって辛いかも。

「でも、お二人が私達と一緒にいても大丈夫ですか?」

欄が心配そうに、辺りをキョロキョロと見回している。
遼はサングラスを掛けていて、すぐに彼とはわからないが、美人モデルとの噂が週刊誌に載ったこともある。
イケメン専務とOLの恋が社員に知られれば、すぐに広まってしまうから。

「俺はいいけど、ノエルがなぁ」

このままだと、またさっきみたいなことになり兼ねない。
心配だが、ベッタリくっ付いているわけにもいかないし…。
…やっと、逢えたのになぁ。
ここでお別れは、寂し過ぎるぞ。

「私は平気ですよ。こんなに怪しい遼を誰も専務だなんて、思わないです。せっかくですから、みんなで楽しく過ごしましょ?」

…えっ。
確かに怪しいが、だからって…。
これを専務に言えるのは、世界中探してもノエルだけ…かな?

「まぁ、ノエルがそう言うなら。それに5人だったら、大丈夫だろ」

冷たくあしらわれたらどうしようかと思った遼だが、少々疑問は残りつつも、またまたノエルの優しさに甘えることにする。
5人はプールを後にして、今度は水着のまま入れる温泉へ。

…しっかし、野坂と二人っきりで入った温泉とは雲泥の差だな。
可愛いノエルと一緒に温泉に入れるとは、なんて幸せなんだろう。
魔の余興まで、ほんのひと時を楽しく過ごす遼だった。


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