女性同士はとても気が合うのか、祐里香と綾葉は楽しそうに水族館を見て回る。
しかし、初対面の航貴と永遠はというと…。
特に姉の彼氏と並んで歩く永遠にとっては、少々複雑な心境だった。
「せっかくのデート中だったのに悪かったね。祐里香が無理言って」
「いえ。俺は、彼女に誘われただけなので」
「そう?ならいいんだけど」
微妙に会話が続かない。
年齢差もあるし、永遠から見れば航貴は大人の男という感じで、近寄りがたい存在に思えてしまう。
「なぁ、一つ聞いてもいいかな?」
「何ですか?」
「祐里香にあげた、誕生日のプレゼントなんだけど」
───姉貴にあげた誕生日のプレゼント?
すぐに思い出せなかった永遠だったが、プレゼント、プレゼント…。
あぁぁぁっ!!
プレゼントって、ゴムのことかよ。
いやぁ、あれは単なるジョークだよ、ジョーク。
ヤバっ。
彼氏にあんなもん持ってるところを見られたら姉貴の品位が疑われるだろう、っていうか、それをあげた俺はどうなるんだ。
俺は…。
「あっ、えっとあれは…その…」
「助かったよ」
「は?!」
何を言われるかと思えば、助かった?!
「俺も、いいところで寸止めくらうのはちょっときつかったんでね。君のおかげで助かったよ」
「はぁ…」
───何だ、そういうことか…。
そうだよな。
付き合ってるんだったら男と女なんだし、そうなっても…いや、恐らくそれが普通だろう。
しかし、実際そういう話をされるとどうなのか。
どうにも生々しいところを想像して、大好きだったはずの姉貴が汚らわしい女性に思えてしまう。
そして、彼氏であるこの人も…。
「ごめん、誤解しないで欲しいんだ。もちろん、俺は彼女との将来もきちんと考えている。君とも会って話したいと思ってた」
───え?
俺は一体、何を考えてたんだ…。
この人は、本気で姉貴を愛してる。
それなのに…。
「あれは、ジョークなんです。ちょっと姉貴をいじめたくなって、つい…。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、姉貴をよろしくお願いします」
「俺こそ、よろしくお願いします。でも、わかるな。永遠君がいじめたくなる気持ち。祐里香って、マジに返してくるからさ」
「そうなんです。それに未だにプリン好きで、お子様だし」
「そうそう。プリン好きなんだよ」
───何で、姉貴の話でこんなに盛り上がってるのか…。
でも、不思議とこの人が嫌だとは思わない。
将来、義兄になるかもしれないが、この人ならそうなってもいいのかも。
「彼女もそうなんです」
「彼女って、綾葉ちゃんのこと?」
「はい。彼女もプリンが好きで、どことなく姉貴に似ていて」
「そっか。永遠君は、シスコンなんだ」
「やっ、やめて下さいよ。俺のどこが、シスコンなんですか」
───見透かされてる…。
こうなったら、シスコンと言われようと否定はしない。
しないけど…。
それにしたって、鋭過ぎるだろう?
「俺にも姉貴がいるんだけど、祐里香はどことなく似ている。だから好きになったわけじゃないけど、気付かないうちに追い求めているのかもしれないな」
航貴にも姉がいるが、永遠と同じでシスコンと言い切ってしまってもいいくらい。
その存在が、どこか心の中にあったことは事実だった。
だからといって祐里香を好きになったわけではないが、以前はそういうところがあったことは否定しない。
本気で愛する彼女に逢うまでは。
「俺、どこか姉貴を自分の中で美化していたんだと思います。理想の女性みたいな」
なまじっか綺麗な姉が身近にいたせいか、周りの女性と比較してしまう。
勝手に自分の中で作り上げた妄想でしかなかったのに。
「でも、今は違うんだろう?」
「稲葉さんは、何でもわかるんですね」
「俺と同じ匂いがするからね、永遠君は。で、どうなんだい?彼女とはもう」
「いえ、まだそんな。これでも家庭教師なので、受験生と付き合うことなんてできませんよ」
祐里香の話では付き合っているような感じだったが、まだそこまではいっていなかったということ。
「あぁ、そうだね。彼女は受験生なんだ。それも苦しいな、お互い」
「彼女はどうか、わかりません」
永遠がそう思っていたとしても、綾葉は単なる憧れかもしれない。
デートに誘ったのだって。
「俺には、そうは思えなかったけど」
「そうですか?」
「お互い苦しい思いをするなら、いっそ楽になってしまった方が、受験にもいい影響を与えるんじゃないかな?」
「そうかもしれませんが、彼女の口から本当の気持ちを聞いたわけではないので」
航貴の言うように想いをぶつけてしまった方が、結果はいい方へ向くかもしれない。
しかし、それは仮定であって、真意は彼女以外の誰にもわからない。
もし、焦って、いい意味でうまくいっていた信頼関係に今何かあっては困る。
「そうだね。俺で相談に乗れることがあったら、いつでも言ってくれて構わないから。あんまり、役には立てないかもしれないけど」
「ありがとうございます。その時は、是非」
「じゃあ。今度、飲みにでも。あっ、これは祐里香にはナイショで」
親友の拡にも、ここまでは話せなかった。
第三者だから、それとも、同じ境遇だったからか…。
「何よ、あたしにナイショって。さっきから、二人して真剣に話してるようだけど」
後ろを付いていたはずの永遠と航貴が来ないからと綾葉と祐里香が戻って来たのだが、祐里香にナイショとかいって一体、何を真剣に話しているのだろう?
「男同士の話だから」
「そうそう、姉貴には関係ない話」
「二人とも、いつの間にそんなに仲良しになったわけ?」
誰にでも打ち解けるような性格ではなかった永遠が、航貴とこんなふうに仲良くなっていたことに祐里香は驚きを隠せない反面、もしかして義兄となるかもしれない相手とうまくいってくれることは嬉しいこと…だったけど…。
「俺の義兄さんになるかもしれないんだから、仲良くするのは当然だろ?」
「えっ、そうなんですか?航貴さんが先生のお兄様に?」
「ヤダっ。綾葉ちゃんったら、気が早いって」と、一人慌てる祐里香に対して、永遠と航貴は至って普通にしている。
そんな祐里香と航貴を羨ましく思う綾葉だった。
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