永遠(えいと)の恋
story15


「夏休みも、すっかり終わったな。で、どうだったんだ?永遠の夏はさ」

すっかり街には秋風が吹き始めた頃、先に大学に来ていた永遠の隣に短い時が空いても相変わらずの拡がどっかと腰を下ろす。
院生ともなると夏休みも子供の頃のようにワクワクした気持ちで過ごすわけでもなく、いつもなら無駄とも思えるその長さに飽き飽きするくらい。
それも、今年は少し違っていただろうか?
彼女に想いを伝えたことで、特別恋人同士という甘い雰囲気があったわけでもないが、一緒にいるだけで伝わるものがある。
9月に入ってすぐ綾葉の学校では定期試験が始まるため、8月の後半はそれに合わせた勉強に切り替えた。
勉強がデートみたいなものでも、二人にはそれはそれで大事な時間だったと思う。
結果は前回以上の好成績だったことで担任の勧めもあって、永遠も言っていたように短大受験から大学受験へと切り替えた。

「拡こそ、どうだったんだよ」

わざとはぐらかすように言ったのは、綾葉とのことを自分から話すのがちょっと恥ずかしかったから。

「俺?俺は、愛しい彼女と楽しく過ごしたぜ」
「ほう。そりゃあ、良かったな」

───本当は、それを言いたかったんじゃないのかよ。
そう思った永遠だったが、お互い素直になったということで、この場はそれ以上言わずにヨシとしておこう。

「瞳には、お水を辞めさせた」

もちろん瞳の体のことも心配だったし、相手にしている客のことも気になっていたから、やっとというところだろうか。
───それにしても、どうやって辞めさせたのか?
あんなに言っても、聞き入れようとしなかったのに…。

「そうか。それも、愛の力か?」
「どうかな。俺のところに無理矢理、引っ張って来たんだ。でなきゃ、あいつ言うこと聞かないからさ」

学費と生活費を稼ぐには、どうしてもお水の仕事しかなかった瞳を説得するのは難しい。
だから、拡は強行手段に出るしかなくて、狭いワンルームに無理矢理彼女を引っ張り込んだのだ。
初めこそ、一人で頑張るんだからと強がっていたが、拡が言った『俺にだけは、弱さを見せて欲しい』の言葉を受け入れた形になった。
強がってるけど、本当はすごく弱い女性だということを拡は知っていたから。

「おめでとう」
「あ?おめでとうってな。俺達はまだ、結婚するわけじゃないんだから」
「どうせ、そうなるだろ?」

いつになるかは永遠にもわからないが、この二人はきっとそうなるという予感がしていた。
もしかして、案外それは、すぐのことなのかもしれない。

「なんかはぐらかされたけど、永遠はどうなんだよ。綾葉ちゃんとは」

───やっぱり、俺に話を振るのかよ。
どうしても、拡は永遠のことが聞きたいのだろう。
ここまできたら、隠すことでもないし。

「俺も、同じかな」
「同じって、え?綾葉ちゃんと」

驚いた顔の拡に散々、突っ込んでおきながら、この反応は何なんだと。
永遠にしてみれば、かなり早い行動に驚くのも無理はないか…。

「言って良かったのかどうか」
「いいに決まってるだろ。そうか、永遠もなぁ」

しみじみと頷く拡に、永遠は苦笑を返すしかない。
せめて彼女が大学に合格するまでもう少し待つべきだったのではないか、少なくとも大人であるはずの自分が口にしてはいけなかったのでは…。
自問自答を繰り返さなかったわけではないが、彼女の側にいると気持ちを抑えることができなかった。
身勝手な行動だと言われても。

「それで、キスはもちろんしたんだろ?その後は」

───オイオイ、何ていうことを…。
そりゃあ、キスはしたけど…。
その後は、いくらなんでも無理というもの。
一番大切な時期だというのに、それこそ永遠の良心が問われるだろう。

「あのなぁ。俺達はそんな」
「はぁ?キスもまだなのか?それはないよな。まぁ、その後は難しいか」
「当たり前だろ。彼女は受験生なのに」
「真面目な永遠先生は、大事な生徒には手を出さない。っつうか、もう出してるじゃん」

───調子に乗って、ったく…。
朝からする会話とは思えなかったが、姉の祐里香といい拡といい、どうして話がそっちにしかいかないんだ。
そうは言っても、いつも二人っきりで勉強していてキスだけで抑えるのは大変…。
これは、絶対口には出して言えない永遠だった。

+++

「大学の推薦入試まで、あと1ヵ月だったよな」

定期試験の結果を考慮して大学の推薦入試を受けられるかの最終判定が下るが、綾葉はそれを無事クリアしたから、あとは試験に通れば春には晴れて麗泉女子大学の学生となる。

「はい。なんだか、あっという間にここまで来ちゃいましたけど、先生のおかげで私の人生すごく変わった気がします」
「人生とは随分、大げさな気がするけど」

真面目な顔で言う綾葉につい、笑みがこぼれる。
綾葉だけでなく、永遠の人生も変わったのかもしれない。

「そんなことないですよ?先生に勉強を教えてもらわなかったら、短大に行ってどこかの会社にちょこっと勤めた後にお見合いとかで結婚してたかもしれないですし」

頑張ろうという気持ちさえも、あの時の綾葉にはなかった。
あったのは、迷いだけ。
それが、永遠に家庭教師をしてもらったことで自信もついたし、何より心から人を好きになって、その人に愛される喜びを知った。
綾葉にとってこの出逢いは、人生を変えるものと言っても、言い過ぎではないのだ。

「俺は、ただ手伝いをしただけ。頑張ったのは、他でもない綾葉なんだから」

想いを告げられた後、二人っきりの時は綾葉と名前で呼ばれる。
呼ばれる度にドキドキするけれど、特別な存在になったような気がしてとても嬉しかった。

「先生」
「あと少し、頑張ろう」

受験もそうだが、永遠には…。


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