始まりはHoly Night
STORY6


今朝のことを亜佐美に話すと二つ返事でOKしてくれ、すぐにお店のリサーチをして日程を決める。
こういうことになると亜佐美はとっても早い。
彼氏とデートも楽しいけれど、同年代の女性同士で集まって美味しいものを食べながら話すのもまた別の意味で楽しいから。

「さっき、欄ちゃんに予定を聞いてみたんだけど、週末は大丈夫だって」

早速、ノエルはメールで欄に週末の予定を聞いてみたのだが、大丈夫だという返事が返って来た。
仕事を無理にでも切り上げて行くからという彼女の言葉に思わず笑みが浮かぶ。

「良かった。じゃあ、あたしの方でお店の予約を入れておくわ」
「亜佐美にお願いしちゃってもいい?」
「いいわよ、任せて」

ポンッと胸を叩く亜佐美。
久し振りに3人で会えると思うと、週末がとても待ち遠しかった。

+++

「欄ちゃん、忙しかったんじゃないの?」

楽しみにしていた週末ではあったが、しっかり定時であがった欄にノエルは少し心配になった。
あの時は仕事を無理にでも切り上げて行くからと言っていたものの、まさか本当にそうしたんじゃないだろうか…。

「まぁ、無理に今日中に終わらせなければならないものでもなかったし、たまにはいいでしょ?私が定時で帰っても、誰も疑わなかったもの」

いつもなら何時間か残業して帰るのが当たり前の欄だったが、今日ばかりは定時の鐘が鳴ったと同時に席を立った。
社交辞令ではあったけど、隣の席の欄より1つか2つばかり年上の男性が、『伊崎さん、デート?』なんて聞いてきたが、『いえ、同期の女の子で食事に行くんです』と言うと妙に納得されてしまった。
もう少し突っ込んでくれてもと心の中で思いつつ、くたびれ果てた自分を誰もそんなふうに見ていないのだなとちょっぴり寂しく思ったりして…。

「それより、お二人さんは良かったの?週末なのに彼氏とデートじゃなくて、私と一緒でも」
「うん、全然平気。あいつ、残業だって言ってたし。ちょっと帰りに寄ってみるつもりだけど」
「うん、あたしも。お友達と食事に行くって言ったら、ゆっくりしておいでって」

亜佐美もノエルも寛大な彼氏?!だから、友達と食事に行くからといって拗ねたりしない。
特にノエルは欄のことを遼に話していたから、尚更だった。

「いいなぁ、二人とも優しい彼氏がいて」

自分は彼女達より年上なのに彼氏がいない…と思うと、羨ましい気持ちでいっぱいになる。

「欄には絶対素敵な彼氏ができるから、焦ることなんてないの。さぁ、乾杯しよ」
「そうそう、欄ちゃん久し振りだもん。今日は、たくさん飲んで食べようね」

彼氏なんかいなくったって、こんなふうに思ってくれる友達がいればそれでいい。

「うん」

ボトルで頼んだ赤ワインをグラスに注ぎ、3人でカチンと合わせた。

今夜、亜佐美が選んだお店はカップルで来るよりは友達同士でワイワイやりたいようなそんなところ。
こういう場所だからこそ、欄に野坂の話をしやすいのではないかなとこっそりノエルが亜佐美に頼んだのだった。

「ねぇ、欄ちゃん。欄ちゃんは、どういう男性が好みなの?」
「私?そうねぇ」

面と向かって聞かれるとどういう男性が好みなのか、欄にもよくわからない。
ただ、今の自分を理解してくれる人がいいかなとは思う。
俺と仕事とどっちが大事なんだ!なんて言うような人では、絶対上手くいかないだろうから。

「あんまり、グイグイ引っ張っていくようなタイプはダメかも。かといって、決断力がない人も困るけどね。あと、仕事をもう少し頑張りたいから、そういうところも理解してくれる人かな」
「なるほど。年齢は?」
「年齢?あんまり気にしたことないけど、前に付き合ってた彼が同い年だったの。だから、上手くいかなかったのかなって」

―――うんうん、ということは野坂さんはピッタリじゃない。
大人だし、多分彼女が仕事を頑張りたいなら見守ってくれそう、それにグイグイ引っ張るタイプでもないけど、そこは専務付だものしっかりしているに決まってる。

「じゃあ、外見は?背が高い方がいい?」
「ノエルちゃん、なんだか芸能レポーターみたいなんだけど」

あまりの質問攻めに欄も芸能人になったような気分。
というか、ノエルがこんなに男性のことで聞いてきたのは、初めてのような気がするが…。

「ごめんね。いっぱい、聞いちゃって」

―――つい、焦っちゃった。
でも、どうやって聞いたらいいのかな?
単刀直入に野坂さんの話をするべきなのか、遠回しにこういう人がいるんだけど…みたいに聞いてみた方がいいのかどうか。
あ〜ん、慣れてないからわからない。
ノエルはすがるような目で亜佐美を見ると、彼女は大丈夫とばかりにニッコリ微笑む。

「あたしとノエルの知っている人で、社内に欄好みの男性がいるんだけど。あっ、既に知ってるかも」
「え、私好み?」

…誰だろう?
同じ営業部に欄好みの男性はいない。
社内でも、そういう人を見掛けたことはなかったけれど…。

「欄ちゃんは、専務付をしてる野坂さんって知ってる?」
「専務付って、ノエルの彼氏の?ううん、知らない」
「そっかぁ。まぁ、そういうあたしも亜佐美も知らなかったんだけどね」

最近はノエルもよくエレベーターで会うが、以前はノエルも亜佐美も野坂のことを全く知らずに怪しい人物だと思ったくらいなのだから、欄が知らなくても当然かもしれない。

「その野坂さんが、私好みなの?」
「うん。野坂さん、とっても素敵な人なんだけど、付き合った女性に“つまらない”って言われてフラれちゃったらしいの。でもね、野坂さんはちっともつまらない人なんかじゃないのよ?それで遼が、あたしの彼氏がね、いい人を探してやるからって言っちゃって…。欄ちゃん彼氏いないって言ってたし、野坂さんにピッタリだと思ったの」

…なるほど、だから芸能レポーターみたいにノエルちゃんは質問してきたのね。
でも、専務付なんていったらすごく偉い人なのに自分なんかが相手では釣り合わない。
その前に見ていないから、何とも言えないんだけど…。

「ありがとう。二人の気持ちは嬉しいけど、専務付なんて偉い人とは。それにその人だって、私なんか―――」
「そんなことを言ったら、あたしはどうなるの?」

今は専務で、将来は社長になるであろう人と付き合っているノエルはどうなるのか?
確かにそうだけど、欄にはすぐに“うん”と言えるものでもない。

「知らない男性って、ちょっと不安もあると思うけど。一度、会ってみたら?専務とノエルと4人とかで」
「そうしよう?無理に付き合うとか、そんなんじゃないから」

二人に頼まれてしまうと、断ることもできないわけで…。
暫く考えていた欄だったが、取り敢えず会ってみるだけ会ってみる?

「わかった。ちょっと会ってみるだけね」

欄の返事に嬉しそうに微笑むノエルと亜佐美。
再びグラスにワインを注ぐと、もう一度乾杯のグラスを合わせた。

…野坂さんかぁ。
私好みって、どんな人なんだろう?
ドキドキ半面、ちょっぴり心はワクワクしている欄だった。


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