永遠(えいと)の恋
story12


姉カップルと合流したことでデートらしいデートでもなくなった永遠と綾葉だったが、彼女は憧れの祐里香に会えてかなりご満悦のよう。
永遠もまた、航貴と知り合えたことはプラスになったと言っていい。

「さぁ、リフレッシュしたことだし。次は、勉強だな」
「えっ、これから夏休みなのにですか?」

予想以上の好成績を修めた綾葉にとっては、高校生活最後の夏休みを有意義に過ごすはずだった。
先生と一緒にいられるのは嬉しいが、勉強はちょっと勘弁して欲しい…。

「当たり前だろう?夏休みが肝心なんだぞ。ここで差を付けなくて、どうする」
「そうなんですけど…。もう、大丈夫ですよ。このまま行けば、短大には合格できますから」

綾葉の言うように今のままならば、ほぼ間違いなく短大には合格できる。
担任との面談でも、そう言われていたから。

「短大受験は止めて、大学受験に切り替えること」
「えぇ?どっ、どうして」
「何で、初めから楽な方を選ぶんだ?せっかくここまでやったんだから、もっと上を目指そうと思わないのか?」

永遠は綾葉の勉強をここ数ヶ月みてきたが、とても成績が悪いようには思えない。
初めに母親から家庭教師を依頼された時に聞かされた理由も、体裁さえ整っていればいいからというのもいい加減だと思ったし、このまま勉強を続ければ短大でなく大学にも進学できるはず。
なぜ上を目指さないのか?それがどうしても腑に落ちなかったのだ。

「私は別に楽な方を選んでるわけじゃありません。先生にそんなこと言われたくないです」

椅子をクルッと横に向け、永遠に背を向けてしまった綾葉。
───怒ったのか?
少し言い方はきつかったかもしれないが、これはずっと永遠自身が思ってきたこと。
しかし、彼女のこの反応は意外だったかもしれない。

「いや、ごめん。ただ、もったいないと思ったから」

怒らせるつもりはなかったが、結果的にそういうことになってしまったことは素直に謝って許してもらうしかない。
これで、気まずくなるようでも困るし…。

「いいんです。先生にそう思われても、仕方ないですから」

綾葉だって、永遠の言うことはわかる。
お金にも不自由しない今の生活に甘えているわけではないが、自分が何になりたいのか、将来どうするのか、考えてもどうしていいのかわからない。
ただ、漠然と思うのは早く自立したいということだけ。
短大を選んだのも、そういうことだった。

「俺も親のスネをかじってる身なわけで、偉そうなことは言えないけどな。勉強が少しくらいできたからって、将来、稼いで返せるわけじゃない。その点、姉貴は違ったな。早く自立したいからと短大行って、さっさと家を出て行った」

姉の祐里香は勉強が好きじゃないからと、早くから自立する道を選んで出て行った。
───もしかして、彼女もそうなのか?
何もできないお嬢様のように思っていたが、実際はそうではないのかも…。

「私、勉強も好きじゃないし、何になりたいっていう希望もなくて。先生のお姉さんみたいに自立したいっていう気持ちはあるんですけど、今のままだったらきっと無理ですね」
「そんなことないさ。英語だって、頑張ったから89点取れたんだろう?」
「先生」
「やるだけやってみよう。そうしたら、将来の選択の幅も広がってくるかもしれないし」

そっと肩に手を添えて、優しく微笑む永遠に綾葉は力強く頷いた。

+++

「まぁ、先生。夏休みなのにお勉強をみていただいて、ご迷惑じゃなかったんですか?」
「いえ。今が綾葉さんにとって、一番大事な時ですから」

週のほとんどの時間を綾葉の勉強に費やしていた永遠に、暢気な母親が冷たい飲み物とデザートを持って部屋に入って来た。
お嬢さん学校に入れてしまえば、後は金持ちのところへ嫁にやればいいというような考えなのかもしれないが、それだからダメなんだ。
そう心の中で思っても、さすがに口に出すことはできない。
ニッコリ微笑んで、ありがたくそれを受け取っておく。

「あっ、プリン」
「プリンの前にこの問題を解いてからな」
「えぇ〜」

綾葉のブーイングが聞こえるが、ここで甘やかしてはいけないと永遠は敢えて厳しく徹する。
無理したからといって頭に入るとは限らないが、彼女の場合はメリハリが重要だということをなんとなく前回の試験で知ったような気がしたから。

「先生、出来ました」
「どれどれ」

回答を見ている側から、綾葉はプリンを食べ始める。
本当に好きなんだなと思うし、またその姿がめちゃめちゃ可愛いのだが、見惚れているわけにもいかず…。

「大方あってるけど、ここがちょっとかな」
「先生、細かいです」
「こういうケアレスミスが、合否に響くんだぞ?」
「は〜い」

「返事だけはいいんだな」と苦笑しつつ、彼女の頑張りも認めている永遠はそれ以上言わずにアイスコーヒーを口にする。
そして…。

「今度の日曜日の花火大会に誘ったら行く?勉強も頑張ってるし、ここで息抜きも大事かななんて」
「え…」

唐突な永遠の誘いに綾葉がプリンを食べながら、固まった。
実を言うと綾葉の方から誘おうと思っていたのだが、今回は何かのご褒美っていうこともないし、ちょっと躊躇っていたのだった。
だから、ものすごく嬉しいわけで…。

「俺が誘うより、ほら、蒼君だっけ?彼と行った方がいいのかもしれないけどさ」
「いえ、先生と一緒に行きたいです。誘ってもらえると思わなかったから、すっごく嬉しいです」

「お母さんに新しい浴衣、買ってもらわなきゃ」とはしゃぐ綾葉に今からその姿を想像してしまう永遠。
───可愛いだろうなぁ、浴衣姿。
誘って行かないとは言われないと思っていたが、この笑顔を見せられると敵わない。
永遠自身も花火を見るなんて、子供の時に家族で行ったきりというくらい久し振り。
相手が綾葉でなかったら、恐らく誘うことはなかっただろう。

「でも、先生はいいんですか?私なんかと一緒で。せっかくの夏休みなのに、ほとんど勉強ばかりだし」

先生は気を遣って誘ってくれたんじゃないか?そんなふうに思う綾葉。
しかし、永遠はそんな気の利いた男ではないということ。

「勉強は引き受けた以上、最後までやるのが俺のモットー。それに言っとくけど、相手が君じゃなかったら誘ったりしないさ」

綾葉だから誘ったのだということを、わかってくれているだろうか?
もちろん彼女にとって今は大事な時だけど、思い出を作ることも必要なんじゃないかと永遠は思ったから。

「先生」

恥ずかしそうに言う綾葉の頬は、リンゴみたいに真っ赤に染まっていた。


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