永遠(えいと)の恋
story10


綾葉は英語以外の他の科目も高得点で、永遠も驚いたが本人は『家庭教師の先生がいいからですよ』なんて、案外あっさりしたものだった。
でも、母親は相当喜んでいて、ご褒美にとバイト料を奮発してくれたのがなんだか申し訳ない気がして…。
だから、このお金は彼女との約束だったデートに使わせてもらうことにする。
そして当日、永遠は待ち合わせの駅で彼女が来るのを待っていた。
───あと、15分以上もあるか。
約束の時間よりもだいぶ早く着いてしまったのは、スムーズに電車に乗り継ぐことができたからであって…。
というのは言い訳で、家にいても落ち着かないから早く出てきてしまったのだ。

「先生、おはようございます。ごめんなさい。遅くなってしまって」
「おはよう。まだ約束の時間よりずっと早いんだから、遅くなんてないよ」

永遠の姿を見つけて走って来たのか、綾葉の息が荒い。
今日の彼女は、膝丈の清楚なワンピース。
スラっとした足につい目がいってしまうが、ここはそれを見透かされないように大人を装う。

「で、ここで待ち合わせてどこに行くのかな?」

実を言うと、永遠はまだこれから行く場所を聞かされていなかった。
当日のお楽しみだからと、綾葉が待ち合わせの駅しか教えてくれなかったからだ。
しかし、ここはデートを楽しむような人気エリアでもなければ、おしゃれな街とも言いがたいのに彼女はどうしてここをデートの場所に選んだのだろうか?

「行けば、わかりますよ」

「先生、早く行きましょう」と、永遠は彼女に腕を取られて歩き出す。
まさか、この歳で女子高生とデートをするとは思わなかったが、こんなにもワクワクするものだとは。
徒歩でどれくらいだろうか?着いた先は…。

「水族館?」
「はい。先生は、好きじゃないですか?水族館」
「あっ、いやそんなことはないけど。水族館なんて、高校生いや中学生以来、来てないんじゃないかな」

彼女がデートに選んだ先は永遠も予想外の水族館だったが、苦手なショッピングや映画などに誘われるよりはずっといい。
というか、水族館は姉の祐里香も好きだったところ。
───今の彼氏も、もうつき合わされたのか?
子供の頃から家族でよく行ったもんだなと、懐かしく思い出す。

窓口で大人2枚と言うと彼女が自分の分を払おうとするので、それを永遠が止める。

「今日は、俺の奢り」
「えっ、でも」
「君のお母さんから、臨時収入をもらったんでね。随分、奮発してくれたんだよ」
「それは、先生のものですから」
「頑張ったのは、君だからね」

そう言って永遠が二人分を支払うと綾葉はありがたくそれを受け、入口から中へ入る。
薄暗い館内は、一歩足を踏み入れただけなのに既に海底にいるような錯覚にさえ陥る。

「綺麗ですね」
「そうだな。でもここって、大きなトンネルの水槽があるんじゃなかったかな?」
「はい、そうなんです。私、それがすっごく楽しみで」

水族館の花形とでも言うべき巨大なトンネルになっている水槽は、圧巻らしい。
今日の綾葉はそれが楽しみでここへ来たと言ってもいいくらい、もちろんそれ以上に一緒に来てくれた相手が永遠だということの方が数倍も楽しみだったけれど。

順路に従って歩いて行くと、色とりどりの海の生物達が目に飛び込んでくる。
一瞬、ここが都会だということを忘れてしまうくらい。
「わっ、ペンギン。可愛いぃ」と嬉しそうに見つめる綾葉を見て、君の方がずっと可愛いと思ってしまう永遠。
少しでも彼女に合わせようと若作りでもないが、カジュアルな服装で来てはみたものの、果たして釣り合って見えるだろうか?

「先生っ、見て下さい。あっちにイルカがっ」

少し興奮気味の綾葉だったが、永遠は彼女に見惚れてしまい上の空で聞いていない。

「先生?」
「えっ?」
「つまらないですか?」

暗い表情の綾葉に永遠は慌てて「そっ、そんなことはないさ」と言ってみても、真実味がない。
頑張った彼女のお願いをきいてあげる約束でデートしてるのに、こんな顔をさせてどうするんだよ…。

「ほら、ちょうどショーが始まる時間だから。行こうか」
「はい」

さっきまでの明るい表情が戻った綾葉。
───良かった。
永遠は、そっと彼女の背に手を添えると歩き出した。


しっかりショーを堪能して余韻覚めやらぬまま、目の前に開けたのは綾葉が最も楽しみにしていたという巨大トンネルの水槽。

「わぁ、すっごい。本当に海の中にいるみたい」

天井を大きなエイや綺麗な小魚の群れが通り過ぎ、黒い影がと思ったら、サメなんかも優雅に泳いでいたりして。
これを見ていると、、日頃の悩みなどもちっぽけなことのように感じられる。

「すごいな」
「綺麗」

ありきたりでも、こんな言葉しか出てこないのだから仕方がない。
言葉で表現するよりも、これは実際に見るより他ないだろう。
暫く二人は呆然とその場に立ち尽くし、夢のような世界を堪能していた。

すると…。

「永遠?」

不意に名前を呼ばれ、こんな名は自分しかいないし、それにこの声は…。

「やっぱり、永遠だ。やぁ、偶然ね、こんなところで会うなんて」
「姉貴…こそ、何で」

目の前にいたのは姉の祐里香、そして隣には彼氏である航貴が。
水族館好きの姉のことを思い出したばかりだったが、どうしてこういう時に偶然にも会ったりするのだろう?

「先生?」
「あっ、いや。姉貴だよ」
「え、先生のお姉さん?」

「こんにちは」と挨拶する祐里香は、綾葉の憧れの女性。
一度会ってみたいと思っていたのが、叶うとは…。
想像以上に綺麗なお姉さんではあったが、永遠と並べて見るとすごく似ている。

「こんにちは。私、先生に家庭教師をしてもらっている松本 綾葉です」
「あなたが?あたしの後輩の。やぁ〜ん、可愛いわね。大丈夫?永遠、ちゃんと教えてる?意地悪なこと言ったりしない?」

祐里香はちらっと永遠の方に視線を向けてから、再び綾葉へ戻す。

「はい。お蔭様で成績も上がりましたし、先生にお願いを聞いてもらって、今日はデートなんですよ」
「そうなの、良かったわね。綾葉ちゃん」

「はい」と嬉しそうに返事をした綾葉にニッコリ微笑むと、祐里香は永遠の耳元で「ふ〜ん、そうなんだぁ」と意味深な言い方をする。
───なんだよ、その言い方は。
それを後ろから見ていた航貴もまた、そっくりな姉弟だなと思う反面、彼が祐里香にプレゼントを…。

「それより、俺達には紹介してくれないのか?」
「え?あぁ。はいはい、彼氏の航貴よ」

なんだか、適当な紹介の仕方だなと思わなくもないが、航貴が「はじめまして」と挨拶すると永遠と綾葉も見惚れてしまう。
祐里香が選ぶ相手とはどんな男性なのかと気にはなっていたのだが、似合い過ぎだろう。

「そうだ。良かったら、一緒にどう?」

せっかくの祐里香の誘いだが、男性陣の反応は微妙で…。
しかし、綾葉は違う…。

「はい」
「じゃあ、綾葉ちゃん。一緒に回ろうか」

───オイオイ、俺とデートじゃなかったのかよ…。
これは航貴の声でもあるが、こうなったら男は女性に従うしかないということだろう。
二人は苦笑しながら顔を見合わせると、彼女達の後ろを付いて行った。


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