始まりはHoly Night
STORY5


「ノエルの友達とか知り合いに、彼氏募集中って女の人いないかなぁ」
「どうしたんですか?急に」

やっと仕事も落ち着いてきて、遼はこうやってノエルと外でデートする機会もできた。
家でまったりと二人で過ごすのもいいが、彼女は目を引くから彼氏としてはちょっと自慢だったりして。
その反面、心配でもあるんだけど…。

「いや、野坂にさ。誰かいい人、いないかなと思って」
「野坂さんに?」
「あぁ。あいつ、俺との付き合いは長いのに全然そういう話をしてくれなくて、この前飲みに誘って聞いてみたんだよ。そうしたら、付き合った女性につまらないって言われたらしくてさ。あいつ、それがトラウマになってんだな」

半ば無理矢理、遼は野坂から聞き出したのだったが、それを聞いてつい彼女を探してやると言ってしまったのだ。
その気持ちに嘘はないが、いざ探すとなるとこれが難しい。
遼だってノエルとは運命的な出逢いと言ってもいいくらいだったから、本当なら周りがとやかく言うことではないのだろうが…。

「野坂さんは素敵な人だし、とっても大人で、つまらないなんてこと…」

亜佐美も野坂のことは素敵な人だと言っていたし、ノエルだってそう思う。
無口だけど、とっても優しいのに…。

「だろ?でさ、野坂の全てをわかってくれる女性を俺が探してやる!て言っちゃったんだよ」

―――遼ったら、だからさっきあんなことを聞いたのね?
でも、探してやるっていってもねぇ…。
野坂さんに似合う素敵な女性なんて、すぐには見つからないと思うんだけど…。

「だから、私に聞いたんですね?」
「あぁ、誰かいい人いないかな」
「野坂さんに似合うような素敵な人を探すのは、大変だと思います。それに下手に紹介しても、野坂さんが気を使うんじゃないですか?」
「やっぱり、ノエルもそう思うよな。実はさ、言ってから思ったんだけど、あの時は頭に血が上っちゃって」

遼は野坂のことを誰よりも信頼しているし、尊敬もしている。
だからこそ、こんなことを言ってしまったに違いない。
―――う〜ん、野坂さんに似合う人かぁ…。

「わかりました。ちょっと、意識して探してみますね。ところで、野坂さんはどんな人が好みなんですか?」
「あぁ。あいつさ、恥ずかしがって言わないんだけど。ノエルみたいな子が、いいらしいぞ?」
「えっ、私…ですか?」

―――野坂さんは私みたいな子供じゃなくて、もっと大人な女性が好みなんだと思ってたのに。

「ほら、30過ぎてるし、同年代の女性だと強いだろ?だから、歳の離れた子がいいんだろうな、きっと」

クスクス笑う遼に、なんとなく想像できなくもない。
野坂に似合うのは大人な女性と思いがち、実際本人もそういう女性としか付き合っていないから、上手くいかなかったのかもしれない。

「野坂にはノエルを好きになってもだめだからって、言っておいたから。ノエルは、俺のモノだからな」

ノエルの腰に腕を回すと、自分の方へ抱き寄せる。
この世の男ども全てにノエルは俺のモノなんだと、遼は叫びたいのを抑えて。

「はい。野坂の話は取り敢えず、ここでおしまい。俺、お腹減っちゃってさ」
「遼ったらぁ」

暢気な遼に呆れながらも同じくお腹が空いていたノエルは、野坂のことを思いながら今は彼との楽しい時間を過ごすのだった。

+++

「ノエルちゃん、おはよう」
「あっ、欄ちゃん。おはよう」

いつものように遼に車で会社の近くまで送ってもらい、降りたところでバッタリと伊崎 欄(いざき らん)に会って声を掛けられた。
彼女はノエルと同期だったが、大学卒で2歳年上の営業部に所属するバリバリのキャリアウーマン。

「見ぃちゃったぁ」
「え…」

遼と付き合っているのを知っているのは今のところ亜佐美だけ、やっぱり彼氏が自分の会社の専務となれば色々噂されてしまうし。

「ノエルちゃん、専務とお付き合いしてるのね」
「欄ちゃん、あのね」
「大丈夫、誰にも言わないから。でも、羨ましいなぁ。毎朝、送ってもらえるなんて」

二人で肩を並べて、本社ビルへと歩いて行く。
欄とは研修中、亜佐美と共にいつも一緒にいた仲良しだったが、配属されてからはなかなか会って話すこともできなかった。
2歳年上だけあって落ち着いているし、それにとても綺麗。
彼女の彼氏はとっても素敵な人なんだろうなぁとノエルは勝手に思っていたが、実際はどうなのか?

「うん。ラッシュに巻き込まれなくて、すっごく楽チン」
「やだぁ。そこは『そんなことないわよ』とか、言ってよ」

あまりに素直に答えるノエルに、欄は顔は笑いながらも少しだけ悲しくなってくる。
素敵な彼氏、まして会社の専務に毎朝送ってもらえるなんて…。
それに比べて自分は、まだ24歳だというのになんだかおばさんみたいに疲れてる…。

「だってぇ、本当のことだもん。そういう、欄ちゃんだって」
「私?私には、そんな人いないもの。車で送ってくれるような、って言うより素敵な彼氏自体がね」
「え?欄ちゃん、彼氏いないの?」

―――うそ…欄ちゃんに彼氏がいない?!
こんなに綺麗な人に?絶対信じられな〜い。

「何よぉ、そんな驚かなくてもいいでしょ?こんなくたびれた女に男の人なんか、見向きもしないもの」
「そんなことないでしょ。欄ちゃん、すっごく綺麗なのに」
「会社に入って1年経たないうちにフラれちゃった。女は仕事なんてしなくていい、『俺は、学生の頃の可愛いお前が好きだった』ですって」
「それ、ひどい」
「でしょう?でも、男の人って、私みたいに仕事ばっかりでつまらない女は嫌いなのね」

ビルの中に入ると、たくさんの人がエレベーターの前に並んでいる。
チーンという音と共に目の前の扉が開き、吸い込まれるようにして二人も中へ入って行く。
欄には大学時代から付き合っていた彼がいたが、就職したことでお互いがすれ違うようになり結局は別れることに。
彼にしてみれば、まさか欄が仕事に生きる女になるとは思っていなかったのだろう。
漠然とだが、腰掛程度で働いてその後は結婚。
そんなふうに考えていたのかもしれない。

「じゃあ、ノエルちゃん。今度、亜佐美と3人でご飯でも食べに行こう?彼氏の話も聞きたいし」
「うん、亜佐美には言っておくね」

先に下りていく欄の後姿を見送りながら、ノエルはふと思った。
―――欄ちゃん、野坂さんのことを話したらどう思うかしら?
二人を並べたらとてもお似合いのカップルだと思うが、こればかりはノエルがなんとかしようとしてそうなるものではない。
亜佐美と一緒にご飯を食べながら、それとなく聞いてみよう。


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